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「くふ、くふふ。もう少し善戦すると思っていましたが、神となった私相手では、こんなものですか。あとはもう一人の勇者と遊んで、データ収集は終わりとしましょう。くふふ」


 キタシは残念そうに呟くが、顔は正直だ。長年の研究が花開き、歪んだ笑みを浮かべて笑い声が漏れている。


 こうしてキタシは、サシャが居るであろう東の地に向けて浮かび上がるのであった。





「がはっ……」


 その頃勇者は、死の山と人界の中間地点の地面に減り込み、血を吐いて苦しんでいた。


「ぐぅぅ……魔王を、助けないと……」


 そうして体を引きずり、ほふく前進で進む。しかしその時、頭上から声がした……


「まったく情けないしぃ」

「サ、サシャ……? げふっ」

「あたしもいるわよ~」


 勇者が仰向きに体を向けて空を見ると、セーラー服を着たサシャとテレージアの姿があった。


「な、なんでここに……」

「なんつ~か、やられっぱなしじゃ気が済まないから?」

「そんなこと言って~。お兄ちゃんが心配だったんでしょ~?」

「んなわけないしぃ!」

「はいはい。先に勇者の体を治しちゃいましょうよ」


 照れながらサシャが言ったので、テレージアにはバレバレだったようだ。しかし、勇者の怪我は重傷なので怒っている場合ではなく、二人は治療に取り掛かる。


「「【癒しの風】」」


 テレージアの治療魔法。何故、テレージアがここに居るかと言うと、自身の治療魔法のほうが上だから自分も連れて行けと、サシャを説得したからだ。

 事実、サシャの治療魔法は上位の位置にあるのだが、それをテレージアは軽く上回っている。

 なので、薬箱としてついて来る事を許可したのだ。


「どう? 完全回復よ。ふふん」

「うちの魔力があってこそだしぃ」


 ドヤ顔のテレージアに、サシャは若干イラっときているが、そこまで強くは言わない。この間も、キタシが近付いているからだ。


「もう治ってるんだから、さっさと立つしぃ!」

「お……おう!」


 呆けてサシャを見ている勇者は、怒鳴られて直立不動。


「一度しか言わないから、よ~~~く聞くしぃ」


 サシャの前置きに、勇者は尻尾を振る犬のようにわくわくして待つ。


「ウチが兄貴を全力サポートするから、好きなだけ暴れろしぃ!!」

「あ、うん……」


 どうやら勇者が思っていた言葉と違っていたようで、尻尾は垂れ下がった。するとテレージアがサシャの耳元でささやく。


「ちょっと~。勇者の元気がなくなったじゃない。少しぐらいサービスしてあげなさいよ」

「なんでウチが……」

「負けてもいいの? サシャが応援したら、ぜったい勇者のテンションあげあげよ」

「ううぅぅ。わかったしぃ……」


 この戦いに負けるわけにもいかないサシャは、テレージアの説得に応える。


「お兄ちゃ~ん。大好き~~~! ぜったい勝って~~~! 頑張れお兄ちゃ~~~ん!!」


 サシャのやけくそ。勇者を鼓舞するために、心にもない事を大声で叫んだ。

 そのサシャの言葉に勇者はと言うと……


「う、うお~~~! うおおぉぉ~~~!! ううおおああおあおお!!!」


 泣きながら雄叫びをあげてるよ。


「ヤベ……やり過ぎかも?」

「う~ん……動いてるから大丈夫なんじゃね?」


 その惨状に、テレージアとサシャはコソコソと話し合っている。まぁサシャがデレた時には、勇者は灰になる事があったので、いい傾向なんだろうと思われる。


「来たしぃ! 【身体強化】だしぃ!!」


 サシャは勇者の地力を底上げすると叫ぶ。


「お兄ちゃん! ぶちかましてやるしぃ!!」

「うがああおおお!!」


