130
義勇兵志願試験の翌日……
サシャが集合場所である王都正門に移動すると、ストーカーもあとをつけ、志願者と共に騎士団の到着を待つ。
時間ぴったりに現れた騎士団は馬車に乗って来たのだが、志願者全員は乗せられないので、交代で歩くように指示を出す。
ひとまずサシャは一番目だった為、文句を言わずに馬車に乗り込み、ストーカーはその馬車を追う。
それからしばらく進むと小休憩。そこで魔法使いから水が振る舞われるが、サシャが文句を言い出す。
「水だけ??」
「野営に何を期待しているんだ」
「水ぐらい、ウチでも用意できるしぃ。紅茶はないの? あと、おやつは?」
「あるわけないだろ!」
サシャと魔法使いが揉めていると、その声が聞こえたバルトルトが止めに入る。
「またお前か……」
「なんだしぃ?」
「今度はなんなんだ……」
「紅茶とおやつは?」
「あるわけないだろ!」
当然、そんなわがままは聞いてもらえず、魔法使いと同じセリフで怒鳴られてしまった。
「貧乏騎士団……」
「貧乏とは関係ないわ! 移動には最小限の荷物だからだ!!」
さらに煽るサシャは怒鳴られてもおかまいなし。突然叫ぶ。
「兄貴~~~!」
すると、どこからともなく現れた勇者にバルトルトは驚く。
「本当について来ていたのか!?」
「いいって言ってただろ?」
どうやらバルトルトの考えでは、無理を行ってやればついて来ないと思っていたようだ。そのバルトルトを差し置き、サシャは勇者に命令する。
「兄貴、お茶。あと、おやつ~」
「おう!」
バルトルトと話をしていた勇者だったが、サシャに命令された事によって、気持ち悪い笑顔でお茶とおやつを準備する。準備が整うとサシャは礼も言わずに、お茶をすする。
その行動の一部始終を見ていたバルトルトは、勇者に質問する。
「お前は収納魔法が使えるのか?」
「なんかちょっと違うみたいなんだな。だから、サシャが付けてくれた名前の、アイテムボックスと呼んでるよ」
「アイテムボックス? それはどれぐらいの容量があるのだ?」
「さあ? サシャが狩りまくった魔獣や魔物が一万匹以上入っているけど、限界はわからん」
「一万!?」
「「「「「ギャハハハハ」」」」」
バルトルトと勇者の会話を聞いていた兵士のほとんどは大爆笑。そんなに入る収納魔法は無いだとか、サシャがそんなに魔物を狩れるわけがないと笑う者が続出。バルトルトも聞いた自分がバカだったと呆れている。
サシャは自分までバカにされたと激オコ。全員ボコッてやると息巻き、バルトルトに宥められる。
そうして騒がしい休憩を終わらせ、馬車に乗り込む者の交代をして出発……
「お前はさっき馬車に乗っていただろう!」
いや、その前にサシャとバルトルトが揉めている。
「あ……そうだったしぃ。でも、歩くのめんどいから乗せてくんね?」
「できるか!!」
「う~ん……ま、いいや。乗り心地も悪かったし、ウチも勝手にするしぃ」
「また変な事を……」
「兄貴!!」
「おう!」
「だからどこから現れているんだ!!」
またしても急に現れた勇者にツッコムバルトルト。さらに勇者はどこから出したかわからない、ふわふわクッションを敷き詰めた荷車を引いている。
サシャはバルトルトのツッコミは無視して荷車に乗り込んで横になる。
「はいよ~。シルバー!」
「ヒヒーン!」
「おい! 待て……」
サシャは勇者を馬扱いして出発の指示を出し、勇者は嬉しそうに走り出した。バルトルトは止めようとしたが、追う事はせずにため息を吐きながら出発の指示を出す。
それからサシャは、義勇兵から離れてしまったので勇者を止め、追い付いて来たら馬車の後ろから合わせてついて行けと命令する。
義勇兵の行進はお昼になると休憩。バルトルトが双子勇者の様子を見に来たが、サシャは寝入ってしまっていたので、静かだからこのままでいいかと起こす事はせず、勇者には見える位置を歩けと言って、その場を離れる。
再び出発すると、休憩の間中サシャの寝顔を堪能した勇者は元気はつらつで歩き、夕暮れが近付くと目覚めたサシャに、なんで起こさないかと怒られてご満悦。ゲシゲシ蹴られていたけど、ご褒美と勘違いしているようだ。
夕暮れ間近になると、街道の脇にて光が無くなる前に野営の準備に取り掛かる。と言っても、雑兵にテントなんて与えられず、兵士はマントにくるまって眠るだけなので、夕食の準備をする程度だ。
騎士が兵を操り火を起こさせ、硬いパンと薄味スープの配布。野営なので、これが普通の光景、普通の食事なのだが、サシャは不味いと言って勇者を呼び出す。
「肉食いたいしぃ!」
「本日はキングボア、ビッグボア、オークの肉がありますが、いかがいたしましょうか?」
「う~ん……ビッグボアでいいしぃ!」
「かしこまりました」
勇者はアイテムボックスから肉の塊とバーベキューセットを取り出すと、手際よくスライスして網の上に並べる。
それから勇者は火をつけ忘れていた事に気付くと、薪に直接棒をこすりつけて摩擦で火をつけようとする。勇者のスピードであっと言う間に煙が上がるが、サシャに遅いと言われて火魔法で着火。
勇者は怒るどころか謝罪と感謝を述べて、肉を焼いてはサシャの皿に乗せる。
サシャが、おばあちゃん特製タレに肉をつけて美味しく食べていると、当然周りから変な目で見られ、当然あの人もやって来る。
「………」
バルトルトだ。今日一日で二人の行動に呆れてしまって、言葉も出ないようだ。
「あ、おっちゃんも食べるしぃ?」
「はぁ~~~~~~」
まったく詫びる事もしない、箸でつまんだ肉を差し出して来たサシャに、ため息しか出ないバルトルトであった。