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 パーティー会場は、怒るエマーヌエルにあてられたのか物々しい雰囲気になり、中央に大きな人の輪が出来上がる。

 そこにエマーヌエルと勇者は対面して立つのだが、勇者はエマーヌエルに背を向けているよ……


「貴様! 何処を見ているんだ!!」

「ケーキを頬張るサシャもかわいいな~」

「こっち向けと言っているだろう!!」


 勇者は怒鳴られてもまったく聞かずにサシャを見続けている。それを不憫(ふびん)に思ったのかバルトルトが輪の中に入り、審判を務めるようだ。


「では……はじめ!」


 号令を聞いてもサシャを見続ける勇者。エマーヌエルが剣を抜いて近付いても、振り向く気配もない。これにはエマーヌエルだけでなく、会場に居る全ての者から、勇者を(ののし)る声が聞こえて来る。


「フッ……騎士道を重んじる私になら、そうやって構えなければ、斬られないとでも思っているのか?」


 エマーヌエルの最後通告。それとも、何か別のスイッチが入ってかっこつけてるだけか? どちらかわからないが、パーティー出席者からも斬れコールが起こる。


「ならばそのまま死ね!」


 歓声に押されたエマーヌエルは、勇者に剣を振り抜く。

 国王は勇者の実力を見るかっこうの機会だとばかりに目を見開いて見ていたが、剣の音が響き渡ると、口をあんぐり開けた。

 どうやら勇者が素早く避けると思っていたようだが、頭にクリーンヒットした事で驚いているようだ。


「フッ……私をナメているから、そうなるのだ」


 エマーヌエルは勝ち誇ったように呟くが、数秒後には、自分の置かれている立場に気付く。


「ああ。サシャ……なんてかわいいんだ」

「なっ……」


 勇者は倒れる事なくサシャを見続けているので、斬殺したと思っていたエマーヌエルは驚きの表情を見せる。

 だが、何かの間違いだと自分に言い聞かせ、もう一度剣を振り下ろす……が、空ぶる事となった。

 それは当然。エマーヌエルの実力はそれなりに高く、力と剣速が相俟って、一撃目で剣は折れ、天井に突き刺さったからだ。


「剣が……」


 エマーヌエルが折れた剣を見つめて動きを止めると、バルトルトが語り掛ける。


「さて、続行不可能に見えますが、どうしますか?」

「剣の耐久力が減っていただけだ。続けるに決まっている! 誰か、剣を持って来い!」

「では、準備が整うまで、先日の戦いを少しお話しましょう」


 バルトルトの話は、双子勇者の武勇伝。万を超えるゴブリンの群れに臆する事なく飛び込む二人。さらに上位種すら簡単に倒してしまうサシャの実力。ついでに勇者の頑丈さ。


 語り終わったバルトルトは、もう一度、エマーヌエルに続行の有無を聞く。


「嘘だ!」


 続行よりも、バルトルトの話を否定するエマーヌエル。


「嘘ではありません。私も立ち会っております」

「ハッ。なおさら嘘だな。ここから五日も掛かる距離をどうやって移動したと言うのだ。転移マジックアイテムでも使ったのか?」

「いえ。その者の引く馬車に乗ってです」

「ハハハ。人間が馬車馬になったのか。平民にはお似合いだが、苦しい言い訳だな」

「言い訳では……」

「ちょっといいしぃ?」


 バルトルトが反論しようとしたその時、サシャが二人の間に割り込んで来た。


「うわ! 急にどこから現れたんだ!」

「うっさいしぃ。てか、転移マジックアイテムってなんだしぃ?」

「平民ごときが知っていい情報ではない!」

「ふ~ん……おっちゃんは知ってるの?」

「ああ。特定の位置に、一瞬で移動できるマジックアイテムだ」


 バルトルトがサシャの質問に答えると、エマーヌエルは「ギャーギャー」言い出すが、サシャは無視して目を輝かせる。


「なにそれ! ウチも欲しいしぃ!!」

「欲しいと言われても……」

「おい! 私の話を聞けって言ってるだろ!」

「だからうっさいしぃ! それ以上喋ると酷い目にあわせるしぃ!!」

「小娘が何を……ひっ!」


 エマーヌエルが喋り終わる前に悲鳴があがる。それは何故か……瞬きする間に、サシャが銅の剣を走らせ、エマーヌエルの剣だけでなく、服まで切り刻んだからだ。

 ただし、武士の情けか、イチモツを見たくないからか、パンイチで留めたようだ。


「喋るなって言ったしぃ……つぎ、口を開いたら、あんたは服と同じ事になるしぃ」


 サシャに殺気を向けられたエマーヌエルは尻餅をつき、高速で頷くのであった。


 サシャの登場で場は騒然となったが、双子勇者の力の一端を見たパーティー参加者は静かに国王の話を聞き、お開きとなった。





 場所を変え、応接室に通された双子勇者は、国王の対面にサシャがドサッと座る。勇者もサシャの隣に座ろうとしたが、「どっか行け」と言われて、立って話を聞く事にしたようだ。

 だが、バルトルトですら国王の近くに寄らず、壁を背にしてるんだから、国王の後ろに立つのはおかしいからな?


 国王も何か言いたげなのだが、それよりも先にサシャの質問が来てしまった。


「目立つのは嫌いじゃないけど、ああ言うのはノーサンキューだしぃ」

「なんの事じゃ?」

「惚けんなしぃ。じいちゃんはウチを使って偉そうな人を黙らせようとしてたしぃ」

「ほう……」


 サシャに策略がバレた国王は、髭を触って気持ちを落ち着かせる。


「ほっほっほっ。バレてしまったか」

「やっぱりだしぃ!」

「王族はそこまでではないのじゃが、貴族達は我が強い者が多くてのう。勇者になって、さらに地位を上げたいとでも思っていたのじゃろう」

「それをウチを使って止めようと?」

「魔王が復活した今、そんな内輪揉めをしている時間は無い。民の為、一刻も早く国の意思をまとめる必要があったんじゃ。サシャや兄には悪い事をしたな。すまなかった」


 国王が謝罪して頭を下げると、バルトルトは見てはならないモノを見たと思ったのか、慌てて目を逸らした。


「……ま、じいちゃんは民の為を思ってるみたいだから、これ以上は怒らないでやるしぃ」

「ほっほっほっ。そんなにすぐに王族の言葉を信用してはならんぞ。陰謀蠢(いんぼうごめ)く毒蛇の巣と呼ばれる王宮はあるからのう」

「プッ。自分で言うんだ。ウチは兄貴じゃないんだから、そんな口先だけで騙されないしぃ」

「信用してくれているみたいじゃな」

「いまのところ、じいちゃんとおっちゃんだけはね」


 サシャはバルトルトも信用していると言った瞬間、大事な事を思い出して前のめりになる。


「転移マジックアイテム! ウチも欲しいしぃ!!」

「そうじゃったな。万が一の為に余が持っている物をサシャに渡しておこう」

「ん? いっぱいあるんじゃないの?」

「遠い昔、勇者様が作ってくれたのだが、現存する物はみっつしかないんじゃ。息子や孫と違い、老い先短い者が持っているより、勇者の旅に役立たせるほうがいいじゃろう」

「う~ん……やっぱいらないしぃ。じいちゃんが持ってろしぃ」


 サシャの意外な言葉に、国王は目を丸くする。それでも押し付けようとしたが、サシャは頑として受け取らなかった。


「よいと言っておるのに……そうじゃ!」


 押し付け合いに負けた国王は、何か閃いたようだ。


「急におっきな声を出してどうしたしぃ?」

「勇者の洞窟じゃ! そこに行けば、貴重なマジックアイテムが残っておるかもしれん。それどころか、過去の勇者が使った魔法なんかも修得できると古文書に書かれていたはずじゃ」

「それじゃあ、転移魔法も覚えられるの!?」

「可能性はある。元々勇者の使っていた固有魔法じゃからな」


 国王から勇者の洞窟の話を聞いたサシャは目を輝かせる。そんな中、バルトルトがそろりと手を挙げて声を出す。


「国王陛下。勇者の洞窟はトラップやゴーレムが多数配置されているので、いくらサシャでも攻略には時間が掛かるのではないでしょうか?」

「そうじゃったな……。我が国の騎士を何度も送り込んだが、一層目すら攻略できんかった」


 二人の話を聞いたサシャは、さらに目を輝かせる。


「なにそれ! めっちゃ面白そうだしぃ!」

「いや……一層目ですら何日も掛かる迷宮で、百層もあると言われているんじゃ」

「やりがいがあるっしょ~!」


 どうやらサシャは、勇者の洞窟を攻略する事にご執心のようだ。国王もそこまで言うならと許可を出そうとするが、部屋に飛び込んで来た宰相に邪魔をされる。


「大変です! 隣国が多数の魔物に攻められ、救助を求めております!!」


 宰相の慌てた声に、国王は気を張り詰めるのであった。


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