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「どうして私はナデナデできないんですか~」


 一向に頭をナデナデしてくれない勇者に泣き付く魔王。勇者も触れようと頑張っていたのだが、最愛の妹だけにヘタレな勇者では致し方ない。


「す、すまない……もう少し時間をくれ」

「もういいです!」

「プシューーー」


 謝る勇者を暗殺。抱きついて意識を奪い、手を持ってセルフナデナデ。しかし、魔王は満足していないようだ。


「うぅぅ。なんか違います~」


 そりゃそうだろう。自分で撫でさせているのだから、人形とたいして変わらないのだからな。


「もうアニキの事は諦めたら? オレが貰ってやるよ」


 策略のコリンナのクリティカルヒット。相思相愛なのだが、勇者から触れられないのだから、チャンスはあると考えて略奪しようとしている。

 この辛辣なセリフに魔王は涙目になるが、反論が思い付かない。


 そんな中、フリーデとテレージアがテーブルに同席した。


「またヤったの? いつになったら勇者は魔王に慣れるのよね~」


 幸せそうに眠る勇者を横目に見ながら食事を始めるテレージア。見慣れた光景では、おっさん妖精女王には物足りないようだ。


「どうしたらお兄ちゃんは、私を抱いてくれるんでしょう……」


 かなり際どい事を呟く魔王の言葉に、テレージアの耳がピクピクする。最近、三人の進展がないので、新しい刺激が欲しかったようだ。


「イメチェンしてみたらどう? サシャと見た目が変われば、緊張しなくなるかもよ」

「そ……それです! さすがテレージアさんです!!」


 魔王に褒められたテレージアは鼻高々。しかしコリンナは敵に塩を送られて、テレージアを睨んでいる。


「コリンナもイメチェンしてみなよ。いつも男っぽい格好だし、女の子っぽくしてみたら?」

「た、たしかに! でも、服なんて持ってない……」

「たしかあっちに、住人に配る服があったはずよ。わたしもコレ、端切れから作ってもらったんだ~」


 テレージアは戦いに参加しないので、暇すぎて軍の馬車をウロウロしている。そこで出会った女性にチヤホヤされて、何着か服をプレゼントしてもらった。


 ゆるふわ系の服を着たテレージアは空を舞ってくるりと回ると、魔王とコリンナは目を輝かせる。


「かわいいです~。私も欲しいです~」

「オ、オレも、ちょっと着てみたいかも」

「フフン。じゃあ、これを食べたら行きましょう」


 食い意地の張った妖精女王を急かす魔王とコリンナであったが、案内役が居なくては服を調達できない。仕方なくバクバク食べるテレージアを、恨めしそうに見続けるのであった。



 テレージアの食事が終わると、フリーデもちょうど食べ終わり、ウトウトとし始めた。なので魔王とコリンナはフリーデの手を引いて歩き、空を舞うテレージアの案内で、とあるテントに入った。

 そこで「キャーキャー」と叫ぶ女性に次々と服を着せ替えさせられる。どうやら、美人の魔王と、かわいらしい少女二人に舞い上がっているようだ。

 魔王達はと言うと、魔王以外はたじたじ。魔王はいろんな服を着れて楽しそうだが、コリンナは戸惑っている。フリーデは……寝てるな。寝てるのに、無理矢理着せ替え人形にされている。


 そうして長い時間服を選んでいた魔王達は、勇者の眠るテーブルに戻った。

 しかし勇者は起きる気配がないので、魔王が魔法で作った水をぶっかけて起こす。


「わ! な、なんだ!?」


 驚きながら目覚めた勇者はキョロキョロしたのも束の間、魔王に目を留める。


「サシャは何を着ても似合うな~」

「うっ……一目でバレてしまいました~」


 魔王の格好は、いつも下ろしていた髪をポニーテールにまとめ、スーツ姿に眼鏡を掛けた秘書スタイル。出来るだけ元の姿から変えたのだが、勇者には一発で見破られてしまった。


「オ、オレはどうかな?」

「……コリンナか? かわいらしくなったな~」

「やった」


 手をグッと引いて喜ぶコリンナの格好は、何がなんだかわからなくなって、テレージアと同じくゆるふわ系。しかし仕草が男っぽいので、少しもったいない。

 ちなみにフリーデは森ガール。寝ている内に着替えさせられ、本人は何を着せられているかわかっていない。


「で、あたしはどうよ? 褒め称えなさい!」


 無い胸を張るテレージア。


「……どこか変わったか??」

「ムキー!!」


 しかし羽虫程度にしか見ていない勇者には、違いがわからなかったようだ。怒ったテレージアは勇者の顔にドロップキックをお見舞いしていたが、ノーダメージ。虫に刺されたほども効かなかった。



 それから服飾テント近くに移動して、服を替えては勇者の前に現れるファッションショーが始まった。


 魔王達がわいわい騒いでいると、姫騎士も魔王達のファッションショーに加わる。ただし、魔王に対してだけ勇者のテンションが変わるので、姫騎士とコリンナは納得いかない顔をしていた。

 それに付き合わされていた勇者はと言うと、美女を(はべ)らせていたので、兵士達の羨望(せんぼう)の眼差しが突き刺さっていた。まぁ頑丈な勇者には効かないし、魔王を見る事に忙しかったので、気付いていない。

 その事もあって、何事かと人々が集まり、ファッションショーは男も女も関係なくテントを囲み、大きな輪となった。


 しかし、そんな騒ぎが起こっていたならば、あの人も黙っていない。


「うぅぅ。楽しそうだし~」


 サシャだ。ファッションショーは、もう、勇者一人に見せるモノではなくなってしまい、壇上に立ってポーズを決める魔王達を見てうずうずしている。


「クリスティアーネ殿下のドレス姿を見れるとは……うぅぅ」


 ヨハンネスは何故か涙している。微かな恋心を押し殺していたのかもしれない。


「なぁに~? あんたクリクリに惚れてたの~?」

「そ、そんな不敬な事は考えていない!」


 サシャに頬をつつかれるヨハンネスは、慌てて否定する。よっぽど弱味を握られたくないんだろう。


「あははは。バレバレだっつうの」

「うっ……誰にも言わないでください」

「黙っていてあげるから、ウチに協力するしぃ!」


 ヨハンネスは、怪しく笑うサシャがよからぬ事を考えていると気付く。


「ま、まさか……あの場に立つつもりなのか??」

「こんな楽しそうな事に参加しないわけないっしょ~!!」

「いや、こんな大勢の前に姿を現したら、勇者殿にバレてしまうぞ!」

「そこをなんとかするのがあんたの仕事だしぃ!!」

「む、無理だ~!!」


 こうして飛び入り参加のサシャを加え、ファッションショーは続くのであった。


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