表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/187

015


 パリングラ温泉に着いた魔王一行は、湯気の上がる町を歩く。魔王は町の成り立ちを話しつつ、温泉まんじゅうを食べながら進み、魔王オススメの宿に到着する。



「これはこれは魔王様。ようこそいらっしゃいました」


 魔王とガイドの交代。宿の主人のリザードマンに部屋まで案内される一行。リザードマンと言っても、人の体の一部に鱗と水掻きがあるだけで、ほとんど人族と変わらない。

 当然、借りる部屋はひと部屋。ここで一行は、一緒に寝る事となる。昼を過ぎていたので昼食は出ないが、温泉まんじゅうを買って来たので、それで夕食まで我慢する事にしたようだ。


 そして、勇者お待ちかねの温泉。主人は魔王の為に特別室を用意してくれたので、備え付けの岩風呂だ。




「は~い。あんよがじょうず。あんよがじょうず」


 目を(つぶ)る勇者を茶化すように、テレージアが誘導する。目を開けられないのなら、あとから入ればいいのに……

 仕上げは魔王。木の椅子に座らせて、石鹸とタオルを渡す。その時、事件が起きた。


「む……ここにもスライムがいるのか?」


 目を瞑った勇者は、柔らかいモノを揉む。皆さんのお分かりの通り、アレだ。


「お兄ちゃんのえっち……」

「え? まさか……」

「フゴー! フゴー!」


 ヘタレ勇者はすぐに手を引くが、鼻息を荒くしていたオッサン妖精女王は、残念がるのであった。

 その後なんとか体を洗った一行は湯船に浸かる。


「「「はぁ~~~」」」


 皆、ご満悦。温泉によって旅の疲れを落とす。アルマに乗って、半日の旅の疲れを……。ちなみにテレージアは小さいので、桶に入った湯に浸かっている。


「うちのお風呂も気持ちいいですけど、バリングラ温泉は格別ですぅぅ」

「あたしは初めてだけど、なかなかいいものね」

「ですよね~。美肌の効果もあるのですよ~」

「なぬ!? 魔王の城から移住しようかしら」

「あ、それいいですね。ドアーフさん達がよく療養に来るから、妖精さん達が癒してくれると喜んでくれますよ」

「うっ……働くくらいなら、魔王の城にいた方がマシね」


 どうやら妖精達は、魔界の穀潰(ごくつぶ)しのようだ。


 緊張した勇者はガールズトークに参加出来なかったが、ある単語に反応して、ようやく声を出す。


「ドアーフも魔界にいるのか」

「二百年前から、なんだか人族の人に無理矢理働かされたとかで、移住する人が多かったから受け入れたようです」

「ドアーフは、魔界で何をしているんだ?」

「農具や包丁、馬車なんかも作ってくれています。魔族は製鉄が苦手ですから、ドアーフさん達が来てくれて助かっていますよ」


 魔王の台詞に、勇者は驚く。


「剣を作るのが趣味の、あのドアーフが!?」

「農具でも、楽しそうに作っていますよ」

「嘘だろ……。あ、ドアーフと言えば、敵対しているエルフもいるのか?」

「いますよ。仲が悪いかどうかはわからないですけど、ドアーフさんは北の山周辺で暮らして、エルフさん達は南で果樹園をして暮らしています」

「エルフが果樹園? なんだかうまそうな果物を作りそうだな」

「マンゴーなんて、最高に美味しいですよ! ……でも、人族が攻めて来たら、果樹園を放棄しないといけません……」


 魔王が悲しそうに言うと、勇者は地図を思い出し、魔族と人族が睨み合っている場所を思い出す。


「あ~。パンパリーの町に近いのか」

「お兄ちゃん! マンゴーの為になんとかしてください!!」

「サシャの為なら、なんとかしてやりたいんだけど、攻撃が苦手だからな~」

「そこをなんとか~」

「サシャが攻撃したらどうだ?」

「前も言った通り、生活と農業関連の魔法しか使えないから無理です!」

「じゃあ、人族のスカウトを成功させないとダメだな」

「来てくれたらいいんですけど……」

「まぁ成るように成るさ」


