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 四天王最強のミノタウロス、タウロスに噛み付いたサシャは、気持ちを落ち着かせて手を上げる。


「は~い。ちょっといいしぃ?」

「あ、ああ。なんだ?」


 タウロスはすぐに戦闘になると思っていたらしく、意表を突かれてサシャの質問に答えようとする。


「普通、こういう時は、最初に最弱が来てから、徐々に強くなるんじゃないしぃ?」

「確かに昔はそうしていたらしいが、まぁ魔族にも、いろいろと事情があるんだ」

「事情??」

「それは……なんでお前なんかに言わなくてはならんのだ!」

「え~! 言い掛けたんだから言えしぃ!!」

「うっさいわ! 我に勝てたなら教えてやる!!」

「う~ん……ま、そっちのほうがわかりやすいか。やってやるしぃ!」


 サシャは刀を抜いて、剣先をタウロスに向けると真剣な顔つきになる。


「フッ……ならば受けてみよ! モォォォ!!」


 タウロスは笑みを浮かべた後、右手に持った金棒を横に振り、サシャは受ける事をせずに飛んで避ける。


「ぐふっ……」


 その刹那。苦しむ声が聞こえた……勇者だ。

 サシャは紙一重で避けたが、勇者はタウロスの金棒をまともに喰らってぶっ飛んだ。数度バウンドして止まったが、フラフラと立ち上がった時には頭から血を流していた。


「兄貴!?」


 サシャが何度も攻撃をしても無傷だった勇者の血を見て、サシャは驚いて叫んだ。


「くっ……サシャ。気を付けろ。今までの敵と違うぞ」


 思いもよらないダメージを受けた勇者は、珍しく真面目な顔になる。


「んなのわかってるしぃ!」


 サシャは相手の力量に気付いていたので避けたのだ。それでも勇者なら大丈夫だと思っていたのだが、血を見てガラにもなく心配したようだ。


「我の一撃を喰らって生きているとは驚きだ。少しは楽しませてくれそうだな」

「どっち見てるしぃ! あんたの相手はウチだしぃ!!」


 タウロスが勇者を褒める中、サシャは吠える。


「楽しむのはウチのほうだしぃ!!」


 そして自分鼓舞するように叫んだ後、タウロスに向けて駆ける。それからはサシャの【(つるぎ)の舞い】が炸裂する。

 踊るように刀を縦横斜め、タウロスの正面に居たかと思うと、次の瞬間には円を描いて背中に回り込みながら刀を振り続ける。

 しかしタウロスは驚く事に、サシャの猛スピードに合わせて動いている。刀を金棒で受け止め、間に合わなければ腕でガード。致命傷にならない攻撃は無視しても、強靭な肉体はかすり傷を負う程度。その傷も、数秒後には完全に治っている。


 傍目(はため)にはサシャの猛攻で、タウロスが一方的に攻撃されているように見えるが、余裕が無いのはサシャ。タウロスはサシャの動きに慣れて来ている。

 それでもサシャは刀を振るが、タウロスが笑みを浮かべたその時、サシャの体に裏拳がぶつかった。


 その衝撃で防御結界は破壊され、拳を喰らったサシャは吹き飛ばされて地面に転がる。


「モォォォ!!」


 タウロスは叫び声をあげ、倒れたサシャに突進。やや自分のほうが強いのだが、サシャの実力は本物。ここで確実に息の根を止めたいのだろう。

 倒れるサシャに、無情にも金棒が振り下ろされる。


 辺りにはタウロスの声と金棒が振り下ろされる衝撃音が何度も響き渡り、砂埃が立ち込める。


「これで跡形も無いだろう。わはははは」


 数十発もの金棒をサシャに振り下ろし、完全に息の根を止めたと確信したタウロスの勝利宣言。

 障害物を排除したタウロスは振り向き、城へと歩くのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「つ、つつ……」


 タウロスが城へ向かったその瞬間、サシャは目を覚ました。


「サシャ~~~」

「わ! 兄貴!!」


 そして泣きじゃくる勇者の顔を見て驚いた。


「ど、どうなってるんだしぃ……」


 サシャは現状を把握しようとする。だが、タウロスの拳が当たったところで記憶が飛んでいる。その後は想像するに、倒れたサシャを勇者が覆い被さり、全ての金棒を自身の体で受け止めたと考えられる。

 事実、サシャが吹き飛ばされた瞬間、勇者は走り出し、金棒がサシャに当たるギリギリに滑り込んで守ったのだ。


「兄貴! ウチはどれだけ寝てたしぃ!!」


 頭がハッキリしたサシャは、勇者にも現状を確認する。


「えっと……一分くらいかな? でも、サシャが無事でよかったよ~。うわ~~~ん」

「近いんだから、大声で泣くなしぃ! てか、どけしぃ!!」

「わ~~~ん」


 サシャは勇者の腹を蹴って強引に脱出して立ち上がる。勇者は背中を打ち付けたが、なんだか嬉しそうにしているよ……


「ま、まぁ……ありがとう……」


 身を(てい)して助けてくれたのだから、勇者に礼を言うのは当然なのだが、勇者は聞いているのか?


「わ! なんか灰になりかけてるしぃ!!」


 ついにデレたサシャに、子供のとき以来だった為、勇者は天に召されたようだ。

 その後、サシャにゲシゲシ蹴られた勇者は現世に留まり、記憶喪失になってサシャのデレは忘れたようだ。


「それより兄貴。体は大丈夫なんだしぃ?」

「サシャが俺の心配を……」

「あ、そんなのいらないから、さっさと報告しろしぃ」


 涙ぐむ勇者を、サシャは面倒くさそうに遮る。


「う~ん……怪我は治ったぽい? 一発目は痛かったけど、それからはたいして痛くなかったから、怪我もないかな?」

「ふ~ん……」


 珍しくサシャにジロジロと見られた勇者は顔を赤くする。照れる意味がわからない。


「ま、どうでもいいしぃ。てか、やられっぱなしじゃ、ウチの気が済まないしぃ!!」

「サシャならできるぞ~!」

「兄貴に言ってないしぃ!!」


 勇者の応援をバッサリ切ったサシャは、タウロス目掛けて走る。それに続いて勇者も走るが、またサシャの真後ろについてるよ。


「こっち向けしぃ! 【炎弾】!!」


 サシャは、城門まで迫っていたタウロスの背に炎の塊を放つ。タウロスには当たったものの、ちょっと熱いぐらいでダメージは無いようだ。


 だが、振り向かせるには十分だった。


「生きていたのか……」

「当然だしぃ!」

「あのまま死んでいたほうが楽だっただろうに……まぁいい。今度は確実に殺してやろう」

「今度は無いしぃ! ウチがあんたを倒しておしまいだしぃ!!」

「ハッ。その程度の実力では、我には到底敵わない。最後に我の本気を見せてやろうじゃないか」

「じゃあ、ウチも本気を見せてやるしぃ!」


 二人は会話を終わらせると、同時に魔法を唱える。肉体強化魔法だ。

 タウロスは目に見えて全身の筋肉が盛り上がり、サシャは全身が光で包まれる。


 二人は準備が整うと、常人には見えない速度で同時に走る。そして、お互いの武器を振り上げて合わせた。

 その音は金属音のそれでは無い。爆発音に近いもの。音と共に、辺りに爆発したかのような衝撃波が発生して、瓦礫や死骸が吹き飛ぶのであった。


 勇者は……普通に立ってるな。うん。


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