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 双子勇者復活と同時に、勇者は叫びながらダッシュ。凄い速度で端末にタックル。端末は踊るような剣技で勇者を斬り付け、勇者はなかなか組み付けないでいる。


「もらったしぃ!」


 そこをサシャの【(つるぎ)の舞い舞い】。端末は足を集中的に斬られて、ガクンと膝が落ちる。


「つう~……サシャみたいな剣を使う奴だな」


 ようやく組み付いた勇者は暢気(のんき)に一休み。最初から見ていないので、端末がサシャの剣を使うとは知らなかったようだ。

 勇者に組み付かれた端末は、倒れはしなかったが、このままではマズイと感じて、刀や拳を勇者にぶつける。しかし、距離が近すぎて力が乗らず、頑丈な勇者の防御は破れない。


「もいっちょ! 【聖剣の舞い舞い】だしぃ!!」


 動きの止まった端末に、聖なる光を二本の刀に(まと)っての【剣の舞い】。一瞬にして(まばゆ)い光の球体が作られる。


「ぐっ……ああ……」


 端末と一緒に、サシャに斬られた勇者は(うめ)き声を……


「……いい! これこれ~。やっぱりサシャだ~~~」


 なんだか喜んでいる。何度か喰らった事があるので、懐かしくて嬉しいようだ。


「なんで死なないんだしぃ……」


 サシャは端末に向けて言ったのかと思えたが、気持ち悪い目で勇者を見ているので、どうやら勇者に向けて言ったっぽい。


「死ね~~~! 【反物質】!!」


 そして続け様の最強魔法。もう、どちらに向けて放ったのかわからない攻撃を使い、サシャは辺りを吹き飛ばした。



「どうだしぃ??」


 一人だけ転移で逃げたサシャは、目を凝らして爆心地を見る。そうして煙が晴れた頃に、素っ裸の勇者と、端末だと思われる四角い塊りがあった。


「くぅ~……さっさと死ねしぃ!!」


 残念そうに叫ぶサシャの言葉は、相変わらずどちらに向けた言葉かわからない。だが、その時、またしても機械音が響く。


「ピー……ガクシュウシマシタ」

「な、なんだ??」


 端末の復活する様を見ていない勇者は、ボコボコと肉が盛り上がる端末を不思議に思う。


「ごふっ……」


 次の瞬間、腹に痛みが走り、端末を掴む力が弱まる。端末の拳が勇者の腹に突き刺さったからだ。さらには連続で拳を放ち、距離が開いたところに【四重の舞い】。

 三本の腕で数百の拳を入れられ、四本の刀で数百の斬撃を喰らわされた勇者は、吹き飛ぶ事となった。


 地面と平行に飛んで、地面にバウンドして止まった勇者の元へ、サシャは急行。すると血まみれの勇者が地に伏せていた。


「あ、兄貴……まさか……」


 サシャは珍しく勇者を心配して触れようとする。


「ぐぅ~……効いた~……あ! サシャ!? ここは天国??」

「なんでウチが死んだ事になってるんだしぃ!」


 ボケボケの勇者に、サシャは触れる事はやめたようだ。サシャのツッコミで目覚めたかどうかわからないが、真面目な顔になった勇者は立ち上がる。


「サシャ。気を付けろ……かなり強いぞ」


 いや、まだボケている。


「強いって最初に言ったしぃ。てか、兄貴にダメージを与えるって、四天王や魔王より強いって事で間違いなさそうだしぃ」

「ああ。あのとき以来だ……それで、勝てそうなのか?」

「余裕……と、言いたいけど、兄貴ぐらい防御力が高いし、ちっときついかも?」

「サシャの攻撃も通じないのか……」

「多少は効いてるっぽいけど……せめて弱点があれば……」

「来たぞ!!」


 双子勇者が喋っていると、端末は完全回復。凄い速度で近付き、勇者に攻撃を仕掛ける。

 その攻撃に、勇者はガードを固めて耐え、サシャは脇を抜けて【剣の舞い舞い】。しかし端末はその行動を読み切り、サシャの真ん前に移動して【四重の舞い】。

 刀と刀のぶつかる金属音が響き、サシャの攻撃が間に合わなくなる。


