020
キャサリの町へ到着した魔王と勇者は、門に出来ている行列に並ぶ。
「何か渡していますね」
「アレはお金かな?」
「お金ですか……魔界のお金は使えませんよね?」
「そりゃな~。俺の持っているお金も厳しいか」
「どうしましょう?」
「う~ん……入る方法なら他にもあるけど、情報が欲しいな。お金になりそうな物を渡せば通れるかも」
「でしたら、魔界産のお野菜でもいいのですね!」
「いや、逆に怪しまれるかも。ひとまず、俺が持っている魔獣の素材を渡してみるよ」
「お野菜、美味しいのに……」
魔王はどうしても魔界産の野菜を売り込みたいみたいで、しょんぼりする。
二人で話していると列が進み、魔王達の順番が来て勇者は門兵に話し掛ける。
「ここに来るのは初めてなんだが、通るのに何か必要なのか?」
「ああ。一人につき、銀貨5枚だ。そっちの女は連れか? なら、銀貨10枚だな」
「思ったより高いんだな」
「この先の町よりは安いぞ。それより後がつかえているんだから、早く払ってくれ」
「それが財布を落としてしまってな。魔獣の素材ならあるんだが、それでなんとかならないか?」
「……お前は商人なのか?」
「ああ。貴重な素材を売りに来たんだ」
「それなら、向こうで受け付けてやる。ついて来い」
「ありがとう」
勇者達は門兵に連れられ、兵士詰め所に案内される。怪しい者を取り調べをする部屋らしいが、商人と聞いたからか、丁重に扱われる。
「それで、どんな物を持っているんだ?」
「ビッグボアの牙なんてどうだ?」
勇者はリュックに手を入れ、アイテムボックスを開いて牙を取り出す。
「う~ん……それでは足りないな」
「嘘だろ? 銀貨10枚はするぞ。お釣りを貰ってしかるべきだ!」
「いや、ここでは銀貨5枚だ。他にも素材があるなら買い取ってやるぞ?」
勇者の反論に、門兵はニヤニヤと答える。
「くっ……そう言う事か。わかった。もう一本、牙を払う。それで通っていいんだろ?」
「ああ。毎度あり。これが通行券だ」
「……偽者じゃないよな?」
「正真正銘本物だ。信頼してもらえないと、また俺が稼げないだろ」
「ハッ! ありがとよ」
勇者は二枚の通行券をクシャッと受け取って、門兵の案内で門を潜る。しばらく歩き、門兵から離れると、今まで黙っていた魔王が勇者を心配して声を掛ける。
「あの……通行料は高かったのですか?」
「ああ。ボッたくられたみたいだな」
「あれ? さっきまで悔しそうにしていたのに、今はそうではないのですね」
「あれは演技だ。ケロッとして払うと、さらに要求してくる場合があるんだ。悔しがると、そこが底値だと勘違いするみたいだな」
「へ~。人族の方は、町に入るだけで駆け引きなんて起きるのですね」
「当たった奴が悪かったらな。たいていは、あんなに吹っ掛けて来ないさ」
「先ほど払った額は高かったのですか?」
「たぶん高いかな? この世界の相場はわからなかったけど、牙の値段は元の世界と変わらないみたいだ。その情報だけでも儲け物だよ」
「はあ……お兄ちゃんは慣れているのですね~」
「元の世界でもよくあったからな。さあ、ひとまず軍資金を仕入れよう」
勇者は露店を見付けては店主と会話し、どこで素材の買い取りをしているかを聞き、ズンズンと町を歩く。
魔王は町の損傷を確認して歩くが、心配していた損傷は無かったので、道行く人族を観察しながら歩く。
「う~ん……」
「どうした?」
「兵士らしき人はそうでもないのですけど、それ以外は痩せている人が多いのですね。皆さん、ちゃんと食べているのでしょうか?」
「さあな~? もっと情報を仕入れないとなんとも……」
「あ! あの男の子、ゴミ箱に手を入れていますよ。何か無くした物でもあるのでしょうか?」
「う~ん……痩せこけているし、ひょっとしたら、食べ物を漁っているのかもしれないな」
「え? お腹がすいているのですか?」
「お金が無くて、ごはんが食べれない事は、こういった町ではよくある事だ」
勇者の言い分に、魔王は足を止めて勇者に詰め寄る。
「ひどい……どうして食事を与えないのですか!」
「俺に聞かれてもな~」
「あ……すみません。でも……」
「サシャは人族に攻め込まれて困っているのに、人族に対しても優しいんだな」
「そうでした……ここに居る人は、全て敵でした……」
「別に全てを敵にしなくてもいいんじゃないか? 困っている人を助けたいと思うのは、人として当然だと思うぞ」
「お兄ちゃん……」
「まぁ魔王は、人かどうかは微妙だけどな」
「もう! からかわないでください!!」
「わかったわかった。ちょっと待ってろ」
勇者は小走りに男の子に近付き、パンを数個手渡す。それだけすると、逃げるように魔王の元へ戻る。
「お兄ちゃん! ありがとうございます」
「礼なんていらない。アレでは根本的な解決になっていないからな」
「確かに……」
「ほら、そんな顔をしていないで、先に進もう」
「あ、はい!」
勇者と魔王は町並みを眺めながら道を進み、一軒の建物に入る。そこはこの町の大商人が経営している素材の販売店で、露店で聞いた優良店なのだが……
「ここはダメかもしれない……」
入ってすぐに、勇者は心配そうな声を漏らすのであった。