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019


 絶壁の崖に作られた休憩場所で、寝袋にくるまった魔王はうとうとしていたが、夜の見張りはなんとか寝ないで朝を迎える。そして昨日と同じく、勇者の作ったスープとパンを平らげた一行は壁を進む。

 ちなみに休憩場所は、アイテムボックスに吸い込んで撤去していた。いちいち解体しなくて済むから楽なんだとか。



 絶壁を寝ている魔王を背負って進んでいた勇者だが、難所に差し掛かると動きが止まる。


「どうしたの?」

「足場も掴む場所も無いんだ」

「どうする? 引き返す?」

「プロのロッククライマーは、小さな出っ張りがあったら進めるんだ。どこにあるか、見て来てくれないか?」

「オッケー」


 珍しくテレージアは安請け合いして、パタパタと先行して進む。しばらくして戻って来たテレージアは首を横に振る。


「ダメ。そこから壁はツルツルよ」

「そっか~」

「戻るしかないわね」

「いや、このまま進む」

「どうやってよ?」

「こうやってさ!」


 勇者はそう言って左手を伸ばすと、(かぎ)の手にし、岩壁に指を押し込む。それが終われば左足を伸ばし、爪先も壁に押し込む。驚く事に、勇者は壁に穴を開けて進み出した。


「ねえ……」

「なんだ?」

「プロがどうとか言ってたけど、あんたはなんなの?」

「旅の勇者?」

「うが~! 掴める所を探しに行く必要なんてなかったじゃない!!」

「いや、この方法は壁が(もろ)いと使えないんだ。だから必要だったんだ」

「どこがよ! そんなにずっぽし指が入っているなら、そっちの方が安全でしょ!!」


 テレージア、オコである。勇者の頭をポコポコするが、まったく効かなくて、疲れてやめるのであった。



 そうこうしていると難所を越え、スピードアップした魔王一行は山越えならぬ、壁越えをクリアーした。

 勇者が平地に登った時には昼を大きく過ぎていたので、ピクニックシートを広げ、魔王を揺すって起こす。


「ん、んん~……あれ? 壁はどうなったのですか?」

「もう終わったよ」

「あ! あの町は、キャサリの町!!」

「やっぱりそうなのか。あの町は魔都と違って高い壁があるんだな」

「昔の戦争での最前線ですからね。森に隣接するみっつの町は、念の為、外壁を維持しているのです」

「ふ~ん。今から向かうと到着は夜になりそうだけど、どうする?」

「もう少し近付いたら夜営にしましょうか」

「わかった。ほい。遅くなったけど昼食だ」

「ありがとうございます。お腹ペコペコだったんです~」


 昼食を平らげた一行は山を下り、夕暮れ時になると夜営の準備に取り掛かる。魔王はよく眠れそうな柔らかい草の場所に移動するが、勇者の奇妙な行動にテレージアと一緒にツッコム。


「「家!?」」


 そう。勇者はアイテムボックスから、こじんまりした家を取り出したからだ。


「家と言うより、狭いからベッドルームだな」


 二人は勇者の暢気な返しにツッコむ気力を無くし、中の説明を受ける。と言っても、狭い空間にベッドと、壁から突き出たテーブルと椅子が置いてあるだけで、すぐに説明は終わった。


「はぁ……あんたのその収納魔法はどんだけ入るのよ」

「収納魔法ではなく、アイテムボックスだ。どれだけ入るかは、いまだにわからないんだよな~」

「そういえば、おにぎりやスープも温かいままでしたけど、どうなっているのですか?」

「妹が時間停止とか言っていたかな」

「じゃあ、どれだけ農作物を入れても、腐らないのですか!?」

「まぁそうなるな」

「ちょっと待って魔王。倉庫なんかに使わないで、戦闘に使ったらどうよ? 人族を入れてしまえば、攻撃になるわよ!」

「あ~。生き物は入れられないんだ。妹が言うには……難しい話だったから忘れた。あはは」

「では、足の早い果物なんかを保管させてください!」

「いや、その前に戦争でしょ! 終わらない事には平和が来ないのよ」

「あ……そうでした~」


 どうやら魔王は、戦争より果物の保管方法に興味津々だったようだ。

 その後、夕食や体を拭く事、寝る事の無駄なやり取りをテレージアが潰す。無難に勇者が料理を作り、魔法で作ったお湯で、魔王達は建物の中、勇者は外で体を拭く。

 見張りの話も出たが、建物は頑丈だから必要ないので一緒に寝る流れになったが、勇者は床で寝袋にくるまれて寝ていた。



 そして翌朝、人族が占拠したキャサリの町へと向かう。


「あ……」


 森から街道に出て、しばらく歩くと、魔王が悲しそうな声を漏らす。


「どうしたんだ?」

「畑が……」


 勇者は魔王の言葉に周りを見渡すが、踏み荒らされた荒れ地があるだけだった。


「町を中心に畑が広がっていたのですが、見る影もありません」

「ふ~ん。人族は管理すらしていないのか」

「残念です。ここのトマトは、すごく美味しかったのに……」


 心底残念がる魔王だが、トマトの心配なのか、畑の心配なのかよくわからない勇者とテレージアであった。



 その後、畑を抜けるとキャサリの町の門が近付く。するとテレージアが勇者に声を掛ける。


「勇者。カバンって、持ってない?」

「カバン? 持ってるぞ。どうするんだ?」

「こんなにキュートな妖精が飛んでいたら、人族が驚くじゃない? しばらく隠れているわ」

「ああ。蝿だと思って叩き落とされる心配か」

「キュートって言ったでしょ!」

「これでいいか?」

「聞きなさいよ!」

「町に手ぶらで入るのも、おかしいか……」

「うが~!」


 勇者はショルダーバッグを魔王に渡すと、自分にはリュックを出して背負う。テレージアは勇者をポコポコしていたが、無視を続ける勇者に飽きて、魔王のショルダーバッグに入ってふて寝する。


 こうして準備の整った魔王一行は、人族に奪われた町、キャサリの町に到着するのであった。


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