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帝都西門をサシャの魔法で破った頃、勇者は爆発を見て振り返り、マント姿のサシャの背中を見ていた。
「サシャみたいな魔法だったな……まぁそんなわけないか。さっさと、仕事を終わらせよう」
魔法を見ても、サシャがこの世界にやって来たと気付かない勇者は走り出し、西門に突撃。
そこには兵士が整列して肉の壁を作り、一人で突っ込む勇者を笑っていたが、ボーリングのピンのように倒されて、笑い声から怒号に変わる。
剣で斬り付け、魔法を放つが、勇者は止まらない。なので、前進を止めようとスクラムを組んだところで勇者は右折。
それどころか、反転して外壁に向かった。
「「「「「へ??」」」」」
急に反転した勇者を不思議に思って見ていた兵士は、勇者が外壁を破って出て行くと、一様に惚けた声を出した。勇者初体験の者は信じられないのであろう。
しかし、数秒後には、また怒号が響く。
外壁に開いた穴から少し離れた所が崩れ、勇者が現れたからだ。そこから右回りに進んだ勇者が糸を縫うように穴を開けるから、たまったものじゃない。
これ以上穴を開けられないように勇者を追い掛け、剣を振り、体を掴み、必死に抵抗しているが、止まる素振りもない。
それどころか突き放されて、外壁に穴が増え続けるのであった。
勇者が外壁を反時計回りに穴を開けている逆側でも、怒号が響いていた。
「弓だ! 魔法だ! これ以上、魔法を撃たせるな~~~!!」
サシャだ。サシャが時計回りに走りながら、爆発魔法をを撃ちまくっている。
「人を巻き込まないって面倒臭いしぃ。悪い奴等だから、ちょっとぐらい……」
人族を犠牲にしようとは、勇者にあるまじき言動……。それでも感知魔法を使って帝国兵が居ない場所を選んで穴を開けるサシャ。
外壁の上から放たれる弓矢や魔法は、凄い速度で走っているから外れてばかり。たまに当たりそうな攻撃は、刀で対応。全て叩き落とす。
なんなら、その場で留まって、わざと弓矢と魔法に晒される。
「よっはっとっ! あんまり面白くないしぃ!!」
簡単なお仕事に飽きて、自分から死地に飛び込んでみたが、ノロイ攻撃はサシャを満足させられない。
結局は先を急ぐしかなく、サシャはつまらなそうに、外壁に穴を開けて行くのであった。
双子勇者が左右に分かれて穴を開けていると、ややサシャが早くに東門に到着。門を刀で細切れにして勇者を待っていたら、遅れて勇者が現れた。
「お疲れさん。でも、俺より早いとはビックリだ」
勇者は労いの言葉を掛けるが、サシャは話をしたくないからか、アゴをくいっとして東門を見る。
「ああ。そうだな。……本当に一緒じゃなくて大丈夫なのか?」
心配する勇者に、サシャはコクリと頷き、またアゴで指示を出す。
「そうか……わかった。無理はするなよ?」
サシャが頷くと勇者は走り出す。二人が喋っている間も、帝国兵が集まって来ていたので、勇者を盾にして突っ込む作戦だ。
正面から来る遠距離攻撃は勇者に弾かれ、外壁から放たれる弓矢はサシャの防御結界に弾かれる。
難無く東門から帝都に入った二人は、勇者が帝国兵を跳ね、両サイドから迫る帝国兵は、サシャの風魔法で吹き飛ばされる。
そうして二人が猛スピードで走っていると城が見え、そのすぐあとに、城壁によって道が途切れる。
すると二人は散開。勇者は左手に行き、サシャは右手に分かれる。
もちろん帝国兵は二人を取り押さえようとするが、勇者に弾き飛ばされ、サシャに吹き飛ばされ、二人を止める事はできない。無駄に怪我人が出るだけだ。
そうして道なりに進むと二人は合流……は、できずに、別々の道を行く。勇者は心配して走っていたのだが、サシャはストレス発散で、わざと囲まれたりしていたから合流できなかったのだ。
そして徒手空拳。サシャは武器も魔法も使わずに、帝国兵を殴り飛ばす。
「う~ん……やっぱり面白くないしぃ!」
またしてもサシャのストレス発散にはならず、帝国兵も怖がって近付かなくなったので、その場をあとに……
「こんなチビに何をやってるんだ!」
いや、2メートルオーバーで全身鎧の男が現れたので、興味を持って留まった。
「チビでも、ウドの大木よりマシだしぃ」
「ウドの大木だと……貴様~~~!!」
「うっさいしぃ!!」
男が叫びながら大剣を振り上げたのだが、サシャは一瞬で近付き、百の拳を放って即終了。
フルメイルは粉々になり、男も至るところを陥没して吹っ飛んで行った。
「もっとマシな奴は居ないの~??」
男が建物の壁を突き破って倒れる中、サシャが物欲しそうに甘えた声で尋ねるが、誰も口を開こうとしないし、近付く者も居ない。
「もういいしぃ……この辺の人を皆殺しにしてから帰るしぃ」
「「「うっ……」」」
「「「「「うわ~~~!!」」」」」
サシャが明確な殺意を向けて舌舐めずりすると、帝国兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
「冗談だったんだけど……」
サシャ、渾身のギャグは帝国兵に伝わらず、辺りから人が消えてしまった。なので、地上を走るのも面倒になり、屋根を飛び交い西門に向かうのであった。
その頃、勇者はと言うと……
「貴様が剣が効かない魔族か!? この俺様が、ぐわ~~~!!」
「ん? 誰か話し掛けたか??」
こちらでも大きな男が通せんぼしたのだが、喋っている途中で勇者に跳ねられてしまい、建物に突っ込んで姿を隠してしまった。
「まぁいっか」
話し掛けられたと思って止まった勇者だったが、それ以降は話し掛けて来る者がいなかったので、走り出すのであった。
こうして双子勇者は外壁を穴だらけにし、帝国兵に恐怖を刻み込み、帝都を横断したのであった。