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「「「「「ギャーーー!!」」」」」


 全方向から聞こえて来る悲鳴に、長兄は恐怖する。いや……全方向に見える巨大な魔獣の群れに、長兄は絶望する。

 兵は切り裂かれ、叩き潰され、空を舞い、血しぶきが降り注ぐ惨状。もはや戦いでは無い虐殺。その現場を目撃した者は気が触れ、逃げ出したとしてもそこには魔獣が道を塞ぐ。



「ど、どうしてこうなった……」


 赤い雨が降る中、長兄は声にならない声を出して膝を突く……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 時は(さかのぼ)り、死の山に着いて初めての朝。会議を開き、魔獣を少しずつ操り、数を増やしていく作戦を話し合っていた。


「うむ。罠を張り巡らせ、そこに誘き寄せて操るのか……兵の損耗が少なくなるな。その作戦で行こう」

「「「「「はっ!」」」」」

「では、残りは班分けだ。お前は……」


 作戦は決まり、部隊の役割を決めていると、慌てて息を切らした兵士が飛び込んで来る。


「殿下~~~!」

「会議中であるぞ!」

「し、しかし!」


 兵士の叫びに、髭を生やした騎士が叱責する。だが、それでも早く伝えたいからか、兵士は引き下がる事をしない。


「よい。申してみよ」

「はっ! 感知魔法で見張らせていた魔法使いが、多数の魔獣の反応を捉えました!」

「どちらの方角だ!」

「四方八方……逃げ場もごさいません!!」

「なんだと……」


 兵士の伝令が終わると、会議室は静寂が包まれる。だが、静まり返ったせいで、現実だと気付かされる。

 魔獣の足音だ。ドドドドと小さく聞こえて来たその音は、徐々に大きな音となり、外に居た兵士からもざわめきが聞こえて来る。


「防御陣形だ! 直ちに取り掛かれ~~~!!」

「「「「「は、はい!!」」」」」


 長兄の焦りがまじった命令に、隊長達は慌ててテントから飛び出す。そうして兵士を操り、長兄を囲むように人の盾が出来上がってしばらく経つと、森から巨大な魔獣が現れる。

 キマイラ、フェンリル、ケルベロス、グリフォン、ドラゴン、ゴーレム、その他様々な魔獣。大きさも、10メートルを雄に越え、30メートル近くある魔獣まで居る。

 そんな化け物が数百匹も一斉に現れたのだ。兵士の顔は恐怖に歪み、士気が下がるどころの騒ぎではない。大混乱を引き起こした。


 長兄はその事態を収めようと声を張りあげるが、魔獣からも大声が一斉にあがり、誰にもその声が届かず、血の雨が降り出したのであった……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「殿下! お立ちになってください!」

「ウッツか……」


 地に手をつき、途方に暮れている長兄を、ウッツが引き起こして声を掛ける。


「貴様の妙案に乗った私が馬鹿だったのか……」

「まだこれからです!」

「これから? 二万の兵を殺され、もうじきあの世に旅立つ私に先があるわけがない……」


 長兄は全てを諦め、怒る事もせずに死を待つ。しかし、ウッツは大声で長兄を励ます。


「南です! 南は魔獣がおりません。兵も南に移動しています!」

「南だと?」

「死の山を魔獣は嫌っているようです!」

「それでも……」

「こちらに乗ってください!」


 ウッツは長兄を馬に乗せると自分も(また)がり、死体の転がる赤い地を駆ける。同じ方向に逃げる兵士もいるが、ぶつかっても気にせず馬を操り、走り抜ける。

 そうすると岩場に辿り着き、先行して逃げていた横たわる兵士を見付ける。


「おお。本当に魔獣から逃げ切れた。兵士もかなりの数が残っているぞ!」


 地獄から生還した長兄は、歓喜の声をあげる。兵士はその声に気付いた者もいるが、疲れと焦燥からか、少し顔を上げたたげで長兄に駆け寄る者は居ない。


「念の為、奥まで行きましょう」

「そ、そうだな」


 ウッツは長兄に指示を仰ぐと馬を操り、死の山に向けて進む。その道すがらも倒れた兵士がそこかしこにあり、長兄は休んでいるのだと決め付けて、馬の進むままに死の山へと近付く。



 そうしてしばらくすると、終着点に到着する。


「崖か……これ以上進む事は出来ないな」


 死の山は目と鼻の先だが、大きな崖があり、渡ることは難しい。


「しかし、おかしな崖だ。まるで人工的に作られたような……いや、死の山事態が人工的に作られているのか?」


 死の山は真四角。それを取り囲むように崖は真っ直ぐ伸び、長兄からは見えないが、直角に曲がっている。

 一通りの確認が済めば、二人とも馬から降りて少し休憩をする。


「死の山は命を吸い取ると伝承にあったが、何も体に異変は無いようだな。魔獣も近付いて来ないし、これでは死の山と言うよりも、安全な山と言った方が正しいな」


 地獄を抜け出し、長兄はホッとしたのか笑みを(こぼ)し、それに釣られ、ウッツも怪しい笑い声を漏らすのであった。


「くふっ……くふふふ」


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