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第5話 『どういう珍奇な体質なわけ?』

 


「流石に無理でしょ!」


「ダメよ。絶対にSクラスに受かりなさい。……そうしないと、同じクラスに通えないじゃない……」


 誰にも聞こえないくらいの声量で、リーズが本音を漏らした。


「え?なんて?」


「なんでもないわ!」


「うーん、受かれって言われてもなぁ…」


 と、神妙な表情で考えるレック。


「なにが無理なの?あんた、冒険者としては結構凄いんでしょ?剣も持ってないみたいだし、魔法が得意なんじゃないの?」



 魔法、リーズが言葉にしたそれは、体内にある魔力を消費して使用するもので、大まかに分けて二つの種類がある。


 まず一つは属性魔法。

 火、水、風、土、雷の五属性が存在し、精霊へと干渉して魔法を使用していると言われている。

 これは人によって得意、不得意がかなり顕著に現れる。

 どの属性もほとんど扱えない人もいれば、五属性使い(ペンタゴン)と呼ばれるような、どの属性も高水準に扱える人もいる。


 もう一つは一般魔法。

 精神魔法や身体強化、治癒魔法や錬金術などであり、魔法陣を必要とするものや、長文詠唱が必要なもの、詠唱の要らないものなど様々であるが、簡単に言うならば、属性魔法以外の魔法、は全てこちらに分類される。


 だが、レックは―――



「いや、俺は魔法は使えないよ」


「は?あんた何言ってんの?なら剣も持たないで、どうやって戦うっていうの?」


「それはだな…」



 魔法が使えない。

 そんなレックの返答に対して、目を細めて訝しむリーズ。

 そんなリーズの質問に、少し考えてからにやりと笑ったレックは、両手の拳を胸の前でかち合わせてから、右手の甲をリーズに向けるようにして、こう言った。



「拳で!」


「……なんだか凄いイラッとしたんだけど、もしかして王都まで走りたいの?」


「ま、まぁとにかく、俺は体術で戦うんだよ。魔法が使えない、って言うのはちょっと違うけどな」



 リーズの表情がさらに険しいものへと変わり、物騒なことを言い出した。

 まずい、と判断したレックは急いで追加の説明をする。



「どういうこと?剣術でも体術でも魔法使いでも、魔法が使えなきゃ身体強化すら出来ないじゃない。そんなんで戦えるとは思えないわ」


「そう、それだよ。俺は身体強化の魔法以外はほとんど使えないんだ。まぁ、その身体強化を極めたおかげでかなり戦えてるんだけど」


「……えぇっと、余計に分からないわ。身体強化しか使えないってどういう珍奇な体質なわけ?得意な属性はなに?」


「分からない」


「あんたねぇ……」


「いや、本当に分からないんだよ!だからその握り締めた拳を降ろして!」


「…どういうことよ、分からないって言うのは。魔力はあるんでしょう?それで使えないなんてもう……頭が痛いわ」


 そう言って額に手を当てて、大きなため息をつくリーズ。


「俺もよく分かってないし、あくまでも予想なんだけど…。おそらく、魔力を体内でしか扱えない感じで、魔力を外に放出できないんだ。だから得意属性も分からないし、魔法はほとんど使えない。でも、ルキアが言うには魔力量的にはかなりのものだって。それで身体強化と体術だけで何とかやってきたんだよね」


「へぇ…。聞いたこともないわね、そんなの。でもそれなら尚更剣士になれば良いんじゃないの?なんで素手なのよ」


「それはまぁ…簡単な話、その方が楽なんだよ。」


「楽?」


「うん、楽。握り締める時に力を加減する必要がないからね。武器を使うとそこに意識を割かなくちゃいけないから。訓練したら良いんだろうけど…別に使わなくて済むならそれでいいかな、って」


「ふーん…」


 と、リーズが少し考える素振りを見せて、


「まぁ、よく分からないけど、要するに、身体強化しか使えないけれど、それだけでも十分強い、ってことね?」


「まぁ、無敵ってわけじゃないけどな」


「そう、ならSクラスなんて楽勝じゃない」


「え?なんで?」



 さも当たり前のように楽勝と言い張るリーズを、何を言っているんだ、と不思議そうな目で見つめる。



「あんた、入学試験の制度知らないの?」


「流石に知ってるわ!

 座学、魔法、模擬試験の三科目の総合得点で、配分は3:4:3だろ?例え座学と模擬試験で満点とったとしても、全体の6割しか取れないんだよ?それじゃあSクラスなんて到底無理だろ?」


「間違ってはないけど、やっぱあんた、バカね。わたしが言ってるのは、特別推薦枠のことよ」


「……特別推薦枠?」


 もう一度、不思議そうに目を瞬かせながら、レックが尋ねる。


「はぁ……やっぱり知らないんじゃない。

 いい?特別推薦枠って言うのは、各科目の最優秀者を、他の科目の成績に関わらずSクラスに入れるって言う制度のことよ。だから、それを使えば魔法が0点になろうが、座学で0点を取ろうが関係ないってこと」


「……要するに、模擬戦闘でトップになれと言うことでございましょうか、リーズ様」


「何よその気持ちわるい態度は…」



 先ほどまでは上位23人に入ればSクラス、と思っていたレックだが、レックの能力的には模擬戦闘でトップを取らなければならないと伝えられ、動揺する。



「でも、ま、要するにそう言うことね。別に普通にSクラスに入るんでもいいけど、魔法で0点叩き出すとなると、まず不可能でしょうからね。

 まぁ、あんたの冒険者の時の話は又聞きだけど聞いてるし、ルキアさんよりも強いって言ってたし、楽勝でしょ?」


「まぁ…そりゃ同年代の相手より劣ってるとは思わないけどさ、模擬戦闘って評価基準が曖昧だし、なんか不安があるっつーか」


「はぁ?ばかなの?そんなの、試験官を動かなくなるまでぼっこぼこにして、再起不能にすれば良いだけの話じゃない」


「そ、そうだな」



 こんな美少女が真顔でこんな暴言を吐くもんなのか、と心の中で愕然としたレックだった。

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