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 死の山の地下深く……魔王を連れた端末は昔話を語る。


 その話の登場人物は、とある科学者。帝都で暴れた生物兵器を作り出した人物だ。

 生物兵器を作り出した化学者は、完成にたいそう喜んだのだが、危険性にも気付いていた。だが、実験のデータを取るために、起動実験を強行する。

 当然、失敗して乗り込んだ職員は生物兵器に取り込まれ、破壊の限りを尽くした。もちろん世界中の国々が生物兵器を止めようとしたのだが、その時に最強だった兵器すら役に立たず、エネルギーが無くなるまで止まる事はなかった。


 その頃には世界は滅び、残ったものは焼け野原と少数の人間だけ。科学者は自分の失敗を悔いる事なく、また実験に没頭する。そこで実験の結論に至る。


 乗り込む人間の精神、肉体が弱かったのだと……。


 それからは、生物兵器の操縦者の改造に至った。ゴブリン、オーク、キメラにドラゴン。魔物から魔獣までを自分の手で作り出し、生物兵器に乗せるが、失敗の連続。ここで魔物や魔獣が脱走する事件が起きるが、気にも留めなかった。


 しかし、長い研究を繰り返している内に、科学者の寿命が近付く。


 元々、生物兵器のエネルギーは魂だった為、自身の魂の分割や、他の体に入れる等の延命に成功した。この成功で、化学者は永遠の時間を研究に費やす事ができるようになってしまったのだ。


 その長い年月で、逃げ出した魔物や魔獣が増え、突然変異が誕生した。


 魔族と魔王だ。


 この魔族や魔王の体に、自身の分割した魂を入れる事で生物兵器の安定を目指すのだが、失敗が続き、その失敗の過程でライバルが生まれる事となる。


 勇者だ。


 人間も馬鹿ではない。何度も世界を滅ぼす生物兵器に対抗しようと、違う世界から人間兵器を呼び寄せたのだ。この事で科学者の研究が遅れる事となる。

 人族と魔族の住み分けが明確になり、東と西に分かれた。すると帝都にあった生物兵器に魂や血が集まらなくなり、エネルギー不足となってしまった。


 これでは研究にならないと考えた科学者は、大陸の中央に新たな研究施設を作る。これが「死の山」「魔の森」だ。


 予想通り、中央で激しい戦闘が行われ、魂と血が集まる事になったのだが、生物兵器も新設したばかりなので、稼働するには時間が掛かる。

 しかし、かなり早いペースで魂と血が集まるので、予定通り稼働できると考えていたのだが、エネルギー供給はピタリと止まってしまった。


 勇者が魔王との和解に走ったのだ。


 それから千年、人族と魔族は一切戦う事は無く、帝国のみで、人族どうしが戦う事態となってしまった。

 科学者もこれではいけないと作戦を変え、端末を使って戦争を起こそうとしたが、魔界には入る事ができない。


 勇者が作った魔獣避けの木が、端末を弾いたのだ。


 ならば、人界を(そそのか)そうとするが、まったくまとまる気配は無く、千年もの間、戦争を続ける事となった。


 そして今日(こんにち)、ようやくチャンスが来たと、データ取りのために帝都に眠る生物兵器を復活させ、勇者と戦わせたのだが破れてしまったのだ。





 長い昔話を聞いていた魔王は、すでにベッドのような所で横になっている。そこで、端末の話が終わったようなので質問してみる。


「そもそも、なんのために、生物兵器を作っているのですか?」


 端末はその質問を待っていたのか、ニヤリと笑って質問を返す。


「あなたは神を信じますか?」

「神様ですか……特には信じてないですね」

「そうです。神などいない。その昔は、人族は敬い、その神の名の元に、戦争をしていたのですよ。その神を信じ、奇跡を待っていたのですよ。目に見えない、居るはずも無い神を信じてね」

「えっと……話が見えないのですけど……」


 魔王が困惑していると、端末は嫌な笑みを浮かべる。


「神など信用するから、不幸が起こると思いませんか?」

「私に聞かれましても……」

「ああ。そうですね。あなたはこちら側でした。つまりですよ」


 端末は言葉を区切ると、両手を開く。


「目に見える神が居ればいいんですよ。奇跡を起こせる神が居ればいいんですよ。本体が神になれば、幸せな世界が作られると思いませんか?」


 歪んだ笑みを浮かべて質問する端末に、魔王は寒気を覚える。


「そんな事のために、何千年も、人の命を奪い続けたのですか……」

「そんなこと??」

「違いますか? あなたが居なければ、人は死にませんでした! あなたが居なければ、魔族と人族はいがみ合いませんでした! あなたが居なければ、これから平和な世界が待っているのです!!」


 涙ながらに訴える魔王を見て、端末から表情が消える。


「まさかこの素晴らしい計画が伝わらないとは残念です。しかし、すぐにこの計画の素晴らしさを理解するでしょう」

「しません!! ムグッ」

「お静かに。本体の準備が整ったようです」


 叫ぶ魔王は端末に口を塞がれてしまい、ベッドから飛び出た器具で両手両足も拘束される。そうして天井から青白い光が降って来ると、端末はベッドから離れて歓喜の表情を浮かべる。


「な、なんですか!? 頭が……頭が……イヤ~~~!!」


 苦しそうに叫ぶ魔王の声は、小一時間も続くのであった……



 悲鳴が無くなった頃には魔王はぐったりし、顔から表情も失われる。その魔王に天から降り注ぐ光は途切れる事なく、さらに三時間の時間が流れて、拘束具が外れた。


 ついに作業が終わったと確信した端末は、ベッドに近付いて魔王の脈を取る。すると、魔王の手が動いた。


「くふ……少々手こずりましたが、無事、魔王の体は手に入りましたね。くふふ」

「ようやく本体が神となられるのですね。くふふふ」


 嫌な笑みを浮かべる魔王と端末。いや、本体と端末。

 本体はベッドから立ち上がると、右手を前にかざして指を動かす。すると広かった部屋が押し潰されるが如く小さくなり続け、天井に穴が開く事となった。


「私はこのまま最終調整に入ります。生物兵器との融合が終われば、晴れて私が神となるのです。くふ、くふふ」

「わかりました。では、私は神となった本体のデータを取りましょう。くふ、くふふ」

「「くふふふふ」」


 嫌な笑い声を発しながら二人は別れ、端末は死の山の別室へ、本体は部屋に押し潰されて死の山との融合が始まるのであった。


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