134
「う~ん。やっぱ、ザコはいくら斬っても数にならないしぃ。ま、かなり数は減ったし、ジェネラルを相手してやるしぃ!」
勇者が義勇兵と合流している間、サシャは飛び掛かるゴブリンを次々に斬り捨てていた。そうして向かって来るゴブリンが減ると、ゴブリンジェネラルに向けて走り出す。
ゴブリンは少なからず残っているので、ゴブリンジェネラルを守るようにサシャの道が塞がれるが、まったく相手にならず、簡単にゴブリンジェネラルと相対す。
「久し振りにみたけど、おっきいゴブリンだな~」
しかし、その緊迫感を台無しにする勇者が現れた。
「邪魔だしぃ。どっか行けしぃ」
そして勇者を邪険にするサシャ。
「てか、一匹しがみついているしぃ」
「わ! 軽いから、全然気付かなかったな」
「もういいしぃ……てか、兄貴もやりたいの?」
「いや、見に来ただけだ」
「……じゃあさ~。一匹止めておいてくんない?」
「サシャの役に立てる……任せろ~!!」
勇者はゴブリンをくっつけたまま、やる気満々でゴブリンジェネラルに突進する。サシャはただ単に、勇者に舐めるように見られる事が嫌だっただけなのだが……
勇者はゴブリンジェネラルの前まで到着すると、どうしようかと考えて止まる。ゴブリンジェネラルは何かして来ると思って構えていたが、急に止まった勇者に笑い、大剣を振り下ろす。
ひとまず勇者はひょいっと避ける。すると今度は横薙ぎ。勇者はいい案が浮かんで、しがみついていたゴブリンを盾にする。
しかしゴブリンは盾の役割は果たさず、真っ二つになってしまった。そしてその大剣は勇者の肩に当たって……折れた。
ゴブリンジェネラルもまさか折れるとは思っていなかったのか、驚いている。そのチャンスを勇者は見逃さず、腰にタックル。ゴブリンジェネラルは凄い力で押されるが、踏ん張って、なんとか倒れないように耐えた。
「よし! これで動けないだろう。サシャは……」
どうやら勇者は、攻撃ができないから抱きついて動きを封じる作戦に出たようだ。その後は、ゴブリンジェネラルから肘や腕が降って来て殴られるがまったく効かず、サシャの戦闘を眺めるのであった。
勇者がゴブリンジェネラルと遊んでいる間、サシャもゴブリンジェネラルと遊んでいた。
「ほら~。もっとちゃんと剣を振るしぃ!」
ゴブリンジェネラルの大剣を紙一重で避け続けるサシャ。剣の腕前は良くはないが、パワーとスピードを使って大剣を的確に振っているにも関わらず、一切通じない攻撃に、ゴブリンジェネラルは苛立って叫ぶ。
「ごるらぁぁぁ!」
「うっさいしぃ!」
苛立っていたのはサシャも一緒。もうちょっとサシャを楽しませてくれると考えていたようだ。
これでは時間の無駄と悟ったサシャは、避けると同時に片手を斬り落とした。その太刀筋は一瞬過ぎて、ゴブリンジェネラルに痛みが伝わるには数秒要した。
「ぎゃ~~~!!」
「だからうっさいしぃ」
悲鳴をあげるゴブリンジェネラルに、サシャは面倒くさそうに呟いてから、銅の剣を数度振るって肉塊に変えたのであった。
サシャがゴブリンジェネラルの一匹を仕留めた頃、勇者も頑張って戦っていた。
「さすがサシャだな~。お前もそう思うだろ?」
「ぐぎぎ~!」
いや、抱きついて動きを封じたゴブリンジェネラルに同意を求めていた。もちろんゴブリンジェネラルには言葉は通じず、引き離そうとボコボコに殴られている。
「あ! サシャが来た! サシャ~~~!!」
そうして耐えていると、サシャが空を舞って近付いて来たのでゴブリンジェネラルを離し、両手を振って名を連呼する。
勇者が手を離した事によってゴブリンジェネラルは自由になり、仲間の死体の山を見て、一目散に逃げ出した。
「ちょっと~。最後まで押さえておけしぃ」
「あ! すまない。すぐに捕まえて来る!」
「もういいしぃ……兄貴! 待つしぃ!!」
サシャは止めるが、勇者は凄い速さで走り出して言う事を聞かない。
「もういいって言ったのに~……ま、いいや。やっちゃおう。……【雷針】!!」
サシャは短縮した呪文を唱えると、剣先から雷が飛ぶ。その雷は雷鳴を響かせ、ちょうどジェネラルと共にタックルした勇者ごと貫き、焼け焦がして息の根を止めた。
「いまの魔法もかっこよかったぞ~」
当然、ジェネラルだけだ。勇者は何事もなく、走って戻って来たよ……
「なんでピンピンしてんだしぃ……」
「そんな事はない! サシャにハートを貫かれてビリビリ来たぞ~。これが愛の告白……」
「キモッ! どうしたらそうなるんだしぃ!!」
心底気持ち悪がるサシャは、「ギャーギャー」と勇者を非難し、ゲシゲシと蹴るが、勇者を喜ばせるだけであった。