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 会議から二日後、姫騎士軍の出陣式も終わり、魔王は四天王に見送られる姿があった。


「魔王様~。お腹に気を付けてくれだ~」

「忘れ物は無いか?」

「毎日、ごはんを食べてくださいね」


 ミヒェル、レオン、スベンと別れの挨拶をするが、相変わらずおかんのような心配の仕方をするおっさん達だ。


「もう。そんなに心配をしないでくださいよ。フリーデちゃんもお兄ちゃんもいるから大丈夫です」


 おっさん三人は、それが心配の大部分を占めている。眠ってばかりの護衛フリーデと、魔王しか見えない勇者では、心配されても仕方がない。

 その事を告げると、魔王は楽観的に笑って応えていた。こちらも相変わらず暢気(のんき)なこと……


 魔王達の別れの挨拶をしている隣では、コリンナと三少女も別れを惜しんでいた。どうやらコリンナは、三少女を危険な戦地に連れて行きたくないようだ。

 三少女は涙ぐみ、コリンナは必ず戻ると力強く告げる姿があった。



 そうしてしばしの別れを終えて、姫騎士軍は進軍する。先頭は姫騎士、魔王、勇者、フリーデ、テレージア、コリンナを乗せた馬車。今回は巨大ホルスタイン、アルマは連れて行かないので、勇者の出したサスペンション搭載馬車だ。

 人族兵はほとんどが徒歩で進み、護衛任務を帯びている者以外は、武器や防具、その他荷物は馬車に積み込み、軽やかに進軍する。


 その後方、少し遅れた位置には、ヨハンネスが馬を操り、一人乗り用馬車、チャリオットを引いて進む。乗っているのはもちろんサシャだ。

 姫騎士からはサシャを誘わなかったのだが、どこから聞いたのか、ヨハンネス越しに呼び出されていた。


 そこで……


「どうして誘わないんだしぃ!」

「兄貴は頼って、何でウチは頼らないんだしぃ!」

「まさか兄貴とイチャイチャするつもりだしぃ!!」


 と、「ブーブー」言われて姫騎士は困惑する。人族の戦争にサシャを頼るのは気が引けたと説明したが、よけい気に入られて絶対行くと言われ、渋々連れて行く事となった。

 ぶっちゃけ、サシャの目の届かない所に居るほうが気持ちが楽なのだから、置いて行きたかったのだろう。

 しかし、ついて来たものは仕方がない。サシャの希望通り、出来るだけ勇者と離れた配置に置いたようだ。



 そうしてヨハンネスにブツブツ言いながら進軍について行き、何かを感じたサシャは一声掛ける。


「ちょっち行って来るしぃ」

「また出たのか……魔獣は食糧に変わるから、今回は持ち帰れないか?」

「え~! そんな事したら兄貴にバレちゃうしぃ」

「う~ん……騎士が狩った事にする手配をしておくから、頼む」

「……わかったしぃ」


 サシャは嫌々だが、ヨハンネスのお願いを聞いて森に消えて行く。ヨハンネスはサシャを見送ると、姫騎士に連絡してから馬を走らせ、最後尾から中間地点に移動する。

 しばらくして、狩りを終えたサシャからの連絡が入ると休憩場所を伝え、兵士の輪の中央に死んだ魔獣を置かせる。

 その後、二人は兵士の影に隠れると勇者達を呼び寄せ、騎士が倒した(てい)で魔獣をアイテムボックスに入れてもらう。こうしてサシャを気付かれる事なく、食糧を手に入れる事に成功した。

 休憩が終わるとしばらく待機し、ヨハンネスは最後尾にてサシャを労う。「偉そうだしぃ」とサシャに文句を言われていたが……



 サシャの暇潰し、魔獣狩りのおかげで姫騎士軍は怪我なく進軍して七日後……帝国が作った砦を前に立ち止まる。

 砦の(やぐら)からは、弓を構えた兵士が顔を出しているので、歓迎されてはいないようだ。


 ひとまず姫騎士は交渉に乗り出すと説明し、勇者と共に砦の門へと歩を進める。そうして二人が砦に近付くと、櫓に立つ兵士が大声を出す。


「止まれ~!」


 その声で、姫騎士と勇者は歩みを止める。すると兵士は弓を引いて姫騎士に狙いを定めるので、勇者がその射線に立とうとするが、姫騎士は勇者を押し退けて前に出た。


「私は帝国皇女クリスティアーネだ! そなた達と剣を交えたくない。武器を捨てて、投降してくれ!!」

「姫殿下……しばし待たれよ~!」


 兵士は姫騎士の説得に応え、隣に居た兵士を走らせる。


「引いてくれるかな?」

「だといいのだが……」


 勇者の質問に姫騎士は砦を真っ直ぐ見つめ、口を閉ざしてしまう。二人が立ったまま数分が過ぎると、砦の責任者とおぼしき騎士が櫓に上がって来た。


「貴様はヴァンパイアだな! 姫殿下はすでに亡くなっている! 弓を放て~!!」


 姫騎士の降伏勧告は聞く耳持たず。長兄の嘘を信じる騎士の声に、姫騎士は悔しそうな、悲しそうな顔を見せる。


「くそっ……馬鹿者が……」

「姫騎士! 下がれ!!」


 兵士が弓を引く中、姫騎士は歯を噛み締めて口の端から血を(にじ)ませる。勇者は一向に動こうとしない姫騎士の前に立ちはだかり、兵士から隠してしまう。


 そのすぐ後に、二人に弓矢が降り注ぐのであった。


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