 心配する魔王を元気付けようと、勇者は頭を撫でようとするが、空振って空を撫でる。目を開けていたとしても、撫でられたかどうかわからないが……



 その後、温泉を堪能した一行は、女性陣からお風呂を上がり、最後の勇者が浴衣に着替え終わる頃には、夕食の準備が整っていた。


「バリングラ温泉名物、ビックボアの鍋は出汁が効いて最高です~」

「う~ん……うまいっちゃうまいけど、もう少し肉が入っていてもいいんじゃないか?」

「肉は最小限で出汁が出れば、白菜やお麩に染み込むじゃないですか?」

「ビッグボアは、ステーキがうまいんだよ」

「この丹精に育てられた野菜には敵いません!」

「これだから人族は野蛮よね」

「「ね~」」

「いや、魔族の魔王はこっち側だろ」


 勇者のツッコミは最もだが、いかんせん、ベジタリアンの魔王には通じなかったみたいだ。目をパチクリする魔王もかわいかったから、それ以上の追求はしなかったようだが、それでいいのか?


 夕食が終われば、勇者待望の就寝タイム。女将さんが布団を敷いて出て行くと、川の字になって横になる。テレージアは点だけど……

 フゴフゴ言っているテレージアを無視して魔王は眠りに落ち、徐々に布団を魔王から離していたヘタレ勇者も、壁際まで到着すると眠りに就く。

 それを見ていたオッサン妖精女王は舌打ちをして、魔王の布団に潜り込むのであった。




 翌朝、朝食を済ませた魔王一行は朝早くからお土産を買って、勇者のアイテムボックスに入れて旅立つ。ついでに昼食のおにぎりも入れていた。ついでに……


 その後、アルマに山の麓まで揺られて進み、また勇者の体を売って、おとなしくバリングラ温泉の牧場に帰らせた。


「さあ、行くわよ~」


 テレージアは張り切って先導して飛び、魔王達も続いて森へと入る。獣道を歩き、山を登って行くが、徐々にペースが落ちる。


「はぁはぁ」

「サシャ。大丈夫か?」

「は、はい。なんとか……」

「まったく、体力が無いな~」

「そう言うテレージアも、俺の肩に乗っているじゃないか」

「あ、あたしはいいのよ!」


 ぺちゃくちゃと、勇者とテレージアが言い合いをしながら山を登り始めて一時間。早くも魔王に限界が来る。


「はぁはぁ……少し休憩させてください」

「まだちょっとしか進んでいないわよ? このペースじゃ、山を越えるのに何日も掛かっちゃうわ」

「すみません……」


 ずっと勇者の肩に乗っていたわりには、辛辣(しんらつ)な意見を言うテレージア。魔王は体力が無いのはわかっているので、素直に謝るのであった。


「う~ん……確かに、このペースでは進んでいないのと一緒だな」

「うぅ。ごめんなさい」

「あ、サシャが謝る事はないんだ。いい方法があるぞ!」

「「いい方法?」」


 魔王達は疑問を口にするが、勇者はニヤニヤと気持ち悪い顔をしながら腰を落とす。いわゆる、おんぶだ。


「背中に乗ったらいいのですか?」

「ああ。これでスピードアップできるぞ!」

「それじゃあ、お兄ちゃんが疲れるんじゃ……」

「俺は大丈夫だ。なんたって頑丈な勇者だからな」

「はあ……」


 魔王は頑丈と体力は違うと思ったが、口には出さず、勇者におぶさる。すると勇者は魔王を乗せて立ち上がるが、歩く事もできずに膝を折るのだった。


「え……ひょっとして、私ってそんなに重いのですか!?」


 魔王は自分の体重が気になるお年頃なので、わなわなと顔を青くする。


「い、いや。その……ポヨンとしたモノがムニっとなって……俺にはできない~~~!」

「「は?」」


 どうやら、なんとか発した勇者の言葉は、魔王の胸について表現しているようだ。勇者は、魔王の胸が背中に当たって運べないと言えないほどの……


「このヘタレ~~~!!」


 ん、んん~……激怒するテレージアに台詞を持って行かれたが、そう言う事だ。



 魔王は恥ずかしがり、勇者はへなへなとし、テレージアが勇者を(ののし)っているその時、ガサガサと音を立てて、巨大な何かが近付いて来るのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