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「あ~。えっと……改善点なんか教えてくれないか?」


 姫騎士達が勇者のぐるぐるパンチをジト目で見ていたので、バツの悪くなった勇者は質問する。


「改善点? ハッ」


 しかし、姫騎士に鼻で笑われてしまった。サシャもコリンナもテレージアもフリーデも鼻で笑っているので、同じ意見なのだろう。


「戦い方を知らないんだから、仕方ないだろ~」


 泣きを入れる勇者。だから教えてくれと言っていたのに、冷たい目で見られたのだから致し方ない。


「ま、まぁそうだな……とりあえず……」

「ちょっち待つしぃ」


 姫騎士が勇者にパンチの打ち方を教えようとすると、サシャから待ったが掛かった。


「なんだ?」

「その攻撃で敵を倒したと言うのなら、それが弱点なんじゃね? 下手(へた)に変えないほうがいいかも??」

「一理あるな……でも、あまりにもかっこ悪くないか?」

「「「うんうん」」」


 姫騎士の質問に、コリンナ、テレージア、フリーデは深く頷き、サシャも軽く頷く。その皆の姿に、勇者は肩を落とす。

 しかし決定事項となったので、姫騎士はパンチの見本を見せていた。


「ふむ……いいんじゃないか?」


 基本的な型を見せただけだが、勇者は簡単にマスター。


「まぁこれぐらいなら……」


 いや、ゆっくり動いているだけだから、様になっているのかもしれない。


「あとは本番で同じ動きができるかどうかだろう」

「う~ん……」


 いまいち強くなった気がしない勇者が(うな)っていると、サシャが質問する。


「もっと速くできないしぃ? それができないと、役に立たないっしょ~」

「こうか?」

「わ! 【防御結界】だしぃ!!」


 サシャは慌てて明後日の方向に防御結界を張る。すると、勇者の出した拳の先は、地が削れ、防御結界は割れ、風が吹き荒れた。


「何が起こった……」


 勇者のパンチは、サシャ以外見えていなかったので、姫騎士達は呆気に取られている。


「急に危険なことすんなしぃ」

「す、すまん。こんな事になるとは思わなくて……」


 サシャにやれと言われてやったのに、素直に謝る勇者。いくらサシャより強い敵に勝ったといえど、妹に頭が上がらない事は変わらないようだ。


「でも、一通りの動きを覚えれば、それなりの攻撃にはなるかもしんないしぃ」

「なるほど……蹴り技も覚えておくか?」

「おう!」


 サシャの案に姫騎士は頷き、キックを教えようとするが、剣士である姫騎士は苦手なようだ。なので、フリーデに教えを()うが、飛び蹴りが多い。いちおうマネはできた勇者だが、フリーデは何故か勇者に何発も蹴りを入れていた。

