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 世界が双子勇者に救われた次の日、勇者は目覚めなかった。すぐに起きると思っていたサシャ達は心配して看病していたが、昼になっても起きる気配がなかったので、帝都に戻る事にする。

 サシャは魔法で土の板を作ると勇者を寝かせ、魔王達も乗り込ませたら、空中浮遊魔法で空を行く。

 帝都城に着くと姫騎士やコリンナ達に出迎えられるのだが、世界は救われたと言っても喜ぶでなく、勇者の心配がなされる事となった。


 それから三日後……


「ん、んん……」


 勇者が目覚めた。それから薄ぼけた記憶を探っていると女の声が聞こえる。


「やっと起きたしぃ」

「サシャ??」


 ベッドの(かたわ)らには、サシャただ一人が椅子に座っていた。


「ここは……」

「帝都のベッドだしぃ」

「帝都……ステファニエ! つつつ」


 勇者は体を起こそうとしたが、痛みでベッドに体を倒す。


「大丈夫だから寝てろしぃ」

「あ、そっか……ステファニエは助かったんだったな」

「違うしぃ。兄貴が魔王を助けたんだしぃ」


 ぶっきらぼうに、勇者の間違いを正すサシャ。


「そうか……俺が、か……」


 勇者は右手を天井に向けて握り込む。そうしてしばらく無言が続いていたが、勇者が声を発する。


「ステファニエ……みんなはどこに行ったんだ?」

「今日はクリクリの即位式だから、みんな出席してるしぃ」

「クリクリ?」

「クリスティアーネ……兄貴って、姫騎士の名前も知らなかったの?」

「そう言えば……そんな名前だった気がする」


 勇者の答えに、サシャはため息を吐く。


「はぁ……兄貴の興味はウチだけだったの忘れてたしぃ」

「そうだな。サシャだけだったな……」

「だった? ひょっとして、好きな人ができたしぃ??」


 サシャはわかっているくせに、からかうように質問する。


「そ、それは……秘密だ!」


 そしていまさら照れる勇者。


「うっざ……もうわかってるしぃ」

「なんでわかるんだ!?」

「なんでわからないと思うんだしぃ!」


 もじもじする勇者にサシャはツッコムが、それだけでは終わらない。


「てか、兄貴の事を少なからず好いている人もいるんだから、ケジメはちゃんとつけろしぃ」

「え……なんで知ってるんだ……」

「そりゃ、ウチは兄貴の妹だかんね。手に取るようにわかるしぃ」

「妹……サシャの口から久し振りに聞いたな……」


 目を潤ませる勇者にサシャは失言に照れて、慌てて話を逸らす。


「ようやく妹離れしてくれて、せいせいしてるしぃ」

「いや、サシャの事はいつまでも愛してるからな!」

「キモイしぃ!」

「ははは。またまた~」

「いいから寝てろしぃ! 魔王が来たら起こしてやるしぃ」

「うん。そうする」


 魔王と聞いて、勇者は素直に従い目を(つぶ)る。すると、勇者は戦いの疲れがあるからか、すぐに寝息を立てる。


「寝るの早くね?」


 もちろんサシャは納得いかないので、勇者の鼻をつまんで憂さ晴らしをする。だが、勇者が苦しそうにしたら、手を離していた。


「ここだけの話、昔の頼りになるお兄ちゃんが帰って来てくれて、ウチは嬉しいんだしぃ……よく頑張ったね。お兄ちゃん」


 そうしてサシャは勇者の頭を撫でて、穏やかな時間が過ぎて行くのであった。





 その日の夕方、勇者の元へ続々と人が集まる。


 まず最初に現れたのはコリンナ。サシャが勇者の胸に頭を乗せて寝ているのを見て「ギャーギャー」騒いで起こしていた。

 そこで目覚めた勇者に抱きつき、涙ながらに無事を喜んでいた。


 次に入って来たのはテレージア。本当は全員揃ってから、皆の恥ずかしい言動を茶化そうと考えていたらしいが、我慢できずに飛び込んだ。

 テレージアもコリンナと同じく、涙を流して勇者の回復を喜んでいた。


 次は魔王。勇者の顔を見るなり涙を流して抱きつく。一番迷惑を掛け、皆にも心配させた事にも涙し、全員に抱きついて感謝していた。


 最後に入って来たのはドレス姿の姫騎士。全員が泣いているものだから、どうしていいかわからず、勇者に、二言、三言、語り掛けたが、やはり心配していたからか泣き出していた。


 そうして皆の気持ちが落ち着いたところで、勇者は感謝の言葉を述べる。


「みんな……こんな俺なんかを心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから、泣く必要はないんだ。こんなの明日になったら治ってるさ」


 皆が目を擦る中、テレージアがよけいな事を言う。


「ぐすっ……そういえば、勇者が魔王を助けに行く前の晩に、姫騎士はなんか言ってなかった?」

「なっ……」

「帰ったら、伝える事があったんでしょ~?」


 テレージア、泣いていたんじゃなかったのか? もう悪い顔になっている。姫騎士は姫騎士で、驚愕の表情をしていたが、真面目な顔に戻って口を開く。


「勇者殿が戻ったら、婚姻を申し込もうと思っていたのだ」


 真顔で恥ずかしい事を言う姫騎士に、一同唖然。しかし、姫騎士は笑いながら次の言葉を(つむ)ぐ。


「この気持ちは本物なのだが、勇者殿は魔王殿を好いているのだろう? 私が入る事はできないと知っている。迷惑だと思うが、そんな女が居たとだけ、心に留めておいてくれ」


 (いさぎよ)く身を引く姫騎士に、勇者は返答する。


「なんで姫騎士まで知ってるんだ!?」

「まぁまぁ……。つぎ、コリンナも伝えたい事があるんでしょ~?」


 驚く勇者の疑問はテレージアに邪魔される。そのテレージアに指名されたコリンナは、真面目な顔で勇者に語り掛ける。


「お、俺も姫騎士さんと気持ちは一緒。アニキの事が好きだ! でも、アニキは魔王さんが好きなんだろ……だから!」


 勇者の恋心がまた知られているとあわあわしていると、コリンナが爆弾発言する。


「俺は愛人でいい!」

「「「「愛人~~~!?」」」」


 一同驚愕。まさかの発言に驚きを隠せないが、姫騎士は違う。コリンナに食って掛かった。


「コリンナ! 話し合って、私達は身を引く事にしただろ!!」

「だって~。そういう人も居るって、姫騎士さんが教えてくれたんじゃない」

「確かに言ったが……だからって、志願してなるものではない!!」

「じゃあ、あたしも勇者の愛人にしてもらおっかな~?」

「「テ、テレージア!?」」

「その手があったのね~。あははは」


 コリンナの爆弾発言に乗じてテレージアも参入。姫騎士までもが「せめて子種だけでも……」とか言う始末。場は荒れに荒れ、収拾がつかなくなる。

 しかし、一人の女の叫びで、騒ぎは収まる事になる。


「お兄ちゃんは、私が好きってなんですか~~~!!」


 魔王だ。皆の発言は初耳で、あわあわしていたのに一向に話に入れずにいたので爆発した。


「プシューーー」


 魔王は本当にいっぱいいっぱいで、勇者みたいにショートして倒れるのであった……


「プシューーー」


 ついでに、渦中の勇者もショートして気絶するのであったとさ。


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