第3話 『あんたサイテーね。』
ツンデレの表現ってなかなか難しいですね…
「じゃあ、先に馬車で待っててくれるかしら?この人を起こしたらすぐに行くわぁ」
これから王都で暮らすのはレックとリーズだけだが、なにやら会議があるということで、アルギリウスと、それに付いていくようにレリーフィートもついでに王都に行くらしい。
「分かったわ。レック、行くわよ」
「起きるんですか?なんなら運ぶの手伝いましょうか?」
どうみてもぐったりと倒れ込んで、直ぐには起きなそうに見えたので、助けになれば、と提案するレック。
だが、
「大丈夫よ、コツがあるから。レックちゃんも知りたい?」
「い、いえ…遠慮しておきます…」
「はぁ…もう行くわよ」
言いながらアルギリウスの尻をパァン、と強めに叩くレリーフィートと、倒れ込んで動かない筈のアルギリウスがビクッと跳ねたのを見て、顔が引き攣るレック。
呆れ顔のリーズが歩き出すのを見て、失礼しました、と一言。
アルギリウスのズボンのベルトをいじっているレリーフィートを後に、リーズと共に部屋を出て玄関へと続く廊下を歩き出す。
…これからこの部屋で何が行われるかは想像もしたくない。
「…なんていうかその、個性的な両親だな」
「はぁ…だから会わせたくないのよ。まぁ、ああ見えても二人ともやるときはちゃんとやる人だし、すごい優秀なのよ。」
「確かにいい人そうだったけど…ちょっとズレてるよな…」
言いながら先ほどの二人を思い出し、苦笑するレック。
「そういえば、小さい頃にあの人たちに会ってたらしいけど、記憶にないんだよね。もしかして俺たちも会ったことあったり?」
「…さぁ。わたしも記憶にないわ。もしかしたら本当に小さい頃会ってたのかもね」
「そっかぁ。あ、あとそのドレス、さっきも言ったけど似合ってるな」
「…っ!と、当然よ。…わたしに似合わないなんて、そんなもの服とは呼べないわ」
褒められたリーズは、すこし紅潮した顔を、並んで歩くレックからぷいっと背けて言った。
そんなリーズを、まじまじと見つめているレックに気がついて、
「な、なによ?」
「いや……うん、確かにお前ならなんでも似合いそうだなって」
「……誰にでもそんなこというわけ?あんたサイテーね。なんか逆に冷静になったわ。……あと、お前じゃなくてリーズよ。そこまで無礼な発言を許した覚えはないわ。」
「いや、そんなことはないけど……あとその点に関しては、悪い、リーズ」
一瞬目を細めて、真顔になるリーズのジト目に見つめられるレック。
リーズはレックの返答に大袈裟に肩を落として、はぁ、と大きなため息をついて、再度呆れる。
その後は他愛ない世間話などをして、少しだけ友好を深めながら玄関から外へ出て、左右にある噴水や花々を眺めながら長いアプローチを歩く。
「あの花はなんて言うんだ?」
「どれ?」
「ほら、あそこの―――」
「な……ッ!」
「噴水の手前にある白い花だよ」
「……」
気に入った花の名前を聞こうとして、説明のために顔を近づけるレック。
突然顔を近づけられたリーズは、ぼっ、とまるで湯気が見えるくらいに、顔を一気に赤らめる。
「なぁ、リーズ」
「……」
「リーズ?―――お、おい!どうした!顔真っ赤だし、なんか目も回ってんぞ!?し、しっかりしろ!」
返事のないリーズに疑念を感じてレックが横を見ると、そこには沸騰寸前のような状態のリーズが立ち竦んでいた。
突然のリーズの状態異常にレックがパニックになる。
と、レリーフィートと、その後ろからアルギリウスがやって来るのを見て、逆じゃね、と思いながら二人に呼びかける。
「あ!お二人とも!」
「あらぁ?レックちゃんどうしたのぉ?」
「どうしたレック!―――ってリーズ!大丈夫かッ!」
「リーズが沸騰しそうなんです!どうすれば!」
「なんだとッ!何があった!」
駆け寄ってきてリーズの肩を揺らすアルギリウス。
その後ろから歩いてやってきたレリーフィートにも、併せて状況を説明する。
説明が終わると、
「なるほどねぇ。分かったわぁ。」
と言ったレリーフィートがリーズに近づき、リーズにしか聞こえないように、
「そんなんじゃレックちゃんに子供扱いされちゃうわよぉ?」
ぼそぼそと呟く。途端―――
「ッ嫌よ!わたしはもう子供じゃないのよ!」
「おぉ!リーズ大丈夫か!?」
「リーズぅ―――ぐはっ」
何事か、レックには何を突然叫び出したのかは理解できないが、元に戻ったことを確認する。
一方、アルギリウスはリーズを抱き締めようとしたのか、リーズに駆け寄るが、レリーフィートに首根っこを掴まれ、敢え無く失敗。
「―――ッ!……あ、あんまり顔を近づけないで欲しいわ…」
「…確かに悪かったけど…そんなに嫌がることないだろ…」
状況を整理したのだろうか、リーズは少し考え込んでからはっとなって、赤らめた顔をレックから背けて小声で言う。
一方レックはというと、そんなリーズの態度を嫌悪と受け取ったようで、少しだけ傷ついたようだ。
「べ、別に嫌というわけじゃないわよ。っていうかむしろ嬉しいし、言ってしまえばもっとして欲しいんだけど、突然顔が近づくと心の準備ができていないというか……」
「え?なんて?」
「なんでもないわよ!」
ごにょごにょと、誰にも聞こえない声量で斜め下を向いたリーズが何事か呟くが、その言葉はレックには届いていない。
自分だけ恥ずかしがっている状況にもどかしさにも似た怒りを感じ、リーズが怒鳴って歩き出すのを見て、一行は馬車へと歩き出した。