「させるか!」


 そこを勇者の横っ飛び。体を張ってサシャを守り、サシャの攻撃も受ける。


「ナイスだしぃ! 【聖光六槍(せいこうむそう)】!!」


 サシャは珍しく勇者を褒めると、これまた珍しく勇者をさけて魔法を放つ。六本の光の槍が、サシャを中心に飛び出て屈折し、全てが端末に突き刺さる。

 しかし、光の槍は端末の刀に切り裂かれ、勇者も三本の拳のラッシュを受ける。


「ぐうう……」

「【雷鳥】だしぃ!」


 端末の拳を耐える勇者の真上に作った雷の鳥。サシャは痛みに苦しむ勇者に追撃を加えないように、端末の頭に落とす。だが、端末は雷の速度を超えて動き、勇者を回り込んでサシャの腹目掛けて攻撃。


「がはっ!」


 攻撃に集中するために防御結界を薄く張っていたサシャは、二本の拳が腹にめり込み、血を吐いて吹き飛ぶ。


「サ、サシャ~~~!!」


 サシャの苦しむ声を聞いて勇者は振り向くが、端末はサシャを追っていた。


「ま、待て! 待て~~~!!」


 勇者のダッシュ。端末と勇者の速度は端末のほうが速く、離される。それからサシャに追い付いた端末は、馬乗りになって殴り付けていた。


「うわ~~~!!」


 サシャのピンチに必死で走る勇者は限界を超え、空気の壁で傷付きながら走り続ける。

 勇者の赤い視界には、サシャが血塗れで横たわる姿。勇者は必死に走り続けるが、端末は刀を振りかぶる。


「やめてくれ~~~!!」


 血飛沫(ちしぶき)を撒き散らす勇者の目の前で、無情にも端末の刀が振り下ろされる。



 ザシュッザシュッザシュッザシュッ……



 ただただ、端末が肉を斬る音が辺りに鳴り響くのであった。







 ザシュッザシュッザシュッザシュッ……


「ゲホッ……ゲホゲホッ」


 肉を斬る音にまじって、苦しそうに咳き込む女の声が聞こえた。


「ハァハァハァハァ……」


 サシャだ。苦しそうに息を整えようとしている。


「う、ううぅぅ……よかった~。サシャが生きてたよ~~~。うわ~~~ん!!」


 どうやら勇者は間に合ったようだ。端末の振り上げた刀の隙間に滑り込み、サシャに覆い被さる事で守ったのだ。


「あ、兄貴……血が……」


 ようやく頭がハッキリしたサシャは、自身が水溜まりの中に倒れている事に気付いた。この水溜まりは、全て勇者の血。端末に斬られ続けて大量出血をしている。


「兄貴……まだ動けるなら逃げてくれしぃ。ウチはもう戦えないしぃ……」


 サシャの体はボロボロ。端末の攻撃で肋骨は折れて肺に刺さり、手足は一本ずつ逆を向いている。それに魔力も使い過ぎて、残り(わず)かしかない。ここまでの窮地は初めてで、心も折れ掛けている。


「そんなことできるわけないだろ! 絶対にお兄ちゃんが守ってやるからな!!」


 勇者も満身創痍。歯を食いしばり、痛みに耐えながらサシャを励ます。


「がはっ」「ぐはっ」


 そんな最中、二人は同時に血を吐き、お互いの顔を真っ赤に染める。


 端末の刀が勇者の背を貫き、腹から出て、サシャの腹にまで突き刺さったからだ。


「ぐっ……すまない。も、もうサシャを傷付けさせないからな。ぐふっ」

「ううぅぅ……」


 真っ赤な顔で無理して笑う勇者に、サシャは涙を流す。


「いいから兄貴だけで逃げろしぃ!!」


 そして口から血を飛ばして叫んだ。


「いやだ!」

「いいから行け…しぃ……」

「サ、サシャ!? サシャ!!」


 先ほどの大声が最後の力だったのか、サシャの意識が途絶え掛ける。


「ううぅぅ……お兄ちゃん……」

「な、なんだ!?」

「怖いよ……助けて……」

「サ……サシャ~~~!!」


 そうしてサシャは、勇者に助けを求める言葉を最後に、目を閉じるのであった。


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