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 ゴブリンジェネラルを倒して双子勇者が騒いでいると、馬に乗ったバルトルトが駆け寄って来た。


「ジェネラルを、二人だけで倒したのか!?」

「ウチだけだしぃ」


 バルトルトは焦るように質問し、サシャは面倒くさそうに答える。


「確かにサシャの剣と魔法で倒したのは見たが……」

「それより、何匹かそっちに行ったっしょ? 怪我は無いしぃ?」

「あ、ああ。誰一人、死者も負傷者もいない」

「それはよかったしぃ」


 サシャが「にしし」と笑顔を見せると、勇者がポッと赤くなって、かわいいと褒め称える。勇者に向けた笑顔ではないのに……

 それからサシャはゴブリンの素材集めと処理は面倒だから義勇兵にやらせ、ジェネラルだけは勇者のアイテムボックスに入れる。

 バルトルトも今回は言われるままに指示を出し、話を聞きたいと言って、サシャと勇者を休憩場所に連れて行こうとする。


「え~! もう義勇兵じゃないから、行く理由がないしぃ」


 しかしサシャは、その指示に従う気がないようだ。


「待ってくれ! お前達ほどの戦力を手放すわけにはいかない。私が悪かった。撤回させてくれ」

「う~ん……」

「特別待遇も(やぶさ)かではない! 私みずから国王陛下に掛け合ってやる!!」

「別に金や地位の為にやってるわけじゃないしぃ」

「では、何故、義勇兵に志願したのだ?」

「単に、困っている人がいる事と、ウチの村の近くに魔物が出なくなったから、魔王ってのと戦ってみたかっただけだしぃ」

「それだけか?」

「うん」


 サシャの言い分は予想外の答えだったらしく、バルトルトは考え込む。しかし、迷っている時間は無い。サシャをなんとしても食い止めなくては……


「わかった。兵隊じゃなくていい。我らと協力関係を築いてくれ」

「協力関係?」

「情報は必要だろう? 我が国ならば四方に兵を放っているから、困っている地域がすぐにわかる。武器だって防具だって、最高の物を用意できるぞ」

「なるほどね~……でも、副団長程度が、そんな約束できんの?」

「国王陛下は心の広いお方だ。私が命を懸けて説得すれば、きっと聞いてくださる」

「命は大事にするしぃ」

「こ、言葉の(あや)だ」

「わかったしぃ。ただし、性格の悪い奴だったら勝手にやるしぃ」



 ようやくサシャが話を聞く体勢が整い、馬車の元へと連れて戻る。そこで、ゴブリンに追われていた女騎士もまじえて話し合いを始める。


「私はカトリン。まずは、命を救ってくれて感謝する」

「うちはサシャ。よろしくだしぃ」


 カトリンの感謝を、サシャは笑顔で受け取る。


「そちらの男も、身を(てい)してかばってくれて感謝する。名をなんというのだ?」

「バカ兄貴だしぃ!」


 次に勇者に感謝の言葉を送ったが、何故かサシャが答えてカトリンは戸惑う。


「それは名前じゃないだろ?」

「バカ兄貴はバカ兄貴だしぃ。な?」

「おう! 俺はサシャにバカ兄貴って呼ばれている!」

「それでいいのか!?」


 嬉しそうに自分でバカ兄貴と呼ぶ勇者に、カトリンはツッコんでいるのだが、サシャが話を変える。


「そんで、なんでゴブリンに追われていたんだしぃ?」

「えっと……そうだ! バルトルト副団長!」


 度重なる危機に、カトリンは本来の任務を忘れ掛けていたようだが、サシャの言葉で思い出し、バルトルトに簡潔に報告をする。


 その報告は凶報。今朝方、警備していた町が、万を超えるゴブリンの襲撃を受けたとのこと。出発の際には高い壁と騎士でなんとか守っていたらしいが、いつ門を破られるか時間の問題のようだ。

 もちろん王国に連絡はしたが距離があり、増援には三日から五日掛かると言われる。

 それでは間に合わないと判断した責任者は、こちらに向かっている義勇兵の中にバルトルトが居た事を思い出し、少しでも戦力を増強させたいので、早馬でカトリンを派遣したようだ。


「なるほどな……ここからなら早馬を飛ばせば夜には着けるか……それまでは持ちそうなのか?」

「手練れの者は少ないので、正直わかりません。もしかするとすでに……」

「そうか……」


 たいした魔物が出ない初心者講習用の町だから、戦力が不足している事はバルトルトも承知しているので、よからぬ事を考えて暗くなる。すると、その空気を読めない者が言葉を発する。


「じゃあ、ウチがちょちょいとやって来るしぃ!」


 サシャだ。数を聞いても(ひる)む事もなく、あっけらかんと割り込んで来た。


「サシャがか……さっき戦闘を行ったばかりだろ? 魔力や疲労は大丈夫なのか?」

「あんなの準備運動にもなんないしぃ!」

「嘘だろ……」

「喋ってる時間ももったいないし、行って来るしぃ」

「待て! 私も連れて行ってくれ! 空を飛んで行けるなら、そっちのほうが速い」

「おっちゃんを、ウチが抱くってこと?」


 サシャはあからさまに嫌そうな顔で見る。


「ダメ……か?」

「潤んだ瞳で見ても、むさいおっちゃんはノーサンキューだしぃ!」


 仲間の命が心配で見つめただけなのだが、サシャにはチワワの目と勘違いされたようだ。


「そこをなんとか!!」

「それなら兄貴に言えしぃ。馬車を引いてもらえば、多く連れて行けるしぃ」

「そんな事ができるのか!?」


 サシャに食い掛かったバルトルトは、今度は勇者に食い掛かる。


「引く事はできるけど、スピードに馬車が持つかどうかだな~」

「壊れても構わない! 最悪、私だけ連れて行ってくれたらいいんだ」

「まぁそれぐらいなら……」

「すぐに準備する!」



 バルトルトはそれだけ言うと、部下の騎士を集めて命令を下す。残るのは、試験合格者と二人の騎士。ゴブリンの襲撃に備えて慎重に進むようにと任せる。

 それから六人の騎士にカトリンを加え、共に馬車に乗り込むと、勇者に声を掛ける。


「よし! 行ってくれ!!」

「おう!」

「ウチは先に行くしぃ!!」


 こうしてサシャ率いる騎士団は、凄い速度で初心者の町に向かうのであった。


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