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 カチャリ……


 サシャは、ナノレベルまで端末を切り刻むと、刀を鞘に戻した。


「……これでもダメか~」


 簡単に倒せたように見えた端末は、サシャの言うように生きている。砂煙が集まり、みるみる接合して元の形に戻ろうとし、顔が完成すると位置が逆だったからか、首だけ捻りながらサシャを見た。


「凄い剣技でした。マネするには、さすがに時間が掛かりそうですね」

「まだマネできると思ってるんだしぃ……」

「もちろんですとも。くふふ」


 いまだ体の戻らない端末に、サシャは問う。


「ところでさ~。弱点って無いしぃ?」

「弱点? これといっては……せいぜい制御が難しいっとことですかね?」


 ダメ元で聞いたサシャなのだが、普通に教える端末。その答えも、弱点が無いと言われただけで、答えになっていなかった。


「ま、いいしぃ。これあげるしぃ」


 サシャはそれだけ言うと、小さな黒い物体を下手で投げた。端末は突然のプレゼントに虚を突かれたからか、もしくは余裕からか、たったいま完成した手を伸ばす。


「【転移】!!」


 黒い物体が端末の手に触れるコンマ数秒の瞬間を見定めたサシャは、突然転移魔法を使った。

 その直後、黒い物体に触れた端末は光に包まれた。


 黒い物体の正体は、サシャの魔法【反物質】だ。余裕ぶってノロノロ元の形に戻ろうとしていた端末に、サシャからの贈り物。それも特大の贈り物であった為、爆心地に居た端末は一瞬で姿形が無くなった。


 これで楽に倒せると考えたサシャであったが、ちょっとやり過ぎ。爆発のエネルギーは帝都に届かなかったものの、余波はえらい事になっている。

 一番近くに居た人間や物は吹き飛び、崩れかけの外壁も吹き飛び、その破片が町に降り注ぎ、家屋を壊している。

 巨大なキノコ雲が突如現れたからには、逃げ惑う人も続出。破片が降り注ぐので、怪我人も続出。


 これが勇者のしでかした事と民衆が知るのは、もうしばし時間が掛かるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 時は少し戻り、城の一階で、地面の揺れと大きな音が収まったと感じた姫騎士は、勇者を見た。


「勇者殿……いまのは?」

「わからない……。外のヤバイ奴の仕業かも……」

「状況を確認したい! どちらの方角に居るかだけでもわからないか?」

「たぶん東。ついて来い!」


 勇者は姫騎士を伴って走り、先ほどの揺れと音に驚いて無抵抗の帝国兵を跳ねながら二階に上がる。そして、頭の中で地図を思い出しながら、壁を数枚破って進む。

 姫騎士は、「私の家が……」とか呟いていたけどおかまいなし。最後の壁には両手を付けて、軽く押しただけで穴が開いた。


 そうして肩を落として勇者に追い付いた姫騎士は、外の景色を見て膝を突く。


「わ、我が町が……」


 見るも無惨。城壁辺りにある大穴から、一直線に二本の太い線が引かれ、その線上には家が一件も建っていない。その近くの家も、衝撃波の影響で崩れかけている。

 そんな光景を見たならば、これから帝都を奪い取ろうとしていた姫騎士も、思い出が走馬灯のようによぎったようだ。


「おい! 姫騎士!!」


 思い出に閉じこもっていた姫騎士は、勇者の声を聞いて、涙目ながらもこっちに戻って来た。


「ん……あ、ああ……」

「気持ちはわからんが、呆けている場合じゃないぞ。アレを見ろ」


 遠くを指差す勇者に、「どうして気持ちがわからないんだ!」と怒鳴りたかった姫騎士であったが、巨大な人型の物体を見て思い留まる。


「なんだアレは……」

「たぶん、ヤバイ奴の正体だ。正直、町から追い出したのは正解だと思う」

「これで最小限の被害だと……」


 勇者の言葉に、無理矢理納得しようとする姫騎士。


「ん? 小さくなった?」

「最長老かな? 飛び回って何かしているみたいだ」

「私には見えないが、勇者殿が言うならそうなのだろうけど……」


 さすがに距離があり、勇者の目でも、素早く動くサシャの姿形は捉えきれないようだ。それからしばらく眺めていたが、サシャなら大丈夫だろうと、姫騎士が情報確認はこれでいいと言い掛けた瞬間、勇者が覆い被さって来た。


