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 長兄の制止を聞かずに、魔族の守る町に飛んで進むサシャはご機嫌だ。


「ふっふ~ん。どんな敵が居るのかな~? いきなり魔王は無いから、四天王? いや。第一の町なら、大きなトロールとかかな? いやいや。ウチの世界は四天王からだったし、あるかも~。どんな戦いになるか、楽しみっしょ~!」


 うん。それらは全部揃っているな。ただし、サシャを楽しませるほど魔族は強くない。


「久し振りに無双してやろうかな? そうなったら、ライナー達の取り分がなくなるか……まぁゴブリンぐらい残してやるしぃ」


 サシャの力なら、魔族は簡単に無双できる。ゴブリンすら残らないだろう。


「お! 見えたしぃ! 一発、派手にぶち込んでやるしぃぃぃ!!」


 サシャは飛びながら呪文を唱え、力を溜める。そして、キャサリの町まで近付くと、両手を振りかぶる。


(えん)りゅ……へ?」


 しかし、サシャは惚けた声を出し、魔法の詠唱を止めて上空に移動する。


「卵の殻を被った女の子が手を振ってたしぃ……どゆこと?」


 どうやらサシャは、フリーデを見て攻撃を止めたみたいだ。

 そうしてサシャが悩んでいると、町から鐘の音が響き渡る。


「あちゃ~。魔族が慌ただしく動いてるしぃ……でも、人族っぽくね? こんな時は【千里眼】!」


 サシャが魔法を唱えると、右目にレンズのような物が出現する。


「よしよし。よく見えるしぃ。さっきの女の子は……いた! やっぱりかわいいしぃ」


 うん。わざわざ望遠鏡みたいな効果のある魔法を使って、何を見ているんだか……


「う~ん。ほとんど人族っぽい……全部、魔人かな? あ! 牛っぽいのとライオンっぽいのが居る。他は、少女に……ライナーと同じ髪の色の女か」


 あ、いちおうちゃんと見てたんだ。


「なんか武器も農具っぽいんだけど~。う~ん……」


 そして東門に集まって来る魔族も観察して考え込む。サシャが考えていると、東から人族軍が迫る姿が目に入った。


「あ~。もう来ちゃったしぃ。この世界の魔界は魔人がいっぱい居るのかな? まぁ牛みたいなのとライオンみたいなのも居たし、もうやっちゃうか」


 サシャは考えるのが面倒になり、高度を下げる。ひとまず人族軍が侵入しやすくなるように、東の壁を壊す作戦を取るようだ。



 サシャが高度を下げて呪文を唱え始めると、外壁から男が飛び降りる姿を確認する。その男は何やら叫びながら手を振り、サシャに向けて真っ直ぐ走って来る。


「サシャ~! サシャ~!!」


 サシャの兄。双子勇者の片割れだ。その声は大きく、サシャの耳に入る事となる。


「ん? なんか魔族に名前を呼ばれてるんだけど~? アレは……」


 サシャは走って来る男を凝視する。


「あ、兄貴!? どうしてここに……てか、生きてたんだ……」


 サシャは兄との再開に喜び……


「【雷鳥(らいちょう)】! 死ね~~~~!!」


 いや、息の根を止めようと、大きな鳥の形をした雷を落とす。よっぽど嫌いなのだろう。


「ぐっ……ああぁぁ」


 さすがの勇者も、サシャの魔法を喰らって苦しそうな(うめき)き声をあげる。


「いぃぃ……いい! やっぱりサシャだ。サシャ~~~!!」


 いや。気持ちよかったようだ。サシャも久し振りの勇者の反応にドン引きだ。


「キモいしぃ! 近付くなしぃ! 【千本聖槍(せんぼんせいそう)】!!」


 迫り来る勇者にサシャは顔を青くして、千本の光の槍を勇者に突き刺す。サシャの一方的な攻撃は、ピカピカと光を放ち、轟音を響かせる事となった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 同刻、人族軍は、【雷鳥】の光と雷鳴によって歩調を乱す。


「静まれ! 静まれ~~~! いまの音は、勇者サシャの攻撃だ!!」


 一瞬の光に包まれて、遅れてやって来た衝撃に人族軍は混乱し掛け、兵を落ち着かそうと騎乗した長兄が叫ぶ。その声に続き、隊長達も大声で軍を落ち着かせる。

 混乱が落ち着くと、今度はサシャを称える声をあげ出す人族軍。いちおうは足並みが揃ったので、長兄は(とが)める事はやめたようだ。


「まったく、あの娘は……」


 長兄が愚痴った矢先、前方がピカピカと光り出し、轟音が響く。その音を聞いて、隣で騎乗しているヨハンネスが長兄に話し掛ける。


「激しい戦闘を繰り広げているみたいですね」

「だろうな。だが、見えない所でやられると、こちらが困る」

「ですね」


 サシャの戦闘音を聞きながら、人族軍は自分の事のように喜び、声を出し続ける。まるで花火を見に行くかのような行列になった軍を見て、長兄は長いため息を吐いていた。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 同刻、【雷鳥】の雷鳴を聞いた姫騎士は、外壁を駆け登る。そこには、魔王が膝を突き、大きな穴を見つめる姿があった。


「魔王殿! いまの音はなんだったのだ!?」

「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……光る鳥に呑み込まれました……」

「なんだと!?」


 勇者が立っていた場所はクレーターとなり、焼け焦げて煙が辺りに立ち込めていた。その惨劇に、姫騎士はゴクリと息を呑む。


「お兄ちゃん……」

「だ、大丈夫だ! 勇者殿はあの爆発にも耐えたのだから、必ず生きている!!」


 姫騎士は、いまにも泣き崩れそうな魔王に寄り添い、ミニンギーの町での出来事を思い出させる。


「あ……そうですよね!」

「ああ!」


 勇者の頑丈さを思い出した魔王は姫騎士の手を借り、立ち上がる。すると、煙が晴れ、勇者の姿を確認する。


「お兄ちゃん!」

「空を飛んでる女に、何か叫んでいないか?」

「そう言えば、『サシャ』と呼びながら走って行きました」

「魔王殿は、ここに居るではないか?」

「まさか……」


 魔王はある可能性に気付き、空を舞う女性に目をやる。すると、(まばゆ)い光の槍が、次々と勇者に突き刺さる。


「なんだ、あの魔法は……」


 姫騎士は、光の槍に刺され、無理矢理踊らされる勇者を見て恐怖する。


「姫騎士さん! 町から出ます。協力してください!!」

「あの中を進む気か……」

「無理を承知で言っています! でも、急がないとお兄ちゃんが……」

「……わかった。ついて来い!」


 勇者サシャの攻撃におびえていた姫騎士であったが、魔王の持つ不安に何かを感じ、階段を走って降りるのであった。


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