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ゴブリンエンペラーを倒したサシャは、勇者一人の歓声に恥ずかしくなって、球体から飛び降りる。そして、勇者をゲシゲシ蹴ってから、町へと飛行する。
その途中にゴブリンの残党もいたが、サシャは簡単に斬り裂き、魔法を放って無力化し、町の壁へと飛び乗った。
「ゴブリンエンペラー、討ち取ったしぃぃぃ!」
再度、サシャは銅の剣を掲げて叫ぶ。
パチパチパチパチ
だが、何が起こっているかわからない兵士からは反応は無く、いつの間にか隣に居た勇者から拍手が起こるだけだった。
「ちょっ……なんか言えしぃ!」
「サシャは凄いな~」
「兄貴に聞いてないしぃ!!」
勇者の言い分に、サシャはムカついてゲシゲシ蹴っていると、外壁で指示していたバルトルトが駆け寄る。
「サシャ! 現状を報告しろ!!」
「さっき言ったしぃ!!」
「あ……いや、巨大なゴブリンを倒したのはわかったのだが、それがゴブリンエンペラーなのか?」
「ウチも始めて見たから勝手に呼んでるだけだしぃ」
「そうか……それで、ジェネラルやキングはどうなった?」
「全部倒したしぃ。ウチの感知魔法の感じだと、あとはザコが……五、六百ぐらいかな?」
「お、おお!」
サシャの言葉に、死地に光を見出だしたバルトルトは興奮した声を出す。そして、町の中に体を向けて大声を出す。
『聞け! 残りはザコだ! これより掃討戦に移る。一匹残らず駆逐するぞ~~~!!』
「「「「「おおおお!!」」」」」
バルトルトの声に兵士は大声で応え、各隊長クラスが戦闘の準備を始める。その姿を高い所から見ていたサシャは、バルトルトに質問する。
「ウチも手伝おっか?」
「いや。ここまで減らしてくれたんだ。サシャ一人に戦わせるわけにもいくまい。助かった。あとは任せてくれ」
「そっか。それじゃあ、ヨロ~」
サシャは手をヒラヒラとバルトルトから離れると、収納魔法からハンモックを取り出す。そして横になると疲れていたのか、すぐに眠りに……
「なんか暑いしぃ。誰かうちわで扇いでくんないかな~?」
「お兄ちゃんに任せろ!」
寝る前に、サシャの寝顔を覗き込んでいた勇者に釘を刺す。これで勇者はうちわで扇ぐ仕事ができたので、安心してスースーと寝息を立てるのであった。
それから数時間後、バルトルトがサシャに面会しにやって来た。
「サシャの寝顔を見ようとする奴は、俺が許さん! がるるぅぅ」
そして、気持ちの悪い理由で怒っている勇者に止められた。
「す、すまない……だが、感謝を込めて食事を用意したんだ。起こしてくれないか?」
「料理なら俺が準備するから大丈夫だ! がるるぅぅ」
「うっさいしぃ!」
勇者がバルトルトを止めようと騒いでいると、サシャが目覚めたようだ。それからバルトルトから食事の誘いを受けて、嬉しそうについて歩く。その後ろを、嬉しそうに歩く勇者もいるが……
『皆、疲れただろう。まだやる事は残っているが、腹に何も入っていないと力も出まい。敵はもういない。安心して食え~!』
「「「「「おおおお!」」」」」
バルトルトの演説で宴が始まる。と言っても、ゴブリンの解体や事後処理が残っているので酒は無し。それでも、朝からろくに食べる時間が無かった兵士は嬉しそうに料理を頬張っている姿がある。
サシャと勇者はバルトルトのそばで同じ物を食べ、バルトルトから感謝をされて満更ではない顔をする。
「ま、ウチは最強だかんね~」
「サシャは最強にかわいいな~」
サシャだけ……勇者は気持ち悪い顔でサシャを見ている。そんな二人を見ていたバルトルトは、双子勇者の強さの秘密を質問する。
「私の見立てでも、間違いなく人族最強だ。どこでその様な力を手に入れたのだ?」
「そうなの!? 人族にはもっと強い人はいないの?」
「他国の事はいまいちわからないが、おそらく団長が一番強いと思う」
「おっちゃんの上の人か~。いっちょもんでやるしぃ!」
「やめてくれ。そんな事をしなくとも、団長は少し見ただけでわかってくれるはずだ」
「へ~。強者の勘ってヤツね……」
サシャは団長と戦う事を諦めたような諦めていないような顔をするのであった。
食事を終えた兵士は、サシャの勇姿を称えて感謝を伝え、仕事に向かっていく姿があった。
その声にサシャは……
「もっと褒めろしぃ。あははは~」
勇者からもらった酒をラッパ飲みし、超ご満悦。勇者もサシャの笑顔が見れてご満悦のようだ。
そうしてサシャのバカ笑いが響く中、夜は更けて行くのであった。