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009


 勇者の参加した魔族の会議で話し合うも、戦う事の出来ない魔族と、戦う事の出来ない勇者が手を組んだのだから、事態は好転の兆しが見えない。


「あの……本当に戦う事は出来ないのですか?」

「そうだ」

「そこをなんとかならないですか~?」


 魔王は目を潤ませてお願いする。魔族のため、恥を捨てて、泣き落としに出たみたいだ。


「うっ。かわいい……じゃなく、暴力を振るうのはトラウマなんだ」

「トラウマですか?」

「子供の頃、妹と行った森で魔物に教われたんだ。と言っても、ホーンラビットと言う弱い魔物だったけどな。その時、守る為に暴力を振るって、妹を泣かしてしまってから、俺は暴力を振るわないと決めたんだ」

「守ってくれたのに、どうして怖がったのですか?」

「がむしゃらに腕を振ったら、ホーンラビットが弾け飛んで、ミンチ肉に変わったんだ……うっ。俺も思い出すと気持ちが……」

「確かに……そんな現場を見たら、トラウマになるかもしれません……」


 勇者と魔王は想像して顔を青くする。しかしそれとは打って変わって、四天王のおっさん三人は、希望を持った顔に変わった。


「それじゃあ、人族を殴れば倒せるだ!」

「ただ振り回せばいいだけなら出来るだろ?」

「これで魔族は救われますね!」

「いや、人族がミンチ肉になるのはちょっと……」


 だが、勇者の一言で、ミンチの山が量産される事を想像し、三人も青い顔に変わる。どうやら魔族が優しい生物に進化した事は、事実だったみたいだ。見た目はいかついおっさんなのに……


「じゃあ、どうすれば……」


 話し合いが振り出しに戻ると、魔王は言葉を(こぼ)すが、皆、答えが出ずに静まり返る。しかし、そんな場の雰囲気を吹き飛ばす者が、ガチャガチャと現れた。

 リビングアーマーのテレージアだ。きっと妙案を持って現れたのであろう。


「お腹すいた~! やっぱり朝ごはんを抜くんじゃなかったわ。……あれ? みんなどうしたの?」


 ただの食事の催促だったみたいだ……。皆、呆れて黙るが、勇者だけ不思議に感じたのか、テレージアに喋り掛ける。


「お前ってリビングアーマーだよな?」

「そ、そうよ」

「リビングアーマーって、腹がへるのか?」

「なによ! 悪いの!?」

「いや、リビングアーマーが何かを食べるなんて、聞いた事がないからな」

「あ、あんたの世界はそうかも知れないけど、ここの世界は食べるのよ!」

「ふ~ん……兜を取って食べるのか?」

「そ、そんな事は……うが~! 部屋で食べるわよ。魔王! 持って来てね」


 テレージアは逆ギレして、部屋に戻って行くのであった。皆は苦笑いをしていたが、大事な会議をしていたので追う事はしない。

 その後、昼食には頃合いの時間帯なので、皆でお昼を食べてから会議を再開する。今回はテレージアも参加するみたいだ。フリーデはお昼寝しているが……



 魔王は簡単に朝の会議の概要を説明すると、テレージアは大きな声を出す。


「閃いた!」

「えっと……どうしたのですか?」

「戦う事も戦い方もわからないのよね?」

「はあ……」

「わからないなら、知っている人に聞けばいいわ。つまり、人族をスカウトすればいいのよ!」

「「「「「人族をスカウト??」」」」」


 テレージアのトンでも案に、皆、「何を言ってるの、こいつ……」って顔をする。その顔を見たテレージアは、ムキーっと反論する。


「こっちには勇者がいるんだから、別に難しい話じゃないでしょ!」

「「「「たしかに……」」」」

「ね? 勇者は人族なんだし、奪われた町に潜入するのも簡単に出来るわよ」

「「「「おおおお」」」」


 皆はテレージアのアイデアに感嘆の声をあげるが、勇者がそろりと手を上げる。


「町に潜入するのは出来るとして、どうやって魔族の側につかせるんだ?」


 まっとうな意見だ。その発言に、皆はテレージアを見つめて、有難いお言葉を待つ。


「そ、それは……勇者と聞けば、ホイホイついて来るわよ」

「「「「「はぁ~~~」」」」」


 どうやら、残念なお言葉だったようだ。テレージアは、またムキーとなるので、皆で(なだ)める事となった。



 テレージアが落ち着くと、魔王が口を開く。


「でも、私達で解決ができないのならば、有用な手かも知れません……」

「でしょ~?」

「いえ。スカウトではなく、勇者様が直接、人族の偉い人に掛け合ってくれればいいのですよ」

「「「「おおおお」」」」


 魔王の発言に、今度は間違いなく解決策だと、一同納得の声を出す。だが、テレージアは首を横に振る。


「こいつが勇者って言って、誰が信じるの?」

「「「「あ……」」」」


 見えない。伝説の剣も鎧も装備していない、旅人の服を着た勇者では、交渉のネタになっていなかった。


「それを言うなら、俺が勇者の名を出してもスカウトなんて出来ないのでは?」


 また振り出しだ。皆のジト目を感じたテレージアは、しゅんとして小さくなる。そんな中、スベンが代案を出す。


「我々は人族に関して何もわかっていないのですから、奪われた町に潜入するのはいい案かもしれません。何故、魔界に進行して来たのか。何故、条約を破ったのかの情報を集めて、交渉の材料にするのはどうでしょう?」


 今度こそ、有用な案が出され、皆、頷く。そこで魔王が指揮をとって、作戦を話し合う。


「潜入する人員と場所を決めないといけませんね。お兄ちゃん、一人で大丈夫ですか?」

「え……俺一人で行くのはちょっと……」

「どうしてですか?」

「寂しいじゃないか!」


 皆、「そんな理由?」って顔で勇者を見る。その顔にいたたまれなくなった勇者は、気持ち悪い言い訳をする。


「昔は一人で旅をしていたけど、ここ数年は妹と一緒に魔王を倒す旅をしていたから、あの幸せな旅を思い出すと一人には戻りたくない!」


 皆、「気持ち悪っ!」って目で勇者を見る。だが、優しい魔王が助け船を出す。


「わかりました。お兄ちゃんの潜入には、私がついて行きます」

「サシャ……」


 勇者は涙目で魔王を見るが、魔王は苦笑いで返す。そんな中、四天王の三人が反対する。


「んなの危険だ~!」

「俺! 俺が行く!!」

「魔王様に何かがあっては、魔族一同が困ります!」

「私なら大丈夫ですよ。魔族の中でも私が一番人族に近い体なので、バレるような事もないだろうし、もしもの事があれば、お兄ちゃんが助けてくれますよ。ですよね? お兄ちゃん?」

「おう! サシャを抱えて逃げるぐらい簡単だ!!」


 勇者はいい笑顔で応えるが、皆は微妙な顔で見ている。皆の心の声が聞こえて来そうだ。


 そこは戦って守るのでは?


 と……


昨日、一話、更新するのを忘れていました!

なので、今日はお詫びに四話、更新する予定です。

忘れなければ……


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