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勇者サシャの攻撃が勇者に突き刺さる中、姫騎士は魔王の手を引き、走って階段を降りる。そして、東門に居たレオンとミヒェルに声を掛け、準備が整うと東門を開く。
外に出たのは魔王、姫騎士、レオン、ミヒェル。ただし魔王は、レオンの引く荷車に乗っている。そのメンバーで、勇者の元へ走り出す。
「それで何するつもり?」
「テレージアさん!?」
いや、テレージアも勝手について来ていた。
「危険です! 戻ってください!!」
「だって勇者のピンチなんでしょ? それならどこに居ても一緒よ」
「ですが……」
「あたしがいいって言ってるでしょ。だから、何をしようとしてるか教えてよ。出来るだけ協力するからさ」
「テレージアさん……わかりました」
魔王はテレージアの強引さに負け、作戦を伝える。その間、魔王達は勇者に近付き、光の槍が弾かれて飛んで来ると、姫騎士が刀で打ち落とし、ミヒェルの大鍋で守られる。
そして双子勇者の戦闘区域に十分近付くと、魔王がストップを掛けて、魔法を唱える。
「……【ウォーターボール】!」
魔王が放つは水の玉。ただし、魔王の有り余る魔力で、巨大な玉となってサシャを襲う。
* * * * * * * * *
その少し前、サシャは勇者の行動に顔を歪める。
「あははは。楽しいな~」
「キモいキモいキモいしぃ! なんであんなに槍が刺さって、笑ってるんだしぃぃぃ!!」
勇者の行動とは、触れてもいないのにサシャと踊っているつもりらしい……本当に気持ち悪い。
「くっそ! アレでトドメ刺してやるしぃ!!」
サシャが使おうとしている魔法は、山をも吹き飛ばしたあの魔法。残りの光の槍を放ちながら詠唱を始める。
だがその時、巨大な水の玉がサシャを襲う。
「わ! なんだしぃ!!」
突然の攻撃に、ビックリしたサシャは防御結界を大きく展開し、詠唱を止めざるを得ない。
水の玉は、球状の光に弾かれると、勇者にドボドボと降り注いだ。
「誰だしぃ! ……え?」
サシャは魔法を放った者を、キッと睨む。しかし、一人の女性の顔を見て戸惑う事となった。
「ウチがもう一人いるしぃ……」
瓜二つの魔王の顔を見たのならば、戸惑っても仕方がないだろう。
「うっわ……本当にそっくりね」
そこに追い打ちを掛ける者がパタパタと現れた。
「妖精!?」
そう……
「ノンノン。あたしは妖精女王のテレージア様よ!」
うん。またセリフを取られたが、そのテレージアだ。サシャの攻撃魔法を見て、よくもまぁ余裕で自己紹介できるものだ。
「妖精女王?」
「そうよ! 偉いのよ! かわいいのよ!!」
そのセリフは姫騎士をスカウトする時に言って、失敗したセリフだろう……
「あ……うん。それでウチになんか用?」
ほら。サシャも呆れている。でも、話を聞いてくれる態勢になったようだ。
「あんたが勇者の双子の妹?」
「あいつなんて知らないしぃ!!」
テレージアが質問すると、サシャは即座に否定する。テレージアは魔王から妹だと聞いていたから、不思議そうな顔をして質問を変える。
「えっと……魔剣の勇者サシャでしょ?」
「違うしぃ! 美少女勇者サシャだしぃぃぃ!!」
「あ、うん。でも、サシャで合ってるのね」
自分で美少女と言うサシャに、テレージアはたじたじ。テレージアも自分でかわいいと言っているから同族だぞ?
* * * * * * * * *
一方その頃魔王は、テレージアと話をしてサシャの攻撃の止まった事に乗じ、荷車から飛び降りて、叫んでいる勇者に駆け寄る。
「サシャ~! サシャ~~~!!」
「お兄ちゃん!」
「あ、サシャ。サシャが俺を追い掛けて、この世界に来たんだ!!」
「お兄ちゃん。落ち着いてください! サシャさんは、人族に召喚された勇者様です。ですので、あちらにつかれると私が困ります!!」
「でも、サシャが……」
「サシャなら私です!!」
「あ……プシュー」
勇者は魔王に抱きつかれると、突然の事で尻餅をつく。魔王はそのまま抱きついたまま離れようとしないので、勇者はついにショートしてしまった。
* * * * * * * * *
一方その頃サシャは、テレージアに説得をされていた。
「だから、悪いのは人族なんだって~!」
「魔族が悪者に決まってるしぃ!!」
どうやらサシャは頭が固いのか、説得に苦労しているようだ。
「それを証拠に、勇者だって協力してくれてるのよ!」
「兄貴は馬鹿だから、騙されているに決まってるしぃ」
「やっぱ、兄妹じゃない!」
「あんな奴、兄妹じゃないしぃ!!」
説得が上手く行かず、だんだん口喧嘩に発展し、二人が勇者を指差したその時、サシャは驚く。
「え……兄貴が倒れた?」
サシャがどんな攻撃を繰り出しても、倒れた事のない頑丈な勇者を見たからだ。
「うそ? 何あいつ??」
「アレは魔王よ。フフン」
サシャの驚く顔に、テレージアは気分が良くなる。別にテレージアの手柄じゃないのに……
「ウチの顔をした女が、兄貴に抱きついてるしぃぃぃ!!」
どうやらサシャは、魔王を紹介された事よりも、勇者に自分が抱きついているように見えて驚いていたみたいだ。