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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【小鳥の平穏】
78/112

episode76・贖罪と自責の狭間 (Waka. mother side)

【警告】

前編に流血、刃物、描写あり。

苦手な方はブラウザバックを推奨致します。

此処からは自己責任での閲覧下さい。






【手術中】という赤ランプを、呆然と見詰めている。



(廉の苦しめたのは、誰か)



彼女は、そう考えていた。







_____数時間。



自身の部屋で、語学を学んでいた和歌の元に

廉からメッセージがきた。


今度、引っ越し作業を担当する家族が外国の方で

間違いない正しい語学を教えて欲しいとの事であった。

成績優秀者だった廉は、そつなくこなすのではないか

と思ったたが、ご無礼があっては示しが付かないから、

と年を押しされ、日本語の例文が廉が送り、

英単語のスペルを和歌が送るやり取りを繰り返し送って

そう(しばら)く、メッセージアプリで会話を交わしていた。


しかし、和歌には複雑が交錯している思いだった。


あれから

廉とは会っていないだが、従兄は大丈夫だろうか。

実母が突然にして現れ再会し、実母の黒い陰謀を知り彼はまた苦悩する筈だ。

何と言っても彼の人生の軸を破壊したのは、実母なのだから。



廉が贖罪と自責の念に駈られて、自分自身を傷付けている事、

これは従妹である和歌しか知らない。

杏子に告げてしまえば、ただ事では済まされないからだ。


廉は前に言っていた。

自分自身を傷付けないと、正気が保てないのだと。

廉は自分自身を傷付けている事で、心の安定を保っている。


心の傷痕を負う和歌にも、納得出来る節があった。

9年間、自分自身を保てず呆然としていた頃、

自身は脱け殻の様だった絶えぬ苦しみ、


自害してしまえば終わる事か、と

苦悩する日々の中で考えていた。

実際にハサミを自身に向けた事もある。

けれど和歌の場合は、もしも自害が失敗に終わり、

目覚めた瞬間に、苦悩の(つた)に思い出す事が怖かったのだ。



メッセージの交換は、一定的に来ていたが

ある時を境に誤字脱字が窺える様になってしまった。

文面に対して几帳面な廉は有り得ない事、と和歌は思い疑う。

(やが)て、メッセージは途絶えた。


(…………まさか、)



和歌の中で胸騒ぎが渦を巻く。

鼓動はどんどん早くなり、悪い予感がして成らなくなった。

和歌は夜逃げ同然に飛び足す様に家を出ると、

従兄のアパートに向かった。




そこからの記憶は、朧気だ。





キッチンは、血の海と化していた。

赤黒い血が、血だまりとなり、

その白肌にも赤黒い血が付着していた。



割りと冷静に、

スローモーションの様にゆっくりと流れていく。

物理的に自分自身を傷付け続けてしまったのだ。

薄々、理解し始めた脳内。



キッチン横の、

床に項垂れる様に倒れている従兄を見付けると、

茫然自失としながら近付いて、項垂れる様に座ると廉に静かに手を伸ばす。

継ぎ接ぎだらけの服は血に染まっている。


長い睫毛は伏せられたままだが、

何処か心理的に苦悩している様な表情をわ浮かべている様にも見えた。


一般的に全血液量に対して、

1/2以上失血すると生命が危ういと聞いた事がある。

冷静に和歌は部屋の血の海に目を当てた後に、

脈が触れてみたが、殆ど感じる事が出来なかった。

和歌の中でサイレンが鳴る。


(……………廉が、危ない)






杏子は舞子を引き連れて、

駅を降りると直ぐ様にタクシーに雪崩れ込んだ。

大学病院まで、という杏子に、訳も解らず、

舞子はキョロキョロと挙動不審に目を游がせている。



杏子は窓際に持たれかかり、瞳を閉じる、

廉は追い詰められていた。天涯孤独同然の身となり

幼い頃から罪の意識は感じては、心を痛めてきたに違いない。


和歌の誘拐、療養も重なり、

廉と目をかけて遣れなかった事に悔やんでも悔やみ切れない。

実母には裏切られ、父親には忘れられ、孤独に苛まれて生きてきた筈だ。

彼としては、極限までに達してしまった結果だろう。



(伯母として、後見人として失格だ)


無意識に目頭が熱くなる。


川嶋廉の身内、と告げると、

看護師は心当たりがあったのか、緊迫した表情で

此方です、と冷静に杏子と舞子を手招きする様に案内した。


手術中の前では、

華奢な彼女が、呆然と佇んでいた。


「和歌」

「…………お母さん」


和歌は生気を失った様な眼差しで、此方へ向いた。

しかし和歌は、母親の後を付いてくる舞子に腹を据える。

杏子は和歌の肩に置き、(やが)て背中を優しく撫でていたが

和歌は焦点が合わず俯いているばかり。



「大丈夫よ……」

「大丈夫なんて、誰が言えるの!!」


母娘に、今まで黙っていた舞子は言った。

和歌は自然と目線を上げて、杏子が舞子に

視線を向けた途端に頬に熱さと痛みが走る。



「な…………」

「貴女が廉を引き取ったんでしょ?

なんで、こんな事になっているのよ!?

廉を引き取ったのは単なる世間体の為の偽善だったの?」

「違うわ」

「じゃあ、こんな事にはなっていない筈よ!!」


熱の込もった声音。

舞子の意図は何か、和歌は悟ってしまった。

その狂気に狂った瞳は我が子を心配する眼差しではない。

自己の欲望に溺れた人間の双眸(ひとみ)


その形相は、あの財閥の若妻と一緒だと思った。



(この人にとって、廉は………)


我が子を道具としか思っていないのなら

その道具の痛みも葛藤も知らない。知るつもりもないのだろう。


(…………冷酷非道ね)



その刹那、杏子の携帯端末に、着信が鳴る。

会社からだった。邪魔しないで、今、身内が大変な時に、と

思いながら受け取ると急用で会社に出向かなくては成らなくなった。


杏子は後ろめたい眼差しで、携帯端末を持った手を落とす。

その会話の口振りから会社関係の話だと察した和歌は


「行って」

「………でも」

「大丈夫。全ては私が起こした事よ。その責任は取るわ」

「…………じゃあ。ごめんなさいね」


忍び無さそうに杏子は、席を外した。

その杏子の後ろ姿を見て舞子は鼻でせせら笑う。


(これで、廉は私が取り戻せる)


「…………無責任な人ね」

「それは、此方の台詞です」


その落ち着いた声音が、火に油を注いだ。



舞子は和歌に視線を向けると、

和歌は何処かで軽蔑した様な眼差しを宿したまま、無表情だ。

しかしふっと微笑する。


「廉は、どうなっているの?」

「………それは、その目で見てください。“それが答え“です」

「_______え…………?」




ご不快に思われた方、

ご気分を悪くされた方、申し訳ございませんでした。


2020.5.20追記


謝罪文が誤字でありました。

謝罪をする立場にあるにも関わらず、

誤字を間違えて掲載する、という無礼なミステイクを犯し

申し訳ございませんでした。気を引き締め、注意を払って参りたいと思います。


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