表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【小鳥の秘密】
60/112

episode58・葬った記憶の欠片 (Waka side)

【警告】

かなり残酷なシーンが有り。

苦手な方はブラウザバックを推奨致します。


2020.2.1


sideを付け忘れてしまい申し訳ございません。

和歌の視点ですので、和歌のみのSide表記にさせて頂きます。






ガタガタ、と震える車体。

けれどもこの暗闇の中では何も見えない。





闇夜の光り。

不意に見上げた空は、深い濃紺の夜空に、淡い月が欠けていた。

まだ朧気な思考回路の中で、不意に自分自身を見た。


手首には、銀に光る手錠。

足首には同じ銀に光る足枷。

自分自身は壁を背に此処で眠っていたらしい。


和歌は、周りを見詰めた。


テーブルに色褪せた白いテーブルクロス。

その脇には脚が