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「審議!!」


 勇者の義勇兵入隊は審議の末、後日結果を言い渡す事となった。なので、ひとまず合格者と同じ扱いにして講習を受けさせる事となり、サシャ達と共に別室に案内される。

 その別室は、大学の教室のように段差のある備え付けのイスとテーブルがあり、すでに合格者が座っている。


 サシャはキョロキョロとした後、一番後ろの席にドカッと座ってテーブルに足を乗せる。当然、ストーカーはサシャの隣に座るが、どっか行けと邪険に扱われる。

 しかし待ち時間が長い為、勇者にお菓子やお茶を催促し、昨日、王都で見つけた薄い本を読みながら暇を潰している。


 二人が他の合格者から白い目で見られて待っていると、全ての試験が終わったのか、試験官がズラズラと部屋に入って来た。



 試験官の内、一番地位が高いであろう髭面の男は志願者を一通り見ると、サシャに目を止めて言葉を発する。


「おい! 姿勢を正せ!!」

「え……ウチ??」

「お前もそうだが、給仕をしている男もだ! 座れ!!」


 勇者は立ってサシャにお茶を注いでいたが、髭面の男の言葉でとりあえず座る。するとサシャはすかさずちゃちゃを入れる。


「や~い。怒られてやんの~」

「言っておくけど、お前のほうが酷いからな?」

「あ……あははは」


 サシャも怒られて、ようやくテーブルから足を下ろす。


「それでは、これより講習会を行う。私はサンクルアンネン王国騎士団、副団長のバルトルトだ」


 バルトルトの挨拶で始まった講習では、即戦力となれる者は、サンクルアンネン王国最前線の防衛に当たらせ、それ以外は城に残って訓練を受けてから、最前線に向かわせると説明を受ける。

 それから番号ごとに呼ばれ、配属先が書かれた用紙を受け渡すと席に戻す。


 皆に用紙が行き渡り、静かに目を通していると、サシャが手を上げて質問する。


「ちょっといいしぃ?」

「またお前か……いや、サシャだったか。なんだ?」

「うちの配属される場所って、最前線って割には辺鄙(へんぴ)なとこじゃね?」

「副団長に、なんて口を聞くんだ!」


 バルトルトにタメ口で話すサシャに、補佐官の男が怒鳴る。すると、バルトルトは補佐官を手で制して声を出す。


「いきなりそんな危険地帯に送り込んで死なれては困るからな。まずは手慣らしをしつつ、騎士団の常識を学んでくれ」

「え~! ウチも強い敵と戦いたいしぃ!!」

「そう言うところだ! 言葉遣いも学んでもらうからな!!」

「え~~~!!」


 どうやらバルトルトも、サシャの言葉遣いに苛立っていたようだ。これ以降はサシャが何を言っても無視を決め込む。

 そうして説明を続く中、今度は勇者が手を上げる。


「なあ? 手を上げているんだけど、どうして無視するんだ?」


 勇者は全然声を掛けてくれないバルトルトに、ついに声を出して質問する。その声に、バルトルトは隣に座るサシャをチラッと見てから返事をする。


「お前はサシャの兄だからだ。妹に言われて質問しているだけだろう?」

「サシャには何も言われていない」

「……本当か?」

「バカ兄貴なんかに頼らないしぃ!!」


 バルトルトがサシャに質問すると、怒りのまじった返事が来たので、勇者の質問に答えようとする。


「お前は何を聞きたいんだ?」

「なんで俺は城に残る事になっているんだ?」

「審議扱いになっているからだ。そんな者を最前線に連れて行けるわけがないだろう」

「そうなのか……。じゃあ、兵士はいいや。勝手にサシャについて行く」

「は?」

「だから、ついて来んなしぃ!」


 勇者の返答に、バルトルトは意味がわからないって顔をし、サシャは拒絶して喧嘩になる。サシャが「ギャーギャー」騒いでいると、バルトルトが復活し、勇者の真意を問う。


「お前は兵士になりたいんじゃないのか?」

「違うぞ。サシャのそばに、ずっと居たいだけだ」

「言ってる意味が……バカなのか?」

「だから、バカ兄貴って書いたんだしぃ」

「バカなのか……」


 サシャのツッコミに同調してしまうバルトルト。だが、すぐに勇者を怒鳴る。


「いやいや、お前はここに残るんだ!」

「絶対ついて行く!」

「ついて来んなしぃ!!」

「サシャは黙っていろ!!」


 勇者が主張するとサシャが拒否し、バルトルトは声を荒らげて止める。その後は、あとで話を聞くからと双子勇者は残るように言って場を収め、説明の続きをする。


 説明が終わり、志願者も退出すると残された双子勇者の前に、バルトルトは仁王立ちで立つ。


「正直、お前達の能力は買っているんだ。ただな……軍は規律を重んじる。それが守れないのならば必要ない。田舎に帰るんだな」

「だから~。うちは配属先でもいいって言ってるしぃ」

「俺も勝手について行くって言ってるだろう」

「サシャはいいとして、問題はバカ兄貴だ。移動には危険を伴う。誰も守ってくれないのだぞ?」

「そんなのいらない。サシャだけが居ればいいんだ」

「ウチも助けないしぃ!!」


 勇者の言い分に、バルトルトはため息まじりに沙汰を下す。


「はぁ……わかった。勝手にしろ。もしも、無事辿り着けたら雇ってやろう」

「そんな約束すんなしぃ!」

「サシャが俺の心配してる……」

「心配じゃないしぃ! 近付くなって言ってるんだしぃ!!」

「もういい! 明日の出発までどこか行ってろ!!」


 バルトルトは双子勇者とのやり取りに疲れて退出する。二人も、ここに居てもやる事もないので宿に戻り、別々の部屋で一夜を明かすのであった。


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