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サシャの滞在しているテントに入った姫騎士と魔王は、お願いをする。すでにテレージアが話の概要を伝えていたので、話は早い。
あとはどうやって、大爆発に巻き込まれるであろう人を助け出すかだけだ。
「う~ん……ぶっちゃけ、無理じゃね?」
話を聞いていたわりには、諦めるのが早いサシャ。姫騎士は諦め切れないので、もう一度お願いする。
「なんとかならないのか?」
「兄貴の考えに賛成する気はこれっぽっちもないんだけど、いつ爆発するかわからない物の近くに居られたら助けられないしぃ。それに、これはウチの考えなんだけど、そいつ、起動役じゃね?」
「起動役?」
「目で見て、確実に軍を巻き込もうとしているとか? もしくは、そいつが死んだ時点で爆発するかだしぃ」
「くっ……確かに父上ならやりかねない」
サシャの考えに姫騎士は納得してしまうが、それでも許せないからか手を握り込む。その姿を見ていた魔王は、サシャに食って掛かる。
「サシャ様! お兄ちゃんはサシャ様がいれば、なんとかしてくれると言っていました。どうにかならないのですか!!」
「お兄ちゃん……??」
「あ……勇者様が……」
サシャに睨まれた魔王は、声が小さくなる。
「まぁいいや。でもさ~」
「なんでしょうか?」
「あんた本当に魔王?」
「えっと……そうですけど」
「ウチんとこの魔王は、ホント最悪だったんだしぃ。人族なんて滅ぼそうとしていたのに、なんであんたはそうしないんだしぃ?」
「そう言われましても、私は私なので、よくわかりません。それに、滅ぼして何が楽しいのですか?」
「さあね~……倒す前に聞いておけばよかったしぃ」
「プッ。フフフ」
魔王が小さく吹き出すと、サシャは怪訝な目で見る。
「あ、すみません。勇者様と同じ事を言っていたので、つい……やはり兄妹なのですね」
「あんな奴、兄妹じゃないしぃ!」
「す、すみません!」
それから魔王と姫騎士は、サシャを宥める事に骨を折る。サシャもあまり時間が無い事を聞いているので、早々に怒りを収め、救出作戦の概要を話し合って決めるのであった。
* * * * * * * * *
「そっちの人は誰だ?」
勇者の元へ戻った魔王と姫騎士は、マント姿の者を連れている。勇者も見た事のない怪しい人物を見て、質問しているようだ。
「エ、エルフの最長老様です。防御結界が凄いんですよ!」
「ふ~ん……なんだか懐かしい感じがするんだが……」
「き、気のせいですよ! それに最長老様は男なので、お兄ちゃんの妹ではありません!!」
魔王……焦りすぎだ。それではマント姿の者を、サシャだと言っているようなものだぞ?
「いもうと……」
ほら。勇者も何か感付きはじめた。フードから出ている顔をマジマジと見ている。
「勇者殿! これより作戦を伝える。勇者殿は先行して走ってもらい、最長老様はあとから追うので、裁量に任せてくれ!」
「いいけど……最長老は危険じゃないのか?」
姫騎士が割って入ると、なんとかごまかせたようだ。サシャは後頭部に認識阻害の効果がある狐の面を付け、その上からフードを被っているので、近くで顔を見られてもわからなかったようだ。
勇者は匂いにも敏感なので、このマントも長く着用していた兵士の物を使っている。最初はムサイ男の物を渡した姫騎士だったが、くさいのなんのと「ギャーギャー」言われて、女騎士の使っていたマントを羽織らせている。
なんとかごまかせたサシャであったが、内心は……
(キモッ! 兄貴の顔を近くで見てしまったしぃ!! ……でも、こんなにイケメンだったっけ?)
性格はアレだが、美少女のサシャの兄だ。顔は整っているので、サシャも見直し……
(痒い! 痒いしぃ! 早くどっか行けしぃぃぃ!!)
いや、勇者アレルギーが出たようだ。勇者が後ろを向いた瞬間、ボリボリと掻きむしっていた。
それから姫騎士軍は双子勇者を残し、後退して土魔法で作った壁で道を塞ぎ、準備完了。姫騎士が開始の号令を出す。
「おふた方! いつでもいいぞ!!」
「おう!」
姫騎士の声には勇者が返事をし、サシャは頷くだけ。一切声を出さないサシャに、勇者は声を掛ける。
「危険だから、下がっていていいんだぞ?」
サシャは首を横に振る。
「……そうか。でも、無茶はするなよ?」
サシャは首を縦に振る。内心は、「偉そうに」と思っていたが……
サシャの心情は勇者には伝わらなかったが、やると確認の取れた勇者はクラーチングスタートの姿勢を取って、大声を出す。
「行くぞ!!」
その声と共に、勇者の姿は消える。サシャはギリギリ目で追えていたようなので、同時に飛行魔法でついて行く。
(はやっ! 兄貴ってこんなに速く走れたの? ウチより速いかも……いやいや、最強のウチが負けるわけないっしょ~!)
サシャは空を飛び、勇者に追いすがる。
(嘘だしぃ……全然追い付けないしぃ、離されてるしぃ……。あ! ヤバイ! 間に合え~~~!!)
凄い速度で動く二人は、前方に立つ女性と黒い物体を確認した瞬間、黒い物体が光を放ち出す。
サシャは感知魔法で場所は把握していたので、ふたつの防御結界を展開して女性とマジックアイテムを包み込む。
防御結界は自分から離れると薄くなる特徴を把握しているサシャだったので、極力近付きたかったが、残念ながらまだ少し距離が足りていなかったようだ。
大爆発が起きた瞬間、爆発マジックアイテムに施した防御結界は一瞬耐えたがすぐに壊れ、爆風が女性に及ぶ。女性は防御結界に守られているものの、爆風に押し飛ばされ、ヒビが入る。
防御結界が破られるまで、コンマ数秒の世界。サシャは自分自身の防御結界にも集中しなくてはならないので、女性に再度掛けている余裕はない。
サシャの魔法が間に合わないまま、辺りは爆風が吹き荒れ、轟音が響き渡るのあった。