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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【傷付いた小鳥達】
9/112

episode7・消せない罪、変わり行く現実(Ren Side)

廉のお話。


事件から日が経つにつれて、

川嶋家には、貼り紙が貼られる様になった。

人殺し、犯罪者の家、無数の貼り紙が家の扉や敷地内に貼られている。


廉は、その貼り紙を剥がしながら、

廉には『犯罪者の息子』『殺人者の息子』という事を嫌でも実感する様になっていった。


それに、“貼り紙は全て剥がさないといけなかった”




母親がいない現実を

父親は何故だと問いかける様になった。

彼は妻が起こした罪を、忘れてしまったのだろうか。


母親が犯した事実を伝えると父親は、廉に暴力を振るい、

暴言を浴びせる様になった。



父親の暴力は加速していく代わりに、

父親からは何故、母親がいない理由を尋ねられた。

ただでさえ、返答には困る答えなのだが偽りは付けない。


苦しい面持ちで真実を話したら、

父親は逆上し、妻は、母親は、そんな事はしない、

これは偽りでそうではないと暴力を振るい、暴言を浴びせ続ける。



『母さんを侮辱するな!!』


『母さんが人を殺した? そんな嘘を言うな。

優しい母さんがそんな事をする筈ないだろう!!

お前を人を殺人者呼ばわり人間に育てた覚えはない!!』



殴る蹴る。

気を失いそうな程の暴力や暴言に、廉の精神は憔悴仕切っていた。

居場所のない日々。家庭でも学校でも浴びせられる罵声と罵倒。

学校でどれだけいじめられても仕方ない、と思っていた。

けれども父親から振るわれる暴力は、あの優しかった父親を否定する様で中々受け入れるのに、時間がかかった。


しかし。

毎日、父親の暴力や暴言に廉に“ある思い”が芽生えた。


(父さんは、僕の事なんかどうでも良かったんだ………)


この暴力や暴言が、証拠だろう?


成長する中で増えていくのは、傷痕と諦観。

そして与えられる痣の数々。


其処に居るのは、狂気に満ちた男。

妻が犯した罪を忘れ、妻はこんな事をしないと逆上する。

妻を泥酔する愛している男は、居場所なき憔悴している息子に

対しては、暴力を振るい、暴言を浴びせた。




否。信じたくなかったのかもしれない。

其処に居るのは、優しかった父親ではなく狂気に満ちた男。

妻が犯した罪を忘れ、妻はこんな事をしないと逆上する。

事実を見せる息子に対して、暴力を振るい、暴言を浴びせる。

それは、記憶にないからか、認めたくないからか。



(僕が耐えればいいんだ。僕さえ、大人しくしていれば)


優しかった父親から

暴力や暴言を振るわれる毎日に次第に廉は自分自身に

暴力や暴言を振るっているのは父親ではないと思い込む様になった。





助けて、と叫びたくなった。

けれど。廉は諦めた。何故ならば、


(________犯罪者の息子、だ)



そう付けられた肩書きを、思い出した。

母親が犯した罪は消えない。消える事はない。


(殺人者の息子が、救われて良い筈がない)


廉の中で生まれたのは、そんな思いだった。

当たり前だ。母親は許されない罪を犯したのだから、

殺人者である自分が誰かに助けを求めて良い筈がないだろう。


(………一層の事、死んだ方が良いのかも良いかも知れない)



死んでしまえば良いと思った。

自分自身は穢れた子、母親は、許されない罪を犯した。

父親は母親が犯した罪を受け入れられずに、荒れ狂い狂気に狂い満ちている。



死んだら無になれるのだから、こんな現実に居たくはない。



だが_____。



(罪人の子供、お前に死ぬ権利はない)


心の奥底に眠っていた言葉。

その言葉にはっとしながらも、廉は虚しく感情を抱きながら

悟り

また諦観の境地の中で再び、絶望の崖から落とされた。


(楽になる事は、許されないのだ)



