表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/187

142


 サシャは自分が勇者だと聞くと納得は早かったが、自分の兄が勇者だとは到底納得できないのか、国王に食い掛かる。


「じいちゃん! なんかの間違いじゃね? もう歳なんだから、目が悪いんだしぃ」

「ほっほっほっ。間違いなく勇者じゃ」

「こんな奴の、どこが勇者なんだしぃ!」

「わしの目には、加護は勇者となっておる。スキルは頑丈と……アイテムボックスじゃな」

「頑丈ってなんだしぃ! てか、アイテムボックスって、ウチが勝手に呼んでただけだしぃ!!」


 サシャ、絶好調。国王相手にツッコミが冴え渡っている。


「アイテムボックスは、確かに聞かないスキルじゃな。この頑丈も変わっておる。スキルツリーになっておるのか」

「スキルツリー?」

「何種類か付随する効果があるようじゃ。ただ、字が細かすぎて読めんのじゃ」

「老眼か!!」


 サシャのツッコミに、国王は優しく微笑み、勇者は話を聞かないでサシャを見ている。そんな二人にツッコミまくって疲れるサシャであった。



 この日は、夜も近かったので、明日にもう一度話をすると言って国王は玉座の間から出て行く。

 双子勇者は、丁重にもてなすようにと命令を受けたメイド長に案内され、城の一室を借りるが、サシャのわがままで二つの部屋をあてがわれた。

 当然、サシャは勇者と離れたかったのであろう。当然、ストーカーは離れたくないのであろう。

 サシャの風呂を覗こうとしたり、部屋の前をウロウロしていた勇者は、何度もメイド長に怒られていた……



 翌朝は、双子勇者はメイドに囲まれて綺麗な服に着替えさせられ、パーティー会場控え室に案内される。

 慣れない服装に最初は戸惑っていたサシャだが、そこは乙女。鏡に映った自分の姿に感動しているようだ。

 勇者は……サシャを見て、なんか泣いてる。なんか立派になったとか言ってる。嫁に出すわけでもないのに、意味がわからない。


 勇者が嫁に出すお父さんみたいになって、サシャが気持ち悪いと(ののし)っていると、国王も控え室に入室して来た。そこでサシャの態度の悪さでひと悶着あったが、国王の一言で落ち着かせ、パーティー会場に移動するのであった。



