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違う世界、平和に包まれた村に双子の子供が生まれた。その双子は勇者の加護を受け、才能に恵まれた幼少期を過ごす。
しかし世界に危機は無く、森に住む魔物も魔獣もたまに悪さをするぐらいで、死亡事例も僅かしかなかった。
その平和な世界に生まれた双子勇者は、誰からも才能に目を付けられず、すくすくと成長していった。
双子勇者も自分達の力の強さは自覚があったようだが、生活に便利ぐらいの気持ち程度で、穏やかに過ごしていた。
そんなある日、世界は分厚い雲で覆われた。初日は、ただの曇り空だと軽く見ていた人族であったが、一週間も過ぎた頃には不安の声が広がり、それと同時に魔物や魔獣の被害が増えた事によって、事態の深刻さに気付く事となった。
魔王が復活したのだと……
文献では、数百年前に勇者に討伐され、跡形も消え去ったとあり、復活の可能性すら、長い平和な時間で忘れ去られていた。
子供の絵本にも度々登場していた勇者と魔王も姿を消し、いまでは魔物と仲良くする話を読み聞かせていた。それらの理由で、人族は魔物や魔獣に対抗する術が減り、甚大な被害が出る事となった。
初期対応で後手に回った人族は、魔族の進行を受けて次々と住める土地が減って行った。
世界が恐怖に包まれる中、ただひとつ軍備に力を注いでいた国、サンクルアンネン王国は立ち上がり、魔族の進行を食い止める事に成功する。
他国からは軍事国家として批判されていたサンクルアンネン王国は、内情は豊かとは言いがたいが、政策は民に優しく、どの国よりも不満の低い国だ。
そのサンクルアンネン王国、唯一が魔王復活に対しての措置をとっており、剣を持って立ち向かったのだ。
その噂を聞き付けた人族は一斉に移動し、助けを求める。サンクルアンネン王国もできるだけ受け入れようとするが数が多く、魔王を討伐する前に自国の危機となってしまった。
サンクルアンネン王国は他国に協力を求め、自国が最終防衛戦となるから人族の受け入れを要求する。それと同時に志願兵も随時募った。
他国も世界の危機に、指をくわえて見ているわけにもいかないのか、自国の手柄を優先したのか、思惑が一致する。
次々とサンクルアンネン王国に兵が送り込まれる中、双子勇者の姿もあった。
「ウチが魔王を討ち取ってやるしぃ!」
錆て、ボロボロの銅の剣を高々と掲げるサシャと……
「サシャならできるぞ~」
パチパチと拍手をする勇者。
「だから、なんでついて来てんだしぃ~!!」
この頃から、勇者はサシャのストーカーだったとさ。
サンクルアンネン王国に到着したサシャは、義勇兵にさっそく登録……せずに、初めて来た王都の観光を楽しむ。
「俺達の村と違って、大きな建物がいっぱいあるんだな~」
当然、ストーカーの勇者はサシャのケツを追いながら観光している。その勇者に対して、サシャは面倒くさそうに応える。
「なんで話し掛けて来るんだしぃ。どっか行けしぃ」
「またまた~。ツンデレだな~」
「どこにデレがあったしぃ!」
サシャがツッコンでも勇者は嬉しそうにするだけで、気持ち悪くなる。
「はぁ……てか、兄貴も志願する気なの?」
「サシャがするなら、俺も志願する!」
「いや……止めてるんだしぃ」
「どうして止めるんだ?」
「兄貴は攻撃ができないじゃん? それで兵士になっても苦労するだけだしぃ」
「サシャが優しい……」
「なっ……泣くなしぃ! 気持ち悪いしぃぃぃ!!」
久し振りにサシャの優しい言葉を聞いた勇者は涙し、サシャは本当に気持ち悪いから、勇者から離れて他人の振りをする。
それでも勇者はサシャのストーカーをやめずに、美味しい物を食べるサシャを微笑ましく見続ける。その時、本を買い過ぎてお金が無くなったとサシャにかつあげされていたけど……
それから安宿を探し、勇者はまた金を要求されて、一緒の部屋かと思いながらルンルン気分でついて行ったら閉め出され、馬小屋で眠る事となった。
翌朝は、サシャより早く目を覚ました勇者は、アイテムボックスに山ほど入っているイモをかじりながら宿屋の入口を見張る。
そうしていると、腹をさすったサシャが出て来たので、犬が尻尾を振っているかの如く走り寄り、サシャに邪険にされながらも後ろについて歩く。
サシャが向かっていた場所は、王様が住まうお城。ここの門を潜った先で義勇兵の受付をしており、試験を受けて配属先が決まる。
サシャは記入用紙を受け取ると、勇者の物も書いてあげると優しく言って記入をし、提出して番号札をふたつ受け取る。
勇者は涙ぐみながらサシャから番号札を受け取り、二人で試験会場である屋外訓練場に足を踏み入れるのであった。