死したら、無になれる。

父親の暴力や暴言に耐え続ける中でそんな事を思っていた。

だから何処かで楽にはなれないだろうか____と思っていた思考が覆えされた。


生き地獄だとしても、

死して楽になる事は自分自身にとって許されないのだ。

自分自身には許されない。


父親の暴力や暴言に耐え

『犯罪者の息子』として生きる事が、せめてでもの償いなのだ。

次第に廉は父親に暴力と暴言を振るわれながら、そう思い込む様になった。



廉には転機が訪れたのは、事件から数ヶ月が経った事だった。


従妹である和歌の家に遊びに行った時だった。

同い年である従兄妹の和歌とはまるで兄妹同然の様に育ち

更には町内会に住んでおり、小学校も一緒だった。



当然、和歌は廉の母親が犯した過ちを知っている。

和歌は廉を心配していたのだが、廉はわざと和歌を遠ざけた。



いじめられている事も隠そうとした。

自分自身がいじめられている事を知ったら、和歌ならば庇うだろう。


だがいじめには連鎖というものがあって、その連鎖は消えない。

和歌が庇ってしまえば、今度は和歌にいじめの魔の手が及ぶだろう。


気付かれていない事実である

きっと自分自身と彼女が従兄妹という事もバレてしまうに違いない。



これ以上、犠牲者を、被害者を増やしたくはない。


それに自分自身もまた、

母親と同じ過ちを繰り返してしまいそうで怖かった。



ちょうどその日は、

いつもは仕事で家を空けている和歌の母親が家にいた。

そんな中、和歌の母親に尋ねられた。



_______理由は、廉の手足にある痣が見えたからだ。



「廉君、これ、どうしたの?」



毎日、父親から暴力を受けていた末に出来た痣。

広範囲に廉の白い肌には赤紫色の痣が浮かび上がっている。

長袖で隠していたけれど、見えてしまったようだ。


「……………………」


伯母の痣を見詰める視線に、廉は上手く唇が動かせない。

父親のせいではない、とそう言わないと家庭内の秘密がバレてしまう。


けれど和歌とも、和歌の母親とも長い付き合いだ。

少年は親しい人に嘘を付くのは苦手で、何より彼女の気遣いに身に染みた。

何故ならば犯罪者の息子となってから


“もう自身を心配してくれる人間”は居なくなったのだから。


廉の瞳にはいつしか、無意識の内に涙が浮かんでいた。


「…………どうしたの?

廉君が話したくないなら、伯母さんは聞かないわ。

けれど何かあった?」



和歌の母親は_______優しく話しかける。



最初は我慢し涙を堪えていたが、優しい声音に負けた。

廉は少しずつ今までに起きている事を話し始めた。


父親が変わってしまったこと。

母親の逮捕された事は忘れてしまって、事実を話せば人格が変わり始めたこと。

そして、この痣は父親の暴力によって出来た痣だと。


和歌の母親は驚きと同時に、悟った。実は密かに怪しんでいた。

真夏だというのに最近の廉は長袖を着て、

髪や服装等の身なりもボロボロだったからだ。


同時に廉の父親____自身の兄が

犯してしまった仕打ちを、初めて知ってしまったのだ。



「そう。辛かったね。話してくれてありがとう」


「もういいよ。伯母さんが、出来る限りの事はやるから、ね?

だから安心して欲しいな」



和歌の母親と、廉の父親は兄妹だった。

実兄が息子にした仕打ちは許されないものになっている。

実妹、伯母として見て見ぬふりは出来ない。


和歌の母親によって廉の父親は病院に行き、

医師から統合失調症と診断された彼は入院する事になった。

精神衰弱と共に、廉の父親は現実は受られず、母親が優しかった頃に時を止めてしまったのだと、医師は告げた。



「廉の事は心配しないで下さい。私が育てます。

寧ろ、貴方が自ら廉君の父親だと名乗る権利は、今の兄さんにはないわ」




廉にした仕打ちが許せなかった。

けれど児童相談所に通報しなかったのは理由がある。

それは、廉の一言からだった。



「伯母さん。お願い、お父さんを悪い人にしないで………」



泣きながら、廉の発した言葉。



解っている。

廉の父親が廉に対して行ったのは、立派な虐待行為だと。



しかし

母親が犯罪者の立場の上、父親さえも犯罪者となると

廉の肩身は更に狭くなり、生きづらくなってしまうだろう。

和歌の母親は、廉の意思を尊重した。

そして、



「廉君さえ良かったら、和歌と伯母さんと暮らそうか。

………良いわよね、和歌?」


後ろにいた和歌は納得した様子で、静かに頷いた。



廉は

あの家では、居づらくなってしまうだろう。

それも見込んで和歌の母親は、廉の後見人となり彼を引き取った。


【補足】

廉の父親と、和歌の母親が兄妹ですが

疑問に思った方へ補足です。


廉の父親は、

婿養子という形で結婚しています。

元は水瀬姓です。


【登場人物のお話について】

基本は、美岬→和歌→廉、というルーティングで

お話は展開していく予定です。



基本は二話構成で書いていますが

登場人物のお話によっては、話の数が

2話から3話になると思います。


よろしくお願い致します。


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