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 時は少し戻り、魔王が(さら)われた直後……


「あの~……あとどれぐらい空を飛ぶのでしょうか?」


 羽で空を飛ぶ帝国長兄ラインハルトの姿をした端末に、お姫様抱っこで運ばれる魔王は、暇すぎて質問していた。


「そうですね……半日ぐらいですか」

「そんなにですか!? 食事やおトイレなんかは……」

「……あなたは、もっと他の事を心配できないのですか?」


 攫われる者として、あまりにものほほんとしている魔王の態度に、端末は呆れてしまっている。


「でも、お腹すきます~」

「わかりました。一度休憩しますので、そこでトイレも済ましてください」

「はい!」


 そうして魔の森まで飛んだ端末は、森に入ったところで降下し、魔王を降ろして食事の準備をする。


「これでよろしいですか?」


 端末は自身の収納魔法に入っていた肉を取り出す。


「あ、おかまいなく。私もちょっと持ち歩いていますので」


 そう言って、魔王は収納魔法に入っていたおにぎりとサラダを取り出してムシャムシャ食べる。その姿を見ていた端末も、エネルギー摂取は必要なのか、肉をかじり出した。


「お肉ばかりでは、健康に悪いですよ。野菜も食べなきゃです。これをどうぞ」

「はあ……」


 端末は魔王に勧められるままに、サラダを口に含む。


「ふむ……なかなかいけますね」

「でしょ? 魔界産の野菜は、世界一です~」


 端末の反応に満足した魔王が笑顔で野菜を食べていると、端末の様子が変わる。


「くっ……なんだ??」


 急に頭を押さえ、下を向いていた端末が顔を上げると、驚いた顔になっていた。


「どうかしました?」

「貴様は……何者だ?」

「私? 私は魔王ですけど、知ってますよね?」

「魔王?? 普通の人族の娘じゃないか。いや、その前に、ここはどこなのだ?」

「魔の森ですけど……本当にどうしたのですか?」

「魔の森……ぐっ……ううぅぅ」


 端末は魔の森と聞くと、また苦しそうにして、様子が変わる。


「はて? 何やら記憶が飛んでいるのですが……」


 元の口調に戻った端末に、魔王は質問する。


「私は誰かわかりますか?」

「魔王様です……急にどうしたのですか?」

「い、いえ……」


 魔王はこのとき、野菜を食べさせれば逃げ出せるのではないかと閃く。


「もっとサラダを食べませんか?」

「いえ、もう十分足りています。それより急ぎましょう」

「残念……」

「何か言いました?」


 魔王の策略は失敗。小さく言葉を漏らした魔王は、慌てて話を逸らす。


「い、いえ。移動する前に、おトイレを済ませたいのですが……」

「ああ。そうでしたね。そこの草むらでしてください」

「え……せめて、あの岩の後ろにしてくれませんか?」

「ダメです。しているところは見えないのですから、我慢してください」


 魔王は渋々草むらに向かおうとするが、立ち止まってしまう。


「無理です! 男の人に見られてなんて、できませ~ん。逃げませんからお願いします~」


 魔王の必死のお願いで、トイレは岩陰で済ませる事に成功した。だが、本当に逃げる素振りを見せなかった事に、端末は呆れるのであった。

 そうしてまた空を行くのだが、お腹を満たした魔王は睡魔に襲われ、眠ってしまった。この事態に、端末は「どこまで暢気(のんき)なんでしょう」と、呆れ果てていた。



 その深夜、端末は予定通りの時間に死の山頂上に降り立ち、魔王を揺すって起こす。


「ん、んん……」

「着きましたよ。起きてください」

「あ、おはようございます」


 ようやく起きた魔王は、寝惚け眼を擦りながら、死の山に立つ。


「これが死の山ですか……真っ平らですね」

「こちらです」


 端末は魔王の言葉を気に留めず、腕を掴んで歩き出す。すると前方に、地下へと向かう階段が現れた。


「さあ、下りますよ。足元に気を付けてください」


 紳士的に対応する端末と共に魔王は階段を下りると、後方の穴が塞がってしまった。


「意外と明るいんですね」

「怪我をされると困りますからね」


 魔王はキョロキョロと辺りを見回し、うっすらと光る壁に触れながら下ると、何も無い小さな部屋に到達する。すると、階段の穴も消えてしまい、端末の無言が続く。


「えっと……他の部屋は無いのですか?」


 無言に耐え兼ねて質問してしまった魔王。


「いまが移動中なのです。震動も何もないからわからないと思いますが、かなりの速度で下に向かっているのですよ」

「下に……」


 端末が言う通り、まったく何も感じない魔王は、部屋の隅々まで見るが、何もわからない。なのでまた質問しようとしたら、目の前の壁が消えた。


「ここです」


 端末と共に部屋から出た魔王は、だだっ広い空間に息を呑む。そうして部屋から一歩踏み出すと床が動き出し、魔王達は運ばれて行く。

 そんな中、神妙な顔をした魔王に気付いた端末は質問する。


「どうかしましたか?」

「いえ……なんだか懐かしく感じまして……」

「ああ。ここは魔族の方の原点ですからね。その記憶が細胞に残っているのでしょう」

「原点とは?」

「言葉の通りです。魔族、魔物、魔獣……全て、ここで作り出されました」

「え……」


 端末が魔王達の出生の秘密を語ると、魔王の言葉が詰まる。


「さらに言いますと、あなた方は、元々人間……いまの言い方ですと、人族ですね」

「私が人族??」

「そうです。本体が体をいじって、様々な生き物を作ったのです」

「ど、どうして……」

「そうですね……まだ本体の準備が整っていないみたいですし、お聞かせしましょうか。その昔……」


 こうして端末は、昔話を語るのであった。


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