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「帝国兵……」


 死の山の調査を始めたサシャとヨハンネスは、目の前にある、鎧を付けた上半身しかないミイラを見ながら話し合う。


「死んだにしては、おかしくね?」

「確かに……肉体が腐敗しているならわかるが、一週間やそこらでミイラになるとはとても思えない」

「ね? 死体も転がっているのに、血の跡すら残ってないしぃ」

「まるで地面に吸い取られたみたいだ……兵士は!? 他の兵士はどこにいるんだ!!」


 ミイラを見付けた事によって、ヨハンネスは辺りを見渡してから、サシャに詰め寄る。


「それがね~……」

「それが?」

「魔獣の反応はあるんだけど、その他はまったくないしぃ」

「嘘だろ……四万の兵士が居たんだぞ!」

「ウチに言われても知んないしぃ」

「あ……」

「とりま、生存者が居ないか、この辺を見て回るしぃ」

「ああ!」



 ひとまず二人は森に向けて歩き、転がるミイラを見ながらしばらくすると、陣営跡地に到着する。


「ここで陣を張ったようだが、壊されているな」

「う~ん……見た感じ、逆に行ったのかな?」

「死の山に向かったのか……」

「だろうね。そっち行くしぃ」


 サシャの指示に従い、反転して真っ直ぐ死の山に向かう。そうすると、食い散らかされて転がるミイラを多数発見し、ヨハンネスは気分が悪くなる。


「うっ……」

「情けないしぃ」

「サシャは大丈夫なのか?」

「ウチはもっとひどい現場見てるかんね。ゴブリンの巣に乗り込んだ時の話……聞く?」

「ゴブリン……いや、いい。先に進もう」

「あの時はね~」

「聞きたくないと言ってるだろ!」


 それでも話し続けるサシャ。ゴブリンに犯されて無惨に殺された女の死体の転がった巣の話は、ヨハンネスには刺激が強かったようだ。

 なので、耳を塞いで叫びながら走って行ってしまった。当然、サシャも飛びながら追い掛け、ケラケラと笑っている。


 そうして速度の上がった二人は死の山間近、深い崖にまで到着する。


「ちょっ、止まるしぃ!」

「いやだ~……う、うわ~~~!」


 サシャがしつこく話し続けるので、ヨハンネスは聞く耳持たず。そのせいで、崖に突っ込んで行った。

 そうして落ちて行くヨハンネスは、サシャに救出されて崖まで戻され、地に足を着ける。


「ハァハァ……」

「だから止まれって言ったしぃ」

「それは! ……なんでもない」


 サシャに文句を言ったところで、聞いてくれないのでヨハンネスは諦めてしまう。


「それにしても、変わった形だな。崖も真っ直ぐだ」

「人工物みたいだしぃ」

「人工物?」

「誰かが作ったんじゃね?」

「こんなに巨大な物をか!?」

「自然にできるほうが不自然じゃね?」

「確かに……」


 サシャの言い分に、ヨハンネスは納得してしまう。


「とりま、ライナーの終着点はこの辺かな?」

「可能性はあるな。でも、不自然なまでにミイラが揃って落ちているのはどういう事だろう?」


 ヨハンネスの指摘で、サシャは浮いて空から辺りを確認する。そうすると、崖から半円状にミイラが並んでいる姿が見られ、サシャはなんとなくヨハンネスに指示を出す。


「ちょいそっちに動いてくんない?」

「こうか?」

「もう少し左だしぃ。……今度は行き過ぎだしぃ!」


 と、「ギャーギャー」指示を出したサシャはふわりと地上に降り立つ。


「やっぱしね」

「何かわかったのか?」

「誰かを取り囲んだ跡みたいだしぃ」

「魔獣がか!?」

「たぶんね」

「魔獣がそんなに統率された行動を取るわけないだろう」

「普通はね。でも、魔獣を操る程の力ある者が居ればどうよ?」

「あ……」


 サシャの推測に、ヨハンネスは、一人の人物の顔が頭をよぎる。


「……魔王」

「う~ん。あの子はないっしょ~」

「しかし、それ以外は考えられないぞ」

「この一週間そばに居たし、その上ウチと一緒でかわいいから、ないない」

「……かわいいは関係あるのか?」

「あるしぃ~!!」


 ないな。けど、何故か力説しているから、放っておいてあげよう。


「仮に魔獣が囲んだとして、囲まれた者はどうなったんだ?」

「さあね~。殺されたか、それとも……」

「……飛び降りた」

「もしくは、空を飛んで死の山に降りたとか……行ってみっか?」

「死の山にか!?」

「じゃあ、ヨハンは留守番、ヨロ~」

「え……近くに魔獣は??」

「なんかぞろぞろと近付いて来てるから、頑張るしぃ!」

「お供させていただきます」


 サシャの脅しに負けて、素直に宙を舞うヨハンネス。魔獣を相手するより、言葉の通じる勇者のほうがマシに感じたのだろう。

 そうして死の山頂上に降り立った二人は、辺りを観察する。


「何も無いな」

「う~ん……体はどうだしぃ?」


 ヨハンネスはサシャの言葉で「ハッ」として、手や足を動かして確認する。


「……なんともない」

「ふ~ん。面白くないしぃ」

「なっ……いいだろ!」

「ま、もうちょっと調べて見るしぃ」


 ヨハンネスが苦しむ様を想像していたサシャは、心底残念がり、反論は無視して歩き出す。

 と言っても、何も無い平坦な地面を歩き回るだけで、これといった物も見付からず、時が過ぎる。


「ダメだこりゃ」

「ん?」

「入口でもないかと探していたけど、見付かんないや」

「やはり、自然にできた山なんじゃないのか?」

「いや……ウチの勘が何かあるって言ってるしぃ」


 勇者の勘……サシャは普通の人間より鋭い感覚を持ち合わせている。事実、この勘で自分の命だけでなく、多くの人々の命を救って来たのだ。

 それなのに……


「気のせいだろ?」


 ヨハンネスは、またよけいな事を言う。


「失礼だしぃ! もう助けてやんないしぃ!!」

「助ける? ……う、うわ~~~!」


 サシャがムキーっとなったその時、空から大きな影が降って来るのであった。


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