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 勇者と魔王、テレージアは、まったく戦争とは関係無いスイーツの話で盛り上がり、穏やかな一日を満喫していると、突如キャサリの町に、けたたましく鐘の音が響き渡る。


「これは……警鐘(けいしょう)の鐘の音?」


 鐘の音の正体は、見張り台から、人族が作った森の道を見張らせていた魔族が鳴らした鐘の音。その音に、三人に緊張が走る。


「サシャ。来たぞ!」

「は、はい! えっと、こう言う場合は……東門に集合です! すぐに向かいましょう!!」

「おう!」


 と言うやり取りをして、魔王は背負子(しょいこ)に乗って移動する。背負子をセットするのに少し時間が掛かったが、そこは走る勇者。あっと言う間に東門に到着した。

 すると、外壁の上からコリンナが上がって来いと手を振るので、勇者はひとっ飛びで外壁に登る。


 そこには、四天王と姫騎士と部下数名、コリンナと三少女が揃っていた。東門周辺は、現在、兵士の訓練場所となっているので、訓練に参加していた者は先に到着していたようだ。



「あの……人族軍は何処にいるのですか?」


 勇者から降りた魔王は、森の道に人影が無い事に不思議に思い、コリンナに説明を求める。


「それが……誤報かも?」

「誤報なのですか? よかった~」


 誤報に喜ぶのではなく、注意したほうがいいのでは? 魔族は喜んでいるけど、姫騎士達は苦笑いしているぞ。

 そんな中、フリーデが「ピヨピヨ」と文句を言う。


「誤報じゃないも~ん! 何か飛んで来たんだも~ん!!」


 珍しくフリーデが見張りをしていたようだが、普段から寝てばかりなので、皆、「夢でも見ていたのでは?」といった顔をする。

 皆の表情を見て、フリーデはさらに「ピヨピヨ」と怒るので、魔王が宥める。


「フリーデちゃん。本当に見たの?」

「本当だもん!」

「ワイバーンじゃないのか?」


 魔王が質問しても、フリーデは意見を変えないので、勇者が別の可能性を示唆(しさ)する。


「魔界に隣接する森には、魔除けの木があるので、においを嫌って森から出て来ないのですけど……」

「空からもか?」

「はい」

「でも、何か気配がある気がするんだよな~」


 勇者の感……勇者は、何かしらの違和感を感じているようだ。


「気のせいじゃないんですか?」


 魔王にもまったく信じられていないみたいで、勇者はしゅんとする。しかし、フリーデが「ピヨピヨ」と騒ぎ出す。


「いた! あそこあそこ!!」

「え?」


 フリーデは空を指差すが、皆は見えていない。目のいいフリーデしが確認できない距離ならば仕方がない。


「あ! 本当だ!!」


 どうやら勇者も見えているみたいだ。


「あのシルエットは……」

「ほらね~?」

「フリーデちゃん。何が飛んでるか、わかる?」

「う~ん……人っぽい?」


 勇者は飛んでる人間を凝視し、魔王の質問にフリーデが答える。すると、姫騎士が魔王に声を掛ける。


「人間が空を飛ぶわけはないだろう。魔族にそんな種族がいるのではないか?」

「フリーデちゃんの先祖がハーピーって種族で飛べましたけど、いまはごらんの通りです」

「……そうか」


 羽が無い、卵の殻を被った少女を残念そうに見る姫騎士。すると、テレージアがある事を思い出す。


「勇者の妹は、魔法で空を飛んでたって言ってたわよ。人族にも使える人がいるんじゃないの?」

「いや。人族の中に、そのような魔法が使える者は聞いた事がない」

「あ……東を見て!」


 皆が空を眺める中、コリンナは首が疲れて視線を下げると、砂ぼこりを見付けて口に出す。


「アレは……人族軍……。数千じゃきかないぞ。万単位だ!」

「誤報ではなかったのですね……四天王の皆さん。姫騎士さん。直ちに防衛の準備に取り掛かってください!」

「「「「おお!!」」」」


 魔王は人族軍を視界に入れると、先ほどまでとは打って変わり、厳しい表情で指示を出す。


「お兄ちゃん。お兄ちゃんは前回と同じく、司令官を連れて来てくださ……え? お兄ちゃん! お兄ちゃ~~~ん!!」


 勇者は魔王の言葉を最後まで聞かず、外壁を飛び降りてしまった。すると、残っていたフリーデが魔王に話し掛ける。


「空の人も降りて来たみたい」

「あれは……女の人? え……お兄ちゃん??」



 魔族が戦いの準備をする中、魔王は空から降りる女性を見つめ、勇者は叫びながら女性に向かって行くのであった。


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