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 時は少し戻り、双子勇者と端末が戦っていた頃、帝都は恐怖に(おちい)っていた。


『大丈夫だ! 二人の勇者が戦っているのだ! 必ずや敵を倒してくれる!!』


 何度も爆音や爆風が帝都に届き、東の地がピカピカと点滅する中、姫騎士は民衆を励まし続けていた。

 民衆は地獄のような光景を目の当たりにして恐怖していたが、姫騎士の声と避難誘導に従い、西に移動する。


 姫騎士が馬に乗って民衆を励ましながら最後尾に移動していると、馬車の上で怪我人の治療している魔王の姿を発見したので、並走しながら声を掛ける。


「魔王殿。少しは休憩してはどうだ?」


 魔王は治療魔法で兵士の傷を治してから、額に浮かぶ汗を拭って、姫騎士の顔を見る。


「ふぅ~……まだいけます」

「いや。戦いが始まってから、ずっと働いていると聞いてるぞ」

「姫騎士さんだって休んでないんでしょ? 戦っていない私がへこたれるわけにはいきません!」

「だが……」


 二人が喋っていると、突如、東の空に竜巻が突き刺さった。するとその光景を見た魔王は、心配そうな顔になる。


「お兄ちゃんとサシャ様、大丈夫でしょうか……」

「あの二人なら大丈夫だろう。何せ、私達より動いていたのに、息ひとつ切らしていなかったのだぞ」

「そうだといいのですが……」

「はぁ……普通の人間の私には、とてもマネできない。私も少し休むから、魔王殿も休んでくれ」

「え?」


 姫騎士は馬から馬車に飛び移り、魔王の隣に座る。ちなみに馬は、怪我が治った兵士に引いてもらっている。


「さあ、これでどうだ? 私は休んでいるぞ」

「もう……姫騎士さんはズルイです~」


 どうやら姫騎士は、魔王を休ませるために休憩するようだ。さすがに上司にそんな事をされた魔王は、渋々休む事にする。

 コップに魔法で水を注ぎ、一時の休憩をしてお喋り。その内容は、ほとんど勇者の事であったが、楽しそうに喋っていた。


 そうしてしばらく休んでいると、二人の話をつまらなそうに聞いていたテレージアが、何かに気付いたようだ。


「竜巻が消えてるわよ?」


 テレージアに言われて姫騎士と魔王は東を見る。


「本当だな……」

「そういえば、しばらく音も聞こえませんでしたね」

「という事は……」

「勇者が勝ったんじゃない?」


 姫騎士のセリフを奪ったテレージア。そのドヤ顔は、二人は見ていない。そして、テレージアを無視した姫騎士と魔王は、顔を見合わせる。


「私は確認して来る!」

「待ってください! 私も連れて行ってください!!」

「魔王殿を?」

「もしかしたら、お兄ちゃんもサシャ様も怪我をしているかもしれません。治せる人が居たほうがいいはずです!」


 魔王は姫騎士の手を取って説得する。


「逆もあるかもしれない……危険だ」

「なおのことです! 治療してくれる人が居れば、逆転だってできます!!」

「……わかった」


 魔王の覚悟に負けて、姫騎士は同行を許可する。


「じゃあ、あたしも行こっかな~」

「好きにしろ」

「止めてよ!!」


 どうやらテレージアは、魔王達の(くだり)がやりたかったようだ。姫騎士におざなりに返事されたのでご立腹。

 しかし、姫騎士は各種に連絡を取らないといけないので忙しく、テレージアの相手は魔王に任せていた。


 ひとまず避難誘導はペティーナに任せ、ヨハンネスに後続の騎士を指揮してもらう。その騎士達の配備を待てない姫騎士と魔王は、各々馬を操り、東に駆けて行く。ちなみにテレージアは、魔王の胸に乗り込んでいる。



