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爆発マジックアイテムの並ぶ道を突破した姫騎士軍は二日進軍し、ついに人界間際まで辿り着いた。
「砦か……」
森が切れる場所に人族が急拵えで作った砦を見て、姫騎士は呟く。すると、隣に立つ勇者が質問する。
「どうする? また指揮官を捕まえて来るか?」
「そうだな。その前に降伏を呼び掛けよう」
姫騎士は勇者に賛同すると、参謀に突撃の準備を任せて、勇者と共に砦へと向かう。そこで降伏を呼び掛けるが、話も聞いてもらえず、弓矢の雨が降り注ぐ事となった。
勇者は姫騎士を守りながら後退し、射程範囲を抜けると踵を返して砦へ突撃する。
今回は森の中と違い、休憩場所として使わないので壊していいと聞いていた勇者は、真っ直ぐ門に向かい、破壊する。
突然、飛び込んで来た勇者に驚いた人族兵は取り囲んで剣を振るが、剣が折れるだけ。その中を勇者は叫びながら、指揮官を探すが、砦は思ったより広く、なかなか見付からないので作戦を変更する。
勇者は森側の壁を集中的に穴を開け、走って姫騎士達の元へと戻った。
「そうか。森の中の砦から連絡が行って、指揮官を隠されてしまったのだな……わかった。ここからは、我々が相手をしよう」
「姫騎士さん……」
姫騎士の言葉に、魔王が心配そうな目で見る。だが、姫騎士は優しい顔で語り掛ける。
「大丈夫だ。今度は間違わない」
姫騎士はそれだけ言うと、兵士を鼓舞して砦へと向かう。弓矢に対しては土魔法でコーティングした馬車を押して対応し、ジリジリと前進。
十分な距離まで近付くと、勇者を陽動役として先に走らせる。そうして中から怒号が聞こえて来ると、姫騎士は叫ぶ。
『いまだ! 混乱している内に一気に攻め落とすぞ! ただし、複数で取り囲んで、できるだけ死傷者を減らすのだ! 突撃~~~!!』
「「「「「おおおお~!」」」」」
姫騎士の叫びに、四万の兵は大声で応え、その内、一万の兵は砦内に一気に流れ込む。穴だらけの砦では、あっと言う間に姫騎士軍の侵入を許し、人族兵は取り囲まれるや否や、降伏を宣言する。
最後まで抵抗する者も居たが、勇者に剣を振ってしまって武器を無くし、姫騎士の峰打ちで意識を刈り取られて終了となる。
結果から言うと大勝利。怪我人は多数いるものの、死者を出さずに戦闘を終える事となった。
怪我人には敵味方関係なく、魔王とテレージア率いる治療魔法部隊が傷を癒し、どうしても姫騎士の軍門に下らない者には奴隷魔法で拘束してしまう。
皆が忙しそうにしている中、暇そうにしているサシャは、ヨハンネスから声を掛けられていた。
「戻って来てから難しい顔をしているけど、どうしたんだ?」
「う~ん……」
ヨハンネスの質問に、サシャは答えようか迷ったが、溜め込む性分ではないため、悩みを打ち明ける。
「兄貴の事だしぃ……」
「勇者殿か……さっきもすごかったな。弓矢の雨の中、ものともせずに進んで、砦の壁にも穴を開けていたな。勇者殿が居なければ、死者は多かっただろうな」
「そうなんだけどね~……」
「何か言いたげだな」
「……ウチと一緒に居た時なんか、ほとんど役に立たなかったしぃ。なのに、こんなに活躍してるなんて信じられないしぃ」
それからサシャの愚痴が始まり、数十分経っても終わらない愚痴に、ヨハンネスはぐったりする。
「だから~」
「ま、まぁ勇者殿も、いきなり知らない土地に来たのだから、変わらなければならなかったんじゃないか?」
「そうかもしんないけど~」
「それに、サシャが隣に居たからダメだったんじゃないか?」
「どういう事だしぃ?」
「サシャは強いだろ? 勇者殿の活躍する場を奪っていたんじゃないか?」
「兄貴は攻撃ができないからだしぃ」
「攻撃ができないのか!?」
ヨハンネスが驚くので、サシャは勇者の気持ち悪いエピソードを繰り出す。サシャの真後ろについて一切離れない話や、ドラゴンに噛まれながらも気持ち悪い顔でサシャに手を振っているなどなど。
そうしてエピソードが気持ち悪すぎて、サシャは喋る事をやめてしまった。
「それって……ずっとサシャの事を身を挺して守っていたんじゃないのか?」
「言い方を変えればそうかもしんないけど~……」
「まぁあれほどサシャ愛が強ければ、気持ち悪くもなるか」
「だしょ!!」
「でも、それだけの愛があるんだから、サシャがピンチの時には攻撃をして助けてくれてもいいのにな」
「確かに……何度か危険な時があったけど、兄貴は覆い被さるだけだったしぃ」
「攻撃ができないんじゃなくて、しないんじゃないのか? それも、サシャが原因で……」
「ウチ?? う~ん……」
サシャは昔を思い出すが、思い出した瞬間、寒気がして思い出す事をやめる。それだけでなく、長く勇者の事を考えていたので、じんましんが出て痒くなったようだ。