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「どうなったしぃ……? 兄貴……」
空を舞うサシャは煙が晴れる行く中、小さく呟き、感知魔法を使う。
「居たしぃ!!」
どうやら勇者は間に合っていたようだ。勇者は爆風をものともせずに走り、女性に掛かった防御結界が砕ける前に割って入った。
頑丈な体と不動の効果で爆風の前に立ち、防御結界をギリギリ維持できるまで耐え切らせたのだ。
ふたつの人の反応を見付けたサシャは、急いで勇者の元へ向かう。そして空を飛びながら風魔法を使って煙を吹き飛ばす。完全に煙が消え去る前に着地して、勇者の元へと走り寄る。
「ふぅ……助かったよ」
勇者がサシャに声を掛けると、サシャは勇者を見ないように、無言でアゴをくいっと動かす。
「ああ。戻ろうか……まだこの先にも、同じ罠がありそうだな」
勇者は女性を抱いて立ち上がるが、前方を見据えてサシャに同意を求める。サシャは頷くと、もう一度、アゴをくいっとして戻るように指示を出す。
「そうだな。一度戻ろう」
勇者はそれだけ言うと、姫騎士陣営に駆け出し、サシャは勇者の背中を見つめる。
(なんだ……勇者らしい事もできんじゃん……)
そうして勇者を少し見直して、サシャも駆け出す……
(いや、服を着ろしぃぃぃ!!)
ほんの少しだけ勇者を見直したサシャであったが、全裸の後ろ姿を見て元に戻るのであった。
それから犠牲になりかけた女性を交えた会議に参加するが、ここでも勇者は服を着ろとお達しが下り、情報を仕入れると次の爆発マジックアイテムに向かって犠牲者を助ける。
全ての犠牲者を辛うじて救う事ができたのは、勇者の活躍もさる事ながら、サシャの力が大きい。
二度目からは勇者の首に縄を巻き付け、スケボーに乗って移動……しているように見せて、空中に浮き、勇者のスピードに合わせてついて行った。
そこで一度目より強力な防御結界を使い、勇者も楽に犠牲者を守る事ができた。
ただ、勇者は旅人の服が毎回なくなるのは困ると言って、ボロ布を腰にまいていただけなので、サシャは何度も勇者のケツを見て気持ち悪くなったようだ。
そうして爆発マジックアイテムの除去が終わった頃には夕暮れとなり、進軍は明日と決めて、休息を取る事となった。
「「「「………」」」」
いつものように、巨大馬車で休息を取っている姫騎士軍主要メンバーは、お通夜のように静まり返っている。
「なあ? 今日はみんな静かだな。疲れたのか?」
勇者の質問に、姫騎士、魔王、コリンナ、テレージアは、一斉に一人の人物に目をやる。
「最長老がどうかしたのか?」
そう。サシャだ。サシャが性懲りもなく乗り込んで、バクバク食事を食べているから静かなのだ。
乗り込んだ理由も、認識阻害があるからバレないので、皆が勇者と、どのようなやり取りをしているかの視察だ。
「えっと……最長老様は偉い人なので、緊張しちゃうんです~」
勇者の質問に、魔王が答えてくれた。
「そうなのか……そういえば、俺とは一言も喋ってくれないんだけど、喋れないのか?」
「い、いえ……それは……」
魔王が言い訳をしようとするが、何も思い付かないみたいなので、サシャは魔王に耳打ちして伝えてもらう。
「え……それを言えと?」
魔王が躊躇うと、サシャはアゴで命令する。
「お前のような変態と喋る口は持ち合わせていないとおっしゃっています……」
「変態!?」
勇者は魔王に変態と言われて、ショックを受け……
「もう一回言ってみてくれないか!」
いや、喜んでおねだりする。サシャからよく言われていたので、サシャにそっくりな魔王から言われて嬉しいみたいだ。そんな勇者を見たサシャは、また魔王に耳打ちする。
「キモッ!! と、おっしゃっています」
「もっと~!」
それから何度も魔王伝いのサシャに罵られ、勇者はご機嫌のまま眠りに就いたらしい。本当に気持ち悪い……
翌朝……
休息を取った姫騎士軍は進軍する。
サシャは長く勇者と居すぎたのでじんましんがひどいらしく、最後尾に移動し、最前列はいつものように、姫騎士軍主要メンバーが乗る馬車で移動する。
その馬車の中では、何やらとある議題で盛り上がっているようだ。
「このバカアニキ!」
コリンナは突如、勇者を罵る。
「こ、この豚野郎!」
姫騎士も続いて罵る。昨日、勇者が喜んでいたので、良かれと思ってやっているようだ。
「何か俺が悪い事をしたのか!?」
残念ながら、ご褒美は魔王とサシャ限定で、二人に罵られた勇者はしょんぼりする。そして、逆効果だと知った姫騎士とコリンナも、しょんぼりするのであった。