 サシャの叫びを聞いて、勇者は地を蹴る。サシャとテレージアの前から一瞬で消えたのだが、その前の、勇者の鬼気迫る顔を見た二人はブツブツ言っている。


「アレ……大丈夫?」

「さあ? ウチも、あんな獣みたいな兄貴、見た事ないからわかんないしぃ」

「アレこそ、勇者が倒す魔王みたい……」

「まぁ……もしもの事があったら、ウチが殺すしぃ」

「頼んだわよ……」


 どうやら勇者の顔がとんでもなく怖かったので、二人は魔王認定してしまったようだ。

 しかし、こんな事をしている場合ではない。テレージアを肩に乗せたサシャは勇者を追い、戦闘区域に入るのであった。



 キタシを視界に入れた勇者は大ジャンプ。だが、音速を超えた勇者だったのだが、キタシに捕捉されてしまう。


「ほう。生きていましたか。それはそれで助かります」


 それだけ言ったキタシは、勇者に向けて巨大な拳を振るう。その拳も音速を超え、勇者との距離は凄まじい速度で詰まる。すると勇者は拳を引いてパンチの体勢。

 同じ速度、違う強度、違う質量。どちらの拳が強いかは、一目瞭然。キタシの拳が勝つに決まっている。


 だが、そうはならなかった。勇者がキタシの拳を貫いたのだ。


「何故??」


 キタシの計算も間に合わない。いや、勇者を……双子勇者をナメ過ぎだ。サシャの強化魔法を受けた勇者は、キタシと同等の身体能力となっていた。その身体能力ならば、空気を踏む事さえできる。


 勇者は接触する前に、三度、空気を蹴って加速したのだ。


 これで速度は勇者の勝ち。強度は互角。質量はキタシなのだが、当たった面積が違う。面積が小さいほうが、力の集中が高い。その結果、貫通となったのだ。


 勇者は貫通すると、空気を蹴って反転。大きく振りかぶってキタシの肩口をぶん殴る。


「おお! まだここまでの力がありましたか」


 称賛しているキタシは、肩が消失して腕が落ちそうになる。しかし、一瞬でくっ付き、地上に向かう勇者に膝蹴りを入れた。


「ぐう!」


 ギリギリガードが間に合った勇者は空に舞い上がり、キタシのパンチが飛んで来た。


「がはっ!」


 今回はガードが間に合わず、勇者は血を吐く。


「【多重空気層】だしぃ! テレッち!」

「わかってるわよ! 詠唱開始!!」


 勇者が吹き飛ばされた場所には、サシャが空気の層を作って優しくキャッチ。そこに、二人の【癒しの風】で、勇者を完全回復。


「兄貴! サボってんじゃないしぃ!!」

「おう!!」


 サシャ達のサポートを受けた勇者は、空気を蹴ってキタシに突撃。キタシの腹をぶん殴ってクレーターを作る。

 その攻撃で、キタシは死の山があった辺りまで後退させられるのであった。



「なるほど……もう一人の勇者がサポートしているのですか。探す手間が省けて有り難いですね。くふふ」


 より良いデータが取れると喜ぶキタシ。腹のクレーターもすぐに戻る。そんな中、キタシに追い付いた勇者は足をぶん殴り、半円状の穴を開ける。

 その攻撃に対して、キタシは上からパンチを落とし、勇者を地面に叩き付ける。そこに追い討ちの踏み付け。勇者は地面に着く瞬間に空気を蹴って、横に飛んで事なきを得た。


「兄貴! 形振(なりふ)りかまうなしぃ! ぐるぐるパンチでやっつけてやれしぃ!!」

「わかった!!」


 勇者は地を蹴って、右手と左手をぐるぐる回しながらキタシに突撃。


「くふっ。なんですかそれは? まるで子供の喧嘩のようですね。くふふふ」


 笑いながら右手を振りかぶったキタシは、勇者に拳をぶつける。


「はい??」


 その瞬間、拳が掻き消されたので、キタシは惚けた声を出すのであった。


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