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「そこ! 兄貴から離れるしぃ!!」


 サシャは自分と同じ顔を持つ魔王の行動を止める為に、ズサッと着地する。


「嫌です! お兄ちゃんは離しません!!」


 魔王は勇者を強く抱き締め、断固拒否する。


「離れろって言ってるしぃ!!」

「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんです! 絶対に渡しませ~ん!!」

「ウチの顔でお兄ちゃんとか言って、抱きつくなしぃ~~~!」


 同じ顔どうしで勇者の取り合いっぽい事態に発展したが、どうも話が噛み合っていない。

 魔王は勇者を人族に連れて行かれる心配をして、サシャは自分が抱きついているように見えて離れて欲しいのだから、噛み合うわけがない。


 二人が言い合いを続けていると、町から出ていた姫騎士達が、恐る恐る二人に近付く。


「あ~……ちょっといいか?」

「なんだしぃ!?」「なんですか!?」


 姫騎士の発言に、魔王とサシャは同時に声を出し、それを嫌って睨み合う。姫騎士は、そんな二人を落ち着かせる為に静かに語る。


「魔王殿。そろそろ勇者殿を離したほうがいいのではないか?」

「姫騎士さんまで!? ぜったい、嫌です~!!」

「いや……そのままでは、死んでしまうかもしれないぞ」

「嫌なんですぅぅぅ」


 姫騎士は、魔王から説得しようとしたが失敗。なので標的をサシャに移す。


「あなたは、勇者サシャ殿で間違いないのか?」

「ウチは美少女勇者、サシャだしぃ!」

「そ、そうか。私の話を聞いてくれないか?」

「そいつが兄貴を離すのが先だしぃぃ!」

「わかった」


 魔王よりは話を聞いてくれるので、姫騎士はサシャを説得し続ける事にしたようだ。魔王は離れてくれないので、ひとまず連れて来ていたミヒェルとレオンに運んでもらって隠す作戦に出た。


「とりあえず見えないようにしてみたが、これでどうだ?」

「結局は離れてないしぃ……」

「あとで必ず引き離すから、いまは我慢してくれ」

「うぅぅ。わかったしぃ」

「ありがとう!」


 ホッとして礼を述べる姫騎士を見て、サシャは怒りを(しず)めて先ほど耳に入った単語を質問する。


「それでさっき、誰かが姫騎士って呼んでいたけど、あんたがあの姫騎士?」

「紹介が遅れたな。私は姫騎士こと、帝国皇女クリスティアーネだ」


 姫騎士が自己紹介を終えると、サシャは姫騎士をいろんな角度からマジマジと見る。


「私の顔に、何か付いているのか?」

「いや~。ライナーから、死んでヴァンパイアになったって聞いたけど、思ったより血色がいいしぃ」

「ヴァンパイア?」

「殺されたっしょ? 日の光を浴びても何も起きないところを見ると、かなり高位のヴァンパイアに殺されたんだね」

「私は一度も死んだ事が無いのだが……」

「へ??」


 サシャは惚けた声を出すと、姫騎士をペタペタ触る。そしてある部分を揉むと、親近感を覚える。胸を揉まれた姫騎士は、さすがに失礼に思ったのか、サシャの手を叩き落とした。


「そもそも魔界にいるヴァンパイアは、血を飲まないぞ」

「じゃあ、何を飲むの?」

「トマトジュースが好物だと言っていた」


 姫騎士は、町にトマトが届いた日を思い出し、嬉しそうにトマトジュースを作るヴァンパイアとの会話を聞かせる。


「えっと……じゃあ……」

「そうだ。ラインホルト兄様の嘘だ。それに、魔族は戦う力もない農夫ばかりだ」

「農夫……。さっきの兄貴を倒した魔王は強いっしょ?」

「魔王殿の強さはいまいちわからないが、勇者殿は妹に抱きつかれたと思って、緊張によって倒れただけだ」

「はあ? それが兄貴の弱点なの!?」


 唖然、呆然。サシャがどんなに強力な攻撃をしても倒れなかったのだから、開いた口が閉じなくなってしまった。


「驚いているところ申し訳ないが、どうか(ほこ)を収めてくれないか?」

「う~ん……でも、魔族が居たら危険っしょ~? 呪いで雨を降らせないようにしたって言ってたしぃ、町を焼いたって聞いたしぃ」

「それも嘘だ。魔界でも雨が少ないと聞いている。町を焼いたのも帝国の自作自演で、お互いに結んでいた不可侵条約を破ったのも帝国だ」

「うっそ……」

「本当だ。魔王殿は戦争の被害者なのに、人族に食糧の援助まで申し出てくれたのだ」

「じゃあ……」


 姫騎士の話を聞いたサシャは、怒りの表情に変わる。


「騙されたしぃぃぃ!!」


 サシャは叫ぶと同時に浮き上がる。


「どこへ行くのだ!?」

「あいつら、皆殺しにしてやるしぃ!」

「ま、待ってくれ! 兵士は王族の命令で動いているのだ。罪があるのは王族だけだ!!」

「帝都でも些細な事で親子を笑って殺そうとしていたしぃ! 女も奴隷にして抱いていたしぃ! ここの人族は腐っているしぃ!!」

「確かにその様な者は居る。それも王族が(とが)めなかった事が悪いのだ!」

「あんたも王族だしぃ……」


 サシャは姫騎士を、殺意のこもった目で見る。その冷たい目に、姫騎士は心臓を掴まれたように感じて息が苦しくなる。それでも姫騎士は叫ぶ。


「そうだ! 私にも罪はある!! だから私は父である皇帝を討つ。その後は、私の命をサシャ殿の好きにしてくれてかまわない。国民の命だけは助けてくれ!!」


 姫騎士の叫びを聞いたサシャは、地上に降り立つ。


「ふ~ん……あんたはマシみたいね」


 一言掛けて、サシャは姫騎士の目の前まで歩み寄る。


「そう言う事なら、皆殺しはやめてやるしぃ」

「あ、ありがとう」


 サシャが殺気を解いて笑顔を見せると同時に、姫騎士は崩れ落ちる。その後、サシャは人族を追い返して来ると言って飛び立った。

 姫騎士は安堵の表情を浮かべると、ひとまず魔王と合流して、勇者を引き離す事に骨を折るのであった。


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