 二人は急いで馬を駆け、無人の帝都の脇を抜け、砂埃の舞う荒野に入った。


「凄いですね……」


 地面はボコボコ。亀裂がそこかしこにある荒野は、激しい戦闘があったと見て取れる。その光景を見た魔王の声に、姫騎士が返答する。


「確かにな……少しスピードを落とそう」


 姫騎士も地面を見て、馬の安全を優先して慎重に進む。そうしてゆっくり進むが、勇者とサシャの姿は見当たらず、時間が過ぎていく。


「お兄ちゃん……どこに居るのでしょう?」

「……あれだけの戦闘だ。疲れて寝ているのかもしれない」


 魔王の質問に、姫騎士はよからぬ事が頭に浮かんだが、口には出さなかった。


「ま、まさか……」


 しかし、魔王にも同じ考えが浮かぶ。だが、テレージアがパタパタと空を舞って、その暗い空気を打ち消す。


「あははは。あの勇者が死ぬわけないでしょ? 考えすぎよ。ちょっと上から見て来てあげるわ」


 テレージアは笑いながら空を飛び、魔王達から離れると、険しい顔に変わった。どうやらテレージアも、勇者達の事が心配のようだ。目を凝らし、必死に探している。



 そうしてしばらく経つと、テレージアが血相変えて戻って来た。


「居た! 居たわ! あっちよ!!」


 テレージアは焦りながら喋り、先導して空を飛ぶ。そして勇者達に近付くと、真上をパタパタと飛んで魔王達に大声で知らせていた。

 姫騎士と魔王は勇者達の姿が目に入ると、馬から飛び降りて駆け寄る。


「お、お兄ちゃん……」

「勇者殿! サシャ殿! おい!!」


 魔王は血塗れで倒れている双子勇者を見て固まり、姫騎士は揺すって安否を確認する。


「嘘でしょ? あの勇者が怪我するなんて……」


 この惨状に、先に到着していたテレージアでさえ、地面に膝を突いて放心状態になっていた。


「お、お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」


 固まっていた魔王は、気を取り直すと勇者を揺すり、生死の確認をする。


「お兄ちゃん? 嘘ですよね??」


 しかし反応が無い。姫騎士は勇者の反応がないからか、サシャを揺すっている。


「生きてるぞ! 二人とも、まだ息がある! 魔王殿! テレージア! 治療魔法だ!!」

「は、はい!!」

「うん!!」


 これほどの血を見た事の無い二人よりは、姫騎士のほうが免疫があったので、双子勇者の状態を的確に判断できたようだ。


「で、では、傷の酷いお兄ちゃんから……テレージアさん」

「そうね。やるわよ!」


 テレージアと共に呪文を詠唱する魔王は、勇者の頭に手を触れると、ガシッと掴まれた。


「サシャ……サシャを先に……」


 勇者が動いたのだ。しかし、ほぼ無意識。それでも、妹を優先させるように頼んでいる。


「で、でも、お兄ちゃんのほうが、傷が……」

「いい。サシャを……サシャを助けてくれ……サシャを……」

「魔王! 悩んでいる暇は無いわ。サシャからやりましょう」


 魔王が詠唱をやめてしまったので、テレージアの魔法はキャンセルされてしまった。魔王もこのままでは、二人とも命を失うと感じ、サシャを優先させる。

 そうしてテレージアの治療魔法【癒しの風】が完成すると、サシャは温かい光に包まれ、傷が治っていくのだが……


「うそ……なんで完全回復しないの?」


 テレージアの魔法は強力なのに、傷が治りきらない。その言葉に、魔王も取り乱すが、姫騎士が力強く割って入る。


「いまは応急手当でいい! 次は勇者殿だ!!」

「そ、そうね……」


 こうして勇者も治療するのだが、完全回復しない。それほど二人の傷が深かったのであろう。しかし、命は取り留めた。何度も【癒しの風】を使えば、完全回復するだろう……

 テレージアと魔王はそう考えて、もう一度サシャを治そうとするのだが……



「くふっ。くふふふ。勇者が二人とも気を失っているとは、好都合ですね」


 突如、気持ち悪い笑い声が聞こえ、手が止まってしまう。


「ライナー兄様??」


 そう。姫騎士が言う通り、その正体は、長兄と呼ばれていた人物。だが、背中から黒い羽を生やしていた……


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