「姫騎士!」

「あ、勇者殿……」


 突然抱きつく勇者に、姫騎士は身を委ねて床に倒れ込む。


「な、なにを……キャーーー!!」


 やや嬉しそうに質問する姫騎士は、次の瞬間、大きな音に驚いて悲鳴をあげる。どうも勇者に抱かれた事で、女を思い出してしまったようだ。


「こ、この音は、まさか……」


 衝撃が落ち着くと、姫騎士は立ち上がってヨロヨロと穴に近付く。


「やはり……」


 本日二度目の膝突き走馬灯。外の光景は巨大なキノコ雲で、空が見えなくなっている。その見覚えのある光景に、姫騎士はサシャがやり過ぎたのだと答えに行き着いた。


「これって森でもあったよな? 最長老って、本当にサシャによく似た魔法を使うんだな……」

「ゆ、勇者殿! 一刻も早く、父上の元へ連れて行ってくれないか!?」


 最長老とサシャを結び付けようとする勇者は、焦った姫騎士に止められる。


「う~ん……まだ何か起こりそうなんだよな~」

「それならばなおのことだ! もう戦争をしている場合ではない! 帝国……人族存亡の危機だ。一刻も早く皇帝を退けて、民の誘導に努めなくてはならない!!」

「たしかに、急いだほうがいいか」


 姫騎士の剣幕に押されて勇者は走り出す。姫騎士はそのあとに続き、勇者に道を教えながら進む。その道中で呆けている帝国兵には、降伏を呼び掛けていた。



 まずは玉座の間に向かうが、皇帝の姿はない。皇帝の執務室、寝室も覗くが、そこでも発見できなかった。そんな中、勇者の勘に頼ってみたら、即解決。

 なんのことはない。勇者の勘ではなく、ただの推理。あれほどの爆発があったのならば、何が起こったか確認したい衝動に駆られたのだろう。


 一番見晴らしのいい東の屋上にて、皇帝を見付ける事となった。


 刀を握った姫騎士は、勇者と共にゆっくりと近付く。

 十人の近衛騎士は皇帝に逃げるように促すが、皇帝は東を見たまま動こうとしない。


「父上……お首を頂戴しに参りました」


 近衛騎士が剣を構える中、姫騎士は丁寧に問い掛ける。


「クリスティアーネか……」


 皇帝は姫騎士の声を聞いて、ようやく体を向け、語り掛ける。


「隣の男が勇者か?」

「はい。魔王が召喚した勇者です」

「つまり、お前は勇者二人と、魔王を味方に付けたと言うわけか……」


 意気消沈の皇帝に、姫騎士は降伏を呼び掛ける。


「あの魔法を見たでしょう? 父上に、万にひとつも勝ち目はありません」

「そうだな。余に勝ち目はないな。だが……」


 皇帝は負けを認める言葉を口走るが、東に視線を向ける。


「お前にも勝ち目はないかもしれない」

「まだ諦めていないのですか……」

「違う。アレを見よ……」


 皇帝の諦めの悪さに、ギリギリと歯を鳴らした姫騎士であったが、弱々しく東を指差す行動に不思議に思い、姫騎士も視線を向ける。


「アレは……」

「お伽噺(とぎばなし)の神だ。いや、神だと思っていた悪魔だ」


 煙が晴れ行く中、巨大な影を見て、皇帝の体が小刻みに震えていた。


「余は、なんてものに頼ろうとしたのだ……」


 実の父親の震える姿に、姫騎士は掛ける言葉が浮かばない。しかし、空気の読めない勇者が代わりに口を開く。


「とりあえず、いまのところは、姫騎士の勝ちって事でいいか?」


 その声に、姫騎士もこんな事をしている場合ではないと気付く。


「そうだ! 何もする気がないのなら、私に下ってもらおう。騎士諸君も、剣を収め、いまはこの危機に協力してくれ!!」


 近衛騎士は、一斉に皇帝を見る。


「好きにしよ」


 皇帝の敗北宣言に、姫騎士は近衛騎士に刀を向けて高らかに宣言する。


「これより、私がこの国の女王だ! 私に従うのならば、元皇帝を拘束しろ!!」

「「「……はい」」」


 近衛騎士の半数は賛同というわけではなく、姫騎士に襲い掛かろうとしたが、皇帝に止められる事となった。その者達と皇帝は、一時地下牢への幽閉に決まり、姫騎士軍に連行されて行く。



 こうして帝国との戦争は、姫騎士軍の大勝利となり、クリスティアーネ女王誕生という吉報が、帝国中に広がるのであった。


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