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 サンクルアンネン王国王都、荘厳な(たたず)まいの城に着いた双子勇者一行は、少し待たされてから玉座の間に通される。


「ほら! (ひざまず)け!」

「え~! まだ誰も来てないしぃ」

「陛下がいつ来てもいいように、跪いて待つものなんだ! バカ兄貴も玉座に尻を向けるな!!」


 バルトルトから指示が出るが、サシャは跪くのを拒否し、そのサシャを正面から見据える勇者。やりたい放題の双子勇者に常識を解くが、まったく話を聞かない二人に、バルトルトは必死になってお願いする。

 しかし時すでに遅し。開かれた扉から、国王がお供を連れて入って来てしまった。国王は白くて長い髭を揺らし、玉座に腰掛けると、双子勇者を穏やかな表情で見ている。


「早く跪け! バカ兄貴もだ!!」


 さすがのバルトルトも国王の手前、キレ気味に命令する。その声は国王に筒抜け。お供の者にも耳に入ってしまった。


「陛下の御前であるぞ! どこの田舎者だ!!」


 初老の男が叫ぶと、サシャはあからさまに不快な顔をする。


「よい。楽にしてくれ」

「しかし!」

「宰相……静かにしろ」

「は、はい」


 宰相の声に、国王は静かな声で遮る。


「それでバルトルト。その者達が、ゴブリンエンペラーを討ち取ったのか?」

「はっ!」

「なるほどのう……」


 国王はバルトルトに一声かけると、髭を触りながらサシャと勇者をじっくりと見る。するとサシャは、さらに機嫌が悪くなる。


「ちょっと~! なんか変な事してない!?」


 突然、国王に食い掛かるサシャに辺りから殺気が放たれ、バルトルトは驚いて口をあわあわする。


「ほっほっほっ。わかるのかね?」

「何してんだしぃ!!」


 サシャのあまりの物言いに、騎士達が剣に手を掛けるので、国王は手振りだけで制止を促す。

 そして、双子勇者を残して全員に玉座の間から出て行くように命令を下す。もちろん危険があると、周りから反対の声があがったが、国王は無理矢理追い出した。


「さてと……もっとちこう寄れ」

「……ウチが何かするとか思わないしぃ?」

「殺す気があったら、とっくにわしの首は飛んどるじゃろ?」

「そうだけど……」

「こんなジジイが怖いのか?」

「怖くないしぃ!」


 サシャは国王の挑発に乗ってズカズカと歩き、玉座の真ん前であぐらを組んで座る。勇者は、サシャのあとをつけて、なんとなく隣に座った。


「ほっほっほっ。敵対心は無いとでも言いたげじゃな」

「そんなんじゃないしぃ!」

「まぁわしの見立て通りの人物じゃな」

「てか、さっきから何をしてるしぃ!」

「ほっほっほっ。誰にも気付かれた事は無いのに、さすがは勇者じゃ」

「勇者??」

「順を追って話そう。わしは……」


 国王は、とうとうと語り始める。



 元々サンクルアンネン王国は、勇者発祥の地。国王も、その昔、勇者と共に旅をした魔法使いの子孫だという。

 その魔法使いは、サンクルアンネン王国の第三王子として生まれ、特殊な力を持っていた。


 特殊な力とは、鑑定眼。


 その鑑定眼とは、人や魔物、武器や道具の真の実力を見る事ができるらしい。具体的に言うのならば、人や物が持つ加護や、才能を見出(みい)だせる。

 その鑑定眼と魔法で、第三王子は勇者の旅をサポートしたとのこと。国王も鑑定眼を使って兵士や騎士に、伸ばすべき才能を助言しているらしい。


「ふ~ん……それでウチが勇者だって、どっかに書いているってこと?」

「そうじゃ。サシャの加護は勇者。スキルは剣舞と大魔法じゃ。どれも初めて見るものじゃが、それとなく実感はあるじゃろう?」

「う~ん……確かに剣を振ると踊っているように見られるし、魔法は得意だけど……」

「それがスキルと言うものじゃ。これを知らずに、違う才能を伸ばそうとしても伸び悩むのじゃ」


 サシャは国王の言葉に納得の顔はするが、いまいち信用していないようだ。


「便利っちゃ便利だけど、おじいちゃんが持っているのは、宝の持ち腐れじゃね?」

「ほっほっほっ。確かにの~」


 サシャの酷い言い分に、国王は笑って答える。


「この力を前線に立つ騎士が持っていれば、敵の弱点もわかるし、鍛治職人が持っていれば、より良い品を作り出せるのにのう」

「……ウチは酷い事を言ったけど、怒んないの?」

「事実じゃからな。こんな老いぼれでは戦場にも出れん。せめて魔王の復活がもう少し早いか遅いかしてくれたらよかったんじゃが、これも運命じゃろう」

「早いならわかるけど、遅いってどう言う事だしぃ?」

「この鑑定眼は、一世一代じゃ。わしが死ねば、おそらく息子か孫に宿るじゃろう」

「死んじゃダメだしぃ!」


 簡単に自分の死を受け入れようとする国王に、サシャは大声で止める。国王は一瞬驚いたが、すぐに温かい目をサシャに向ける。


「ほっほっほっほっ。優しいのう」

「そ、そんなんじゃないしぃ!」


 国王の言葉に、サシャは頭をかきながら目を逸らす。


「てか、ウチが伝説の勇者だったんだ……」


 ようやく実感が湧いて来たサシャは、自分の両手を見て、力を確認する。


「そうじゃ。よもや勇者が二人も誕生するとは思いもよらんかった」

「へ? ……勇者が二人??」


 突然告げられた国王の言葉に、サシャは惚けた声を出す。


「ウチ以外にも勇者がいんの?」

「ほれ。隣に座っておるぞ」

「え……ええぇぇ~! バカ兄貴が勇者ぁぁ~!!??」


 サシャが大絶叫する中、勇者はと言うと……


「サシャのそんなに驚いた顔は初めてだな~。うん! かわいいぞ~」


 自分が勇者だと言われているのに、聞いていたのか?


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