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「俺は本当に馬鹿だったんだな……」


 少し昔を振り返った勇者は、慰霊碑の前に座り、なんとも言えない表情で呟く。

 同じように昔を振り返っていた巨乳の魔王に変装したサシャは、「いまさら?」とか思いながら、哀愁漂う勇者の背中を見ている。


「いまなら妹の気持ちがわかるよ。あの時の妹も、こんな気持ちだったんだろうな。それを俺は、何も気付けていなかっただなんて……」


 一人で喋り続ける勇者に、サシャは声を掛けようか悩んでいる。


「あの時、おっちゃんに言われた通り俺が別行動をしていれば、多くの人を助けられたんだ。その亡くなった人の命まで、サシャの両肩に背負わせていたなんて……俺は本当に馬鹿だ……」


 どんどん小さくなる勇者の背中に、サシャは思う事があるのか口を開く。


「まぁあん時は、ウチも兄貴に助けられたから、アレ以外方法がなかったしぃ」

「え??」


 素で喋ってしまったサシャは、振り向いた勇者を見て、慌てて口調を変える。


「ほ、ほら、サシャさんより強い敵がいたんじゃないですか? 別行動なんてしてたら、二人とも死んでいたかもしれないじゃないですか!」

「そうだったかもしれないが……」


 不思議そうに見る勇者に、サシャは喋り続けてごまかそうとする。


「きっとサシャさんも、お兄ちゃんのせいだとは思っていませんよ。運が悪かった……いえ、慢心があったのかもしれません……」

「慢心……俺も、サシャならなんでもできると思っていたから同罪だな。いや、もっと罪が重い。その事にいままで気付かなかったんだから……」


 落ち込む勇者に、サシャは珍しく自分から勇者の肩に触れる。


「気付いたんなら、取り返せばいいだけだしぃ! ウチもあの時、初めて気付いたんだしぃ! それにバカ兄貴が思っているより、ウチは弱くないしぃ!!」


 またしても素で喋ってしまったサシャに、勇者は振り返ってポカンとする。


「て、妹さんならきっと言いますよ……」


 苦し紛れの言い直しに、勇者は笑いながら答える。


「あはは。本当に妹そっくりだったからビックリしたよ」

「そ、そうですか……」


 サシャは「セーフ!」と思うと同時に、「まだ気付かないのかこいつ」と思うのであった。


「でもな~……」

「でも?」

「戦う術がない」

「あ~……」


 サシャ納得。攻撃の出来ない勇者なのだから、勇者としての務めに気付いても、その先がなかった。だが、アドバイスは簡単だ。


「殴ったらいいのでは?」

「前にも言っただろ? ホーンラビットがミンチになった話。それで妹を泣かせてしまったから、その顔がいまでも目に焼き付いてトラウマなんだよ」

「ホーンラビット……あ~~~!!」


 突然叫ぶサシャに、勇者は首を傾げる。


「そんな昔の事で……」


 勇者のトラウマの原因を思い出したサシャは、照れながら語り掛ける。


「突然の出来事で泣いてしまったからお礼を忘れてたしぃ。お礼を言い忘れたのはごめんだしぃ。あの時はありがとう。だから気に病む事はないしぃ」

「……サシャ??」

「て、妹さんなら言うと思いますよ!」


 またまた素が出たサシャに、さすがの勇者も疑うように顔を見ている。


「ふぁ~。眠たいです~。先に寝ま~す。おやすみなさ~い」


 サシャも疑い出した勇者に気付き、逃げるようにその場を離れる。

 勇者は追い掛けようかと考えたが、まだ考え事が残っていたのか、慰霊碑に向き直って酒を飲んでいた。





 二日後……


 姫騎士軍は隊を分けて、帝国各地に進軍した。と言っても、戦闘行為は極力避けるように命令し、籠城する町の前で降伏勧告。

 さらに、姫騎士軍に(くみ)するなら「今後の安寧を約束する」と口上を述べ、食糧を無料で配っただけで撤退した。


 町の住人は、軍隊を見て恐怖に震えていたが、姫騎士が生きて帰ったと聞くと嬉しそうな顔へと変わる。

 そして女王に就く旨を聞くと、目を輝かせて門から出ようとしたが、駐在する騎士や兵士に止められていた。

 姫騎士軍が帰ると外出は許可されたが、大量の食糧を目にした住人は、姫騎士の言っている事は事実だったのだと受け取る。


 当然そんな事をされたのならば、住民の意思は姫騎士軍に与する事に傾き、騎士や兵士だけでは止めきれない事態となった。

 帝国兵は現在、三分の一が姫騎士軍に帰属し、三分の一が帰らず人となり、三分の一は帝国軍に帰属している。

 その帝国軍は、帝都に多くの人員を割いているので、町の防衛は少なくなっている。そんな状態では、住民を止めようがない。


 ほとんどの町は、無条件で姫騎士の軍門に下る事になる。暴力で支配しようとする町もあったが、よけい悪化し、暴動が起こるか、住民が逃げ出す。

 その結果、町は住民に奪われるか、もぬけの殻となって自治はままならない。



 こうして姫騎士軍は戦わずして、帝都以外の町を全て手中に収めるのであった。



 そんな中、帝国での姫騎士軍躍進を聞いた小国は、次々と帝国に反旗を(ひるがえ)し、姫騎士軍に合流する。

 ただし、姫騎士と謁見する際には、帝国に兵士を奪われて不足しているので、少ない兵士しか送れないと申し訳なさそうに言っていた。

 しかし姫騎士は、笑って増援は断り、お土産に魔族産の穀物まで大量に与えていた。この事で、ますます姫騎士への人望が集まる事となった。


 着々と帝国滅亡の包囲が完成させた立役者は、魔王と勇者。魔界産の穀物を惜しみ無く提供し、足りなくなれば勇者が猛スピードで取りに戻る。

 そのせいで美人の魔王の人気も大幅に上がり、「魔王じゃなくて聖女じゃね?」って声が多くなる。人族からの二つ名が、聖女になりつつあるようだ。

 ただし勇者は、魔界に旅立ってその日に戻って来るので、二つ名は走る勇者に逆戻りしている。


 姫騎士軍について来た元魔族軍のメンバーは、先に述べた通り魔王と勇者は忙しく働き、その中でも一番働いていたのはコリンナ。町の者を丁重に(とむら)ってくれた事に感謝し、姫騎士に少しでも恩返しがしたいようだ。

 フリーデは……寝てるか食べているかだけで、特に何もしていない。だが、かわいい容姿からか、意外と人気が高い。眠り姫と二つ名がついている。


 その他の……


「ねえ?」

「なんだしぃ?」


 テレージアとサシャは暇そうにしている。


「あんたって、勇者よね?」

「そうだしぃ……なに?」

「勇者って、もっと前線で役に立つものじゃないの?」

「まぁ……強い敵がいたら、前線に行くんだけどね……」


 二人は暇すぎて、話も弾まない。


「じゃあ、毎日ゴロゴロしてないで戦って来なさいよ」

「だから~。戦う敵がいないんだしぃ」

「一人ぐらいいるでしょ」


 暇潰しにテレージアが責めたら、サシャは突然キレる。


「勇者の敵は魔王なんだしぃ! この世界はなに? 魔王が聖女ってどういう事だしぃ!!」


 そう。使命の無い勇者は、ただの人。いや、もっと(たち)が悪い。維持費に金が掛かる()びた兵器なのであった。


やっちまっていました……

全てのストックが一日で更新……

それを今日気付くとか……


というわけで、しばらく週二日。

水曜、土曜日に更新します!


忘れなければ……

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