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第2話 『か、勘違いしないで。』

 


「初めまして、アクアマリン公爵閣下、並びに公爵夫人。アレキサンドライト伯爵家次男、レックフェルト・フォン・アレキサンドライトです。」



 リーズの両親が待つという客間に案内されたレックは、部屋に入り、ソファの前に立っている二人に、敬意を持って挨拶をする。

 先ほどまでいた客間よりも、一回り大きく、凝った装飾も多いように見受けられる。



「がはははは!レックよ、そんなに畏まらんでも良い!俺のことはアルギリウスで良い!ドルムガンドとは昔ッからの仲でな、お前の話もよく聞いておるし、小さい頃にはなんども会っている!ここは私的な場だ、もッと砕けていいぞ!」


「は、はぁ」



 部屋中に響き渡るほどの大声で話す、筋肉質で大柄な男性、アクアマリン公爵閣下こと、アルギリウス・フォン・アクアマリン。

 服装は普段着のようで、ラフな格好のはずなのだが、その筋肉に押されて、窮屈そうに見える。

 そんな男性の態度に、少々押され気味のレック。



「そうよぉ、レックちゃん。私たち、裸の付き合いなんだから遠慮なんていらないわよぉ。私もレリーフィートでいいわよぉ。さぁさ、座って座って」


「裸の付き合い!?」


「なにを驚いてるレック!俺とも裸の付き合いだぞ?ドルムガンドが不器用だからな、昔は俺たちと風呂に入ッたりしてたもんだ!」


「そ、そうだったんですか…」


 うふふ、と笑うのはそんなアルギリウスの妻であり、公爵夫人である、レリーフィート・フォン・アクアマリン。

 リーズと同じ金色の髪を、腰まで垂らしたその女性は、まさに大人の魅力を詰め込んだ、美女と呼ぶにふさわしい容姿。


 一方のリーズはそんな二人を、こめかみをぴくぴくさせながら、静かに傍観している。



 再度レリーフィートに、座って、と言われたレックは、リーズとともにソファに座る。


「レックちゃん、うちのリーズはどう?」


「…?どう、とは?」


「がはは、そりゃあもちろん、こんやぐぼぉあッ!!!」


「うおっ!」



 レックの質問に応えようとしたアルギリウスの言葉を、横にいたレリーフィートが鳩尾に肘鉄をかまし、遮る。



「かあ…さん……」


「ごめんなさいねぇ、レックちゃん」


「い、いえ…」



 涙目になりながら、訴えの視線をレリーフィートに送るアルギリウスだが、そのままテーブルへと倒れこみ、動かなくなる。

 その表情が少しだけ恍惚そうに見えるのは、気のせいだろうか。気のせいであってほしい。


 一方、冒険者にも珍しいほどに筋骨隆々なアルギリウスを肘鉄一発で黙らせるレリーフィートに、愕然とし、戦慄するレック。


 リーズのこめかみがさらに激しく動き、心なしか怒りマークが見える、そんな気さえする。



「で、リーズの第一印象はどうだったかしら?」


「は、はい、えっと、その…」



 何事も無かったかのように会話を再開するレリーフィートに、倒れたままのアルギリウス。

 こんな訳の分からない状況に加えて、隣に座る女の子の第一印象を聞かれ、素直に『天使と見間違えました』なんて言える度胸もないレックは、しどろもどろに話し始めて、


「ふ、服装がよく似合っていて、綺麗だと思いました」


「あらぁ!良かったわねリーズ!今日のために新調して正解だったわねぇ!」


「……さぁ、なんのことでしょう」



 動転して服装を褒め出すレックに、その言葉にぴくっ、と反応し表情が少し和らぐリーズ。

 さらに、思ったよりもレリーフィートの反応が良い。

 そんなレリーフィートに話を振られたリーズが、顔を真っ赤に染めて目を泳がせている。子供みたいで愛らしい。

 と、リーズがレックの方を向き、目を逸らしたまま、髪の毛をいじりながら、



「…か、勘違いしないで。べ、別にあんたのために領内一の仕立て屋に特注した訳じゃないわよ。」


 と、小さな声だが、さらに墓穴を掘るような発言。


「そんなこと分かってるって。護衛を迎えるだけなのにそんなことしないもんな」


「な…ッ!」


「あらぁ〜。レックちゃんは酷い男の子ねぇ。少しくらい照れてあげないとダメよぉ?」


「え!?俺、なんかした!?」



 純粋にフォローのつもりで、何も考えずにリーズの言葉に同意するレック。

 その言動に対してレリーフィートから注意を受けるも、理由がわからず困惑する。



「も、もういいわよね、お母様。挨拶はこれくらいでいいでしょ?」


「そうねぇ、まぁ、レックちゃんの成長も見れたことだし、リーズの可愛い姿も見れたし、お母さん的には満足よぉ」


「じゃあ、ほら、さっさと行くわよ」


 立ち上がってレックに命令するリーズ。


「え、うん。でもその、アルギリウスさんは大丈夫なんですか?ずっと放置されてて、なんか居た堪れないんですけど…」


「心配してくれるなんて、レックちゃんは優しいのねぇ。でも大丈夫よ、この人。私に殴られるためにわざわざ鍛えてるのよぉ?」


「………あ、はい…」


「…お・か・あ・さ・ま?」


 先ほどのアルギリウスの表情は気のせいではなかったらしい、と若干引き気味のレック。

 客人の前で性癖を晒す男―――レックはアルギリウスにそのような評価を与え、ダメな人認定する。

 そんな主人の性癖を躊躇うことなく暴露するレリーフィートは、引き攣った笑みを浮かべて怒りを露わにするリーズに対して、ごめんなさいね、と一言。



 人は見た目によらないんだなぁ、そんなことを改めて痛感したレックだった。

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