プロローグ
天使の梯子……厚い雲に覆われた隙間から光が降り注ぐ中、二人の勇者は立ち尽くす。
この日、魔王が倒された事によって、世界が光を取り戻したのだ。
「ついにやったしぃ……」
双子勇者の片割れ、若く美しい女が言葉を漏らす。
「ああ。長かったな」
双子勇者の片割れ、若く素っ裸の男が応える。
「これで世界は救われたしぃ」
「そうだ。これで晴れてサシャと結婚できる!」
「はあ!? 兄妹で結婚できるわけないしぃ!!」
「大丈夫だ。王様に魔王を倒した報酬で、兄妹でも結婚できるようにしてもらった」
「あんのクソじじい! だから兄貴が大人しくついて来てたんだしぃ!!」
「フッ。長かった……」
「なにがだしぃ!!」
「サシャと結ばれる瞬間だよ。さあ、魔王討伐記念のキスをしようじゃないか」
「するか! 一回死ね! いや、ウチが殺してやるしぃ!!」
「相変わらずのツンデレだな~」
「一回もデレたことないしぃぃぃ!」
「ちゅ~~~」
「く、来んなしぃ! 【炎弾】! くそ。止められない……全裸で近付くなしぃぃぃ!」
妹はキスを迫る兄に魔法で攻撃したが、魔王との戦いで消耗した魔力では、兄の強靭な肉体には効かない。
それをチャンスと見た兄は、抱きつこうと飛び掛かるが、妹は後ろに跳んで刀を抜く。その瞬間、妹が元居た場所に魔法陣が現れ、兄と共に消え去った。
「……兄貴?」
妹は突然消えた兄を探す為に、感知魔法を使う。
「この周辺に、兄貴の気配が無い……ウチの感知魔法の範囲から、兄貴がこんなに一瞬で離れる事は出来ないはず……消えた? 兄貴……」
こうして世界を救ったシスコン兄貴は、妹に心配されながら異世界を救う為に旅立ったのであった。
「やったしぃぃぃ! 魔王の次は、兄貴を殺ろう思っていたんだよね~。ラッキー!」
……ど、どうやら、殺したいほど嫌われていたみたいだ。
兄が世界から消えてせいせいした妹は、スキップしながら国に帰ったとさ。