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 勇者サシャの謁見を無難にこなした姫騎士は、軍の先頭に移動する。そして滞在している巨大馬車に姫騎士が入ると、皆は食事をしている最中であったが、揉め事の最中でもあったようだ。


「お兄ちゃん! いつまでコリンナさんを膝に乗せているのですか!」

「サシャが嫉妬している……」


 どうやら、勇者がコリンナとイチャイチャしているように見えて、魔王が怒っているようだ。怒られた当の勇者はと言うと、気持ち悪い笑顔で魔王を見ている。


「コリンナさんも離れてください!」

「みんな抱きついたりお姫様抱っこしてもらってたじゃない? オレにだけ言うのって、おかしくない?」

「そ、それは……」


 さすが策略のコリンナ。魔王を言いくるめている。勇者の膝の上に乗っているのも、何か適当な事を言って乗せてもらっているのだろう。

 そもそも、二人がイチャイチャしてもサシャが現れなかったから、コリンナも自分もやろうと思ったのだ。


「ぐふふ。姫騎士も参加しなよ~? このままじゃ、勇者が取られちゃうわよ~? ぐふふ」


 当然、おっさんテレージアは、この楽しいやり取りを傍観(ぼうかん)しているだけじゃなく、パタパタと空を舞って(あお)っている。


「よ、よし!」


 何故かテレージアの口車に乗って姫騎士も加わり、勇者の取り合いっぽい事態に発展していると、馬車にノックの音が響いた。

 現在、勇者達は取り込み中なので、ギリギリ起きていたフリーデが対応しに外に出て、一人の男を連れて戻って来た。


「姫殿下……それと魔王殿とコリンナ。出て来てください」


 ヨハンネスだ。理由は三人にもすぐにわかったようなので、すごすごと馬車から降りる。

 ちなみに勇者もついて行こうとしたが、魔王に「待て!」と言われて嬉しそうに残った。放置プレーのつもりらしいが、気持ち悪い……



 そうしてヨハンネスの案内で、サシャの前に連行された三人は、肩をすくめて沙汰を待つ。


「クリクリの様子がおかしかったから聞き耳を立ててみれば……」


 サシャの静かな怒りの声に、魔王とコリンナは一斉に姫騎士の顔を見る。


「あんた達も同罪だしぃ!」


 二人が姫騎士を責めるような視線を送るので、サシャは一喝してから説教を始める。

 それから長い説教が続き、ガミガミと言われてしゅんとしていた三人の前に、弁護士が助けに来てくれた。


「ちょっと~。もうその辺にしてあげなよ」


 テレージアだ。魔王達は希望の光が来たと……は思えず、ひと目見て目を逸らす。


「またあんた……」

「前も言ったよね? 勇者のストーカーはやめろって」

「ス、ストーカーじゃないしぃ!」

「盗聴は立派な犯罪よ!」

「うっ……違うしぃ……」

「は~い。それじゃあ、解散! 早く寝ましょう」


 サシャの声が小さくなったところで、テレージアはパンパンと手を叩いてサシャを追い返す。

 こうして、説教から逃れた三人は馬車に戻り、テレージアを褒め称える。珍しく褒められたテレージアもご満悦。もっと褒めろと鼻高々だ。

 だが、褒めるのに疲れた三人は、馬車の寝室に消えて行った。テレージアも、もっと褒めろと追い掛け、夜は更けて行った。

 ちなみに勇者は、リビングに放置したまま。さすがにサシャの説教の後では、皆はベッドに誘う勇気はなかったようだ。



 それからも勇者の取り合いや、サシャの乱入と無茶な行動に振り回されたり、逃げ遅れた帝国兵を引き抜きながら四日が過ぎた頃、勇者が大きな声を出す。


「姫騎士! 前進を止めろ!!」


 その声に疑問に思った魔王と姫騎士が質問する。


「お兄ちゃん。どうしたのですか?」

「そうだ。何を焦っているのだ?」

「いいから止めろ!!」


 珍しく勇者は語気を強めるので、姫騎士も何か感じるものがあるのか、急いで各所に指示を出し、軍の前進を止める。

 馬車が止まると勇者は飛び降り、遥か前方を見据える。そうしていると、あとから姫騎士達も馬車から降りて、勇者の隣に立つ。


「何かあるのか?」

「人が立っている……」

「ひと?」


 皆には見えないので、魔王はフリーデに見えるかと聞くと、勇者と同じ反応を示し、確認が取れる。


「それだけか?」

「ハッキリとはわからないが、ミニンギーでの嫌な感じが、この先からするんだ」

「ミニンギー……爆発マジックアイテムか!?」

「おそらく……」


 勇者の勘……。あれほどの爆発を体感したのだから、勇者はいち早く気付いて軍の前進を止めたようだ。

 それからは会議を開き、マジックアイテムの解除方法や、どうやって道を抜けるかの話し合いに移るが、いい案が浮かばないようなので、テレージアをサシャの元へ派遣する。


 テレージアが誰にも気付かれる事なく消えた後、珍しく真面目な顔を続ける勇者が口を開く。


「やはり、俺が一人で行って来るよ」

「それしかないか……」


 勇者の言葉に、姫騎士が諦めたように頷くと、魔王が心配そうな声を出す。


「人が立っているのですよね? 爆発の巻き添えになってしまうのではないでしょうか……」

「わかっている。だが、勇者殿に無茶をさせるんだ。助ける事は難しいだろう」


 魔王の言葉に姫騎士が諦めたように答える。すると魔王は、勇者に目を移す。


「お兄ちゃんなら、助けられますよね?」

「……わからない。せめて、どのタイミングで爆発するのかがわかればいいんだが……」

「そうですか……」

「こんな時に、妹が居てくれたらなんとかしてくれたんだけどな……。そろそろ行くよ」

「待て!」


 勇者が立ち上がると、それを止めるように姫騎士も立ち上がる。


「なんだ?」

「少し時間をくれ。すぐに戻る。魔王殿もついて来てくれ!」

「え……あ! はい!」


 姫騎士の言葉に、魔王は何を考えていたのか気付き、一緒に駆け出した。



 そうして後方にあるテントに到着すると、許可を得て、二人で入る。


「ふふん。聞いてるしぃ! ウチを頼りに来たんだしぃ!」


 サシャは嬉々として、姫騎士と魔王を出迎えるのであった。


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