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 初心者の町の壁を飛び越えて外に出たサシャと勇者は、ゴブリンの群れに囲まれ、飛び掛かるゴブリンを弾き返していた。


「ちょ! 近いしぃ! 背中にピッタリくっつくなしぃ!!」


 サシャ一人で……。ストーカー勇者は、サシャの素早い動きに合わせて、真後ろから離れずにいた。


「ここが俺の特等席なんだ。ふふん」

「だからキモイしぃ! わ! 【炎風】だしぃ!!」


 気持ち悪い勇者にサシャがツッコんでいると、ゴブリンが一斉に飛び掛かるが、サシャは自分中心に炎の風を吹き出し、ゴブリンもろとも辺りを焦土に変えた。


「なんで兄貴は燃えないんだしぃ!」

「サシャへの恋の炎のほうが強いからだ」

「素っ裸で近づくなしぃ!! 【炎弾】!」


 サシャはツッコミを入れながらも、生き残りのゴブリンの群れに突撃する。数千匹はまだ残っているものの、炎の玉を連発し、近付くゴブリンには銅の剣で踊るように華麗に斬り捨てる。

 勇者は……その間もサシャの後ろにピッタリついて気持ち悪い。ゴブリンに殴られたり斬られたりしても無視。抱きついて来るゴブリンも居るが、サシャのスピードに合わせて動いているので、数秒後には振り落とされる。


 そんなサシャだけの猛攻でゴブリンを駆逐し、先へ先へと進むと、待ち構えている者がいた。


 雑兵のゴブリンが肉の壁を作り、その後方には、ゴブリンキングが二匹、ゴブリンジェネラルが十匹、メイジが百匹以上並んで構えていた。


「お! ようやく面白くなって来たしぃ!」

「サシャなら倒せるぞ~!」

「兄貴の応援なんていらないしぃ! 【大爆発】だしぃ!!」


 軽口を叩いたあとは、サシャの爆発魔法が炸裂し、一気に半数のゴブリンは死に絶える。それでも残ったゴブリンは多くいる。

 爆風の去った戦場は魔法が降り注ぎ、武器を持ったゴブリンやジェネラルが双子勇者に襲い掛かるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方その頃、兵の再編を終えた騎士達は、壁の上からサシャの戦闘を見ていた。


「嘘だろ……なんだあの動きは……」

「至る所から炎が上がっている……」

「アレが人間の動きなのか?」

「まるで踊っているようだ」

「また爆発が起こった……」

「「「「「凄い……」」」」」


 サシャの戦闘を見た騎士や兵士は、一同に見惚れて息を呑む。


「あの後ろにくっついてる奴はなんだ?」

「何をしているんだ?」

「いま、魔法が当たったよな?」

「さっきは斬られていたぞ」

「その前は、女の魔法に巻き込まれていたぞ」

「それよりも……」

「「「「「なんで裸なんだ?」」」」」


 勇者のストーキングを見た騎士や兵士は、一同に不思議に思う。


 そんな二人を見つめている騎士達に、バルトルトが大声で現実に引き戻す。


『兵士諸君! 二人を見ている場合ではない! こちらに向かって来ているゴブリンもいるぞ! もう壁はガタガタだ。いつ侵入されてもおかしくない。一匹たりとも近付けるな~!!』

「「「お……」」」

「「「「「おおおお!!」」」」」


 バルトルトに鼓舞された騎士達は我に返り、壁の上から魔法や弓矢、石を投げ付け、ゴブリンを撃退する。それでも、その攻撃の雨を抜けるゴブリンが現れて、壁を破壊する。

 その場合には、上から見ていた騎士が的確な指示を出し、先回りしていたバルトルト達がゴブリンを斬り捨てて穴を広げさせない。そして荷物を積み、土魔法で固めて補強する。


 そうして各場所で戦いが繰り広げられる中、大きな叫び声と共に、壁の一部が崩れる事となる。


 大きく(えぐ)られた壁の上部を見たバルトルトは、壁の補強を指示すると、慌てて屋上にまで登った。


「何が起こった!?」


 状況を確認しようとしたバルトルトの見据える先には、巨大なゴブリンが立っていたのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 町の壁が大きく抉られる少し前、サシャは剣と魔法を駆使して、着実にゴブリンを減らしていた。


「うっし! 残りはキング二匹とザコだしぃ。どんどん行くしぃ!!」


 十匹のゴブリンジェネラルを倒したサシャは、【炎弾】を連発しながらゴブリンキングに向かう。勇者は……ずっとサシャの後ろについて離れない。

 サシャは集中して戦っているから気付いていないかもしれないが、気持ち悪い。いや、たまに気持ち悪い物を見るような目で振り返るから、気付いているようだ。

 そうしてゴブリンキングに向けて走っていると、サシャはその後方に見えた影に反応する。


「アレは……キングの上位種? てことは、ゴブリンエンペラーかな?」

「サシャの言う通りだ~」

「兄貴に意見は求めてないしぃ!」


 サシャの独り言に勇者は答えてしまい、怒られているが、「その顔もいいな~」って顔をしている。


「てか、なんかやりそうだしぃ!」


 サシャの位置からはよく見えていないが、エンペラーは大口を開けた。それを勇者の勘で、危険を感じ取ったサシャは勇者を見る。


「兄貴! ちょい右に行けしぃ!」

「おう!」

「そこで……高くジャンプ!!」

「おう!!」


 勇者は、サシャの意味不明な指示に、反論する事なく高く飛ぶ。その瞬間、勇者に強力な衝撃波がぶつかって吹っ飛んだ。


 ゴブリンエンペラーの放った衝撃波だ。


 サシャはタイミングを合わせて勇者を飛ばせ、衝撃波にぶつける事で軌道を逸らし、町への被害を最小限にしたのであった。

 盾に使われた勇者は衝撃波を喰らって地面に激突し、倒れ……たけど、立ち上がった。


「サシャはお茶目だな~」


 それも余裕そうだ。妹に盾に使われたのに、嬉しそうにするなんて……なんだこいつ?


「チッ。生きてたしぃ……」


 あわよくば、殺そうとしてたっぽいサシャ。実の兄を……マジか?


「まぁいいや。生きてるなら、役に立ってもらうしぃ。兄貴! エンペラーに抱きつけ~!!」

「おおおお~!!」


 殺そうとしていたサシャは悪びれる事もなく命令し、殺されそうになった勇者は、嬉しそうに命令を聞いて走って行くのであった……


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