 どうやら魔王を守れなかった事を怒っているようだ。最後には泣きながら、「お姉ちゃんを助けて」と言っていた。



 そうして特訓を続けた勇者は、夕食後に、早目に寝ると言って自室に入って行った。しかし日が落ちてすぐだったため、ベッドに寝転んだ勇者はなかなか寝付けずにいる。


 そんな中、ノックの音が響いた。


 勇者は寝転んだ姿勢のまま入室を許可し、入って来た者はベッドに腰掛けて話をする。


「私も一緒に戦いたいのだが……」


 入って来た者は姫騎士。その言葉に、勇者は冷たく突き放す。


「ダメだ。姫騎士では戦力にならない」

「しかし、魔王殿が(さら)われたのは、私のせいでもある。騎士として、逃げるわけにはいかない!」


 それでもついて来ようとする姫騎士に、勇者は優しく語り掛ける。


「姫騎士は、もう女王様だろ? 戦う必要はないんだ」

「でも……」

「わかってる。姫騎士もサシャ……魔王が心配なんだな。俺が死んでも連れ戻すから、心配するな」


 勇者の説得に姫騎士は(うつむ)く。


「死ぬなんて言うな……私は勇者殿も心配しているんだ……」

「姫騎士……」

「勇者殿をボロボロにした敵より強い敵が居るんだ。心配しないわけがないだろ!」


 姫騎士は泣きながら勇者の胸元を掴む。


「勇者殿に死なれたら、私は……私は……」

「俺の事まで心配してくれて、ありがとう」


 そして姫騎士は勇者を抱き締めて泣き続け、勇者は姫騎士の気持ちを汲んだからか、感謝の言葉を述べながら背中をポンポンと叩いていた。


 しばらくして泣き止んだ姫騎士は、立ち上がって言葉を発す。


「これから戦場に向かう者に掛ける言葉じゃなかったな。すまなかった」

「いや……俺は……」

「勇者殿が戻った際には、伝えたい事がある。必ず生きて戻って来てくれ」

「ああ。魔王と一緒に、帰ってくるよ」

「必ずだぞ……」

「あ……」


 凛として勇者の帰還を求めた姫騎士は、勇者の頬にキスをして部屋から出て行った。残された勇者はと言うと、いきなりそんな事をされたので、放心状態となっていた。



 それから勇者が悶々としていたら、部屋にノックの音が響く。


「アニキ……」


 勇者の許可を得て入って来たのはコリンナ。勇者の寝転ぶベッドに腰掛ける。


「アニキは死なないよね? 絶対帰って来るよね?」


 勇者に覆い被さって捲し立てるコリンナに、勇者は優しく語る。


「ああ。さっき姫騎士とも約束したところだ。必ず生きて帰るよ」

「姫騎士さんが……他には何か話してなかった?」

「ん? ま、まぁ……それぐらいかな?」

「………」


 勇者はキスされた事を惚けたようだが、目が泳いでいる。さらには頬を触ったので、コリンナは姫騎士がした事を察したようだ。


「じゃあ、オレも……」

「わ! なんで!?」


 元々顔が近かった事もあり、勇者はコリンナのキスを避けきれずに、額に受ける事となった。

 コリンナはそれで満足したらしく、ベッドから降りてドアに向かって歩く。しかし、ドアに手を掛けたコリンナは忘れ物に気付いて振り返った。


「あ、そうだ。アニキが帰って来たら、伝えたい事があるんだ。だから、必ず帰って来てね」


 コリンナはそれだけ言うと、部屋から出て行った。


 勇者はというと、二人のキスの真意と、帰った時に何を言われるのかと考えているが、経験がまったくないので答えは出ない。

 なので、わかるかも知れない人物に聞いてみる。


「テレージア。居るんだろ? 出て来いよ」


 勇者が窓に向かって話し掛けると、カーテンの端が揺れ、パタパタと飛ぶテレージアが出て来た。


「な~んだ~。バレてたんだ~」


 どうやら勇者に群がるであろう乙女をおかずにするために、「妖精は見た」をしていたようだ。


「さっきの二人は、いつもと様子が違っていたんだが……」

「やっと気付いたんだ……二人は、勇者にそういう感情を持っているのよ」

「そういう??」


 テレージアは自分で言うのに気が引けていたので曖昧に言ったのだが、勇者はまだ気付いてなかった。


「なんでわからないのよ! 好きってことよ!!」


 あまりにも鈍いので、大声で言ってしまうテレージア。


「好き??」

「そこまで言ってもわからないの……」

「いや、その……俺にはサシャが……」


 モゴモゴと喋る勇者に、テレージアは呆れて質問する。


「そのサシャって、どっちのサシャ?」

「え……」

「妹? 魔王?」

「妹が……サシャ……」


 急な質問に、勇者はしどろもどろになってしまった。


「じゃあ、質問を変えるわ。今まで攻撃なんてする気もなかったのに、何のために、攻撃方法を習っていたの?」

「それは……」

「自分でもわかっていないみたいね。その事も考えてから、二人に返事しなさいよ」


 テレージアはそれだけ言うと、窓に向かってパタパタと舞い、振り返った。


「昨日は酷いこと言ってゴメンね! あと、私も勇者のこと好きだからね!!」


 どうやらテレージアは謝りに来たみたいだけど、勢い余ってよけいな事まで言ってしまい、顔を真っ赤にして逃げて行った。


 残された勇者はと言うと……


「プシューーー」


 許容オーバーでショート。予定通り、早めの就寝となるのであった。


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