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013


 魔王クッキングの翌朝……


 スカウトの旅の準備を済ませた勇者と魔王は、四天王の三人に見送られる。


「魔王様。お腹に気を付けてくれだ~」

「わ、忘れ物は無いか?」

「もしもの時にしか、水竜の角は使わないでくださいね?」


 どうやら魔王は、いろいろと心配されているようだ。だが、おかんのように心配して来る三人に、魔王は苦笑いをしている。

 山のように大量な野菜を持って行けと言われたのだから、三人のおっさんは、おかんと言っても過言では無いだろう。


「大丈夫ですよ。皆さんの言い付けは守りますし、危険があれば、お兄ちゃんがなんとかしてくれます」


 三人はそれが一番心配だと思うが、口には出さない。魔族の未来は勇者の肩に掛かっているからだ。どうせヘタレで、魔王を襲う事なんて出来ないのだが……


「挨拶はそのへんにして、行こうか」

「はい! みなさん、行って来ま~す」


 魔王は手を振って歩き出すが、それを止める者が現れる。


「待って~! あたしも行くわ~~~!!」


 テレージアだ。寝坊して、慌てて飛んで来たらしい。


「テレージアさんがですか?」

「勇者だけじゃ、スカウトに不安でしょ? 妖精女王のあたしが居れば、なんとかなるわよ!」

「妖精女王ね~」


 勇者は小さな胸を張っているテレージアを、マジマジと見て言葉を漏らす。こんなちびっこに何が出来るのかと思っているのかもしれない。


「さあ、行くわよ~」


 テレージアは引率の先生の如く、先陣を切って飛んで行くが、またしても魔王一行を止める者が現れる。


「あ、アルマちゃんの朝の散歩の時間です。少し待ちましょう」


 遠くから、ドドドドと聞こえる轟音に気付いた魔王は皆を止める。そして、巨大ホルスタインのアルマの通り過ぎるのを待つが、アルマは急カーブして、勇者達の元へ迫って来た。


「え……うそ! アルマちゃんがこっちに来てます!」

「ま、魔王。逃げるわよ!」

「はい!」


 飛んでいるテレージアは上空に逃げれば大丈夫だが、魔王は走っても、アルマの速度には勝てない。勇者はぶつかっても痛くはないので、そのまま突っ立っている。

 凄い勢いで走るアルマであったが、勇者の目の前で急停止し、顔ををベロンと舐めた。


「うわ! 何するんだ」

「モォ~」


 アルマはモジモジした声を出す。すると、アルマの行動を不思議に思った魔王とテレージアは、勇者の元へ戻って来た。


「アルマは、勇者に好感を持っているみたいね」

「テレージアは、この牛の言っている事がわかるのか?」

「言葉はわからないけど、なんとなくはね」

「牧場主のミヒェルさん以外にアルマちゃんが懐くなんて……お兄ちゃんは凄いです!」

「そ、そうか? このままじゃ唾液まみれになりそうなんだが……」

「閃いた!」


 勇者がアルマにベロベロされていると、テレージアが何やらよけいな事を思い付いたようだ。


「魔王は歩くのが遅いから、アルマに乗せてもらえばいいんじゃない?」


 あ、思ったより有用な閃きだった……


「確かに……。山までは、徒歩で五日でしたね……お兄ちゃん! アルマちゃんに頼んでください!!」


 魔王も歩きたくないのか、テレージアの案に乗っかる。


「そうは言っても……アルマ? 乗せてくれるか?」

「モォ~」

「いいって言ってるみたい」

「そ、そうか。よろしく頼むな」

「モォ~」

「やった! ミヒェルさんには、私から連絡しておきます」


 魔王は何やら呪文を唱えようとするが、全然進んでいなかったので、四天王の三人が追いついて来た。なので口頭でミヒェルに許可をもらい、勇者達とアルマに登る。ただし魔王は、勇者が下から持ち上げてやっとアルマに乗る事が出来た。

 魔王が乗ると勇者もアルマによじ登り、背中に座る。


「さあ、アルマ。山に向かって出発だ~!」

「モォォ~~!」


 アルマは勇者の言葉を聞いて走り出す。だが、言葉がわからないので、明後日の方向に走り出した。

 なのでテレージアが、アルマの鼻に乗って誘導する事となった。意外なところで、早速テレージアが役に立ったようだ。


 しばらく走ると山に真っ直ぐ向かい出したので、テレージアは勇者達の雑談に合流する。


「どうどう? あたしって、すごいでしょ!」


 単に自慢したかったみたいだ。


「さすが妖精女王ですね~」

「でしょ~? もっと褒めていいのよ~」


 テレージア、鼻高々だ。勇者も適当に褒めていると、ご満悦になって反り返り過ぎてコテンと倒れた。それからテレージアは魔王の手の中に収まり、喋りながら旅は進む。




 旅は順調に進んでいたが、次第に魔王の顔色が悪くなる。


「うっ……気持ち悪いです……」


 どうやら、乗り物酔い……牛酔いに苦しんでいるみたいだ。その魔王を不憫(ふびん)に思った勇者は、とっておきの方法で解決策を提案する。


「あ~。妹も、昔は馬車で酔っていたな。サシャも苦手なモノは一緒なんだな」

「うぅ……どうすれば治るのですか?」

「揺れがなくなれば治るよ。よし! お兄ちゃんに任せておけ」


 勇者はドンと胸を叩くと、アルマの背で四つん()いになる。それを見た二人は、頭にクエスチョンマークをたくさん付ける事となった。


「いいぞ!」

「えっと……どういう事ですか~?」

「妹も、これで揺れが無くなったと喜んでいたぞ。騙されたと思って乗ってみろ」

「え……」

「魔王。乗ってあげなよ。ぷぷぷ」


 四つ足で走るホルスタインの背中で、四つん這いの勇者の背中に乗る。そりゃ、テレージアが笑うわけだ。

 魔王は納得がいかないが、牛酔いが酷いので、試しに勇者に乗ってみる事にする。


「フォーーー!」

「もう! 変な声を出さないでください!!」


 勇者はあの日の妹の感触を思い出し、気持ち悪い声を出す。そりゃ、怒られるわけだ。


「うそ! 全然揺れない……」

「な~?」

「え……あたしも乗る! ……ホントだ!!」


 見た目はアレだが、乗り心地は最高らしい。勇者が揺れに合わせて、腕や足でクッションを作っているから当然だ。見た目は凄くアレだけど、この乗り心地は妹も認めざるを得なかったのだろう。


「お兄ちゃんは、その体勢で大丈夫なのですか?」

「フォーーー!」

「ちょ……だから変な声を出さないでください!」

「あ、ああ。すまない。俺は大丈夫だ。この体勢で、最高二日まで持たせる事が出来る」

「へ、へ~~~」


 どうやら魔王は、質問する事をやめたみたいだ。振り返った勇者の顔が恍惚(こうこつ)な表情だったから、気持ち悪かったのかもしれない。

 だが、酷い揺れに酔うよりは、勇者の背中に乗り続ける事を選んだようだ。



 時折、勇者が変な声をあげるが、無視するスキルを覚えたので、スカウトの旅は順調に進むのであった。


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