 国王は玉座に座ると宰相に目配せし、双子勇者を呼び寄せて説明をさせる。


「この二人は、この苦難を乗り切る為に神が使わせた伝説の勇者だ」


 宰相の一声で、辺りはざわめき出す。

 その声は喜ぶ声では無く、どこか侮辱するかのような声で、サシャの顔が険しくなる。すると、国王はグラスをスプーンでチンチンと鳴らし、注目を集める。


「余がこの目で見て判断したのじゃが、何か不満があるようじゃな。文句があるのなら、ハッキリと言え」


 国王の言葉に、一同黙るが、二人の貴族が前に出た。


「お言葉ですが国王陛下。勇者なら息子が適任だと私は考えています。他の者も、そう言ってくれていますぞ」

「エマーヌエルか……」


 国王は、意見する貴族の隣に立つ若い男を見て名を呟く。

 エマーヌエルは剣豪と言うスキルを保有しており、国王も素晴らしい才能を持っていると太鼓判を押す人物。副団長のバルトルトにも一目置かれる存在なのだが……


「陛下。どこの馬の骨かもわからない者に、勇者の称号なんて与えるものではありません。生まれも確かな我が息子、エマーヌエルこそが相応しいと、皆も思うだろう?」


 貴族の言葉に、多くいる派閥の者から称賛の声があがる。すると、サシャが苛立ったように口を開く。


「ねえ? じいちゃん。取り込んでるみたいだし、ウチは部屋に帰っていいしぃ?」


 その声に、貴族はいきり立って怒鳴り付ける。


「貴様! 陛下に対してなんて口を聞くんだ!!」

「え? ダメなの??」


 サシャは、かわいこぶりっこで国王を見る。


「ほっほっほっ。別にかまわんよ」

「なっ……」

「だってさ」


 国王の許可をもらったサシャは、勝ち誇ったような顔で貴族を見て、さらに追い討ちをかける。


「てかさ~。オッサンだって、じいちゃんに意見してるんだから、同罪っしょ~」

「ぜんぜん違うわ! なんだこの無礼な小娘は……こんな小娘が勇者だと、私は認めないからな!!」

「オッサンに認めてもらわなくとも、じいちゃんに認めてもらっているから関係ないしぃ」

「オッサン言うな!」

「うっさいしぃ。それじゃあウチは部屋に戻っているから、茶番が終わったら呼びに来てくれしぃ」


 サシャが元来たドアに向かおうとすると、国王に肩をガシッと掴まれる。


「なんだしぃ?」

「ほっほっほっ」

「だから、なんだしぃ!」

「ほっほっほっ」

「……わかったしぃ」


 サシャが折れた。笑っている国王の顔が、よっぽど怖かったのであろう。さすがは一国を統べる人物。威圧が凄いみたいだ。


「さてと、サシャが言う通り、くだらない茶番をやめようとしよう」

「陛下まで何をおっしゃるのですか!」


 貴族は納得いかないと大声を出すが、国王はまったく心を揺らされない。


「そもそもじゃよ。勇者とは称号ではない。勇者足る者の持って生まれた才覚。派閥の票を集めてなるものではない」

「才覚なら陛下も認めていたじゃありませんか!」

「人としての才覚ならじゃ。勇者は人の器に収まらん」

「し、しかし!!」


 食って掛かる貴族に、国王は静かな怒りを込めた目を送って黙らせる。


「それにじゃ……余は、エマーヌエルを最前線に送れと言ったはずじゃ。何故、いまだに王都にいるのじゃ?」

「それは……」

「お主に聞いておらん」


 国王はエマーヌエルの目をジッと見つめる。


「何故、ここにおるのじゃ?」

「……私の出番は、魔王の相手だと存じております。ザコ相手に、私の剣技を見せるのはもったいないだけです。この剣技があれば、魔王すら敵ではないでしょう」

「だから鍛練も休んでおるのか?」

「鍛練ならしております!」

「余の目は節穴ではないぞ」


 国王の視線に、エマーヌエルは背中に冷たいものを感じる。しかし、黙っているわけにもいかず、サシャを見て叫ぶ。


「ならば、そのニセ勇者を圧倒的な力で捩じ伏せてやりましょうぞ!」


 急に名指しされたサシャはと言うと……


「パース。あそこのケーキも食べていいしぃ?」


 ケーキにご執心で断った。


「貴様~!」

「うっさいしぃ。だから茶番は他所でやってくれしぃ」

「逃げるのか!!」

「逃げるも何も、あんた、バルトルトのおっちゃんより弱いじゃん。おっちゃんに相手してもらってくれしぃ」


 サシャがエマーヌエルを擦り付けようとすると、バルトルトは首を横に振る。貴族を、こんな大勢の貴族の前で相手をすれば、後々面倒なので、やりたくないようだ。


「さっさと剣を抜け!」

「はあ? ウチのこの超絶綺麗なドレス姿が見えないしぃ? 持ち歩いてるわけないじゃん」

「おい! そこのお前。剣を寄越せ!」


 サシャの意見はもっともなのか、部屋の隅にいた騎士に声を掛けるエマーヌエル。だが……


「なんてね。持ってるしぃ」

「貴様~~~!!」


 サシャは収納魔法から取り出した鞘に入った剣を、馬鹿にするように見せる。すると、怒りマックスになったエマーヌエルは(わめ)き散らす事となった。


「もういいしぃ。兄貴、やっておしまい!」

「おう!」


 サシャは面倒ごとを勇者に丸投げして、高みの見物をするのであっ……


「うまっ!」


 いや、勇者達の事などまったく気にも掛けず、ケーキを(むさぼ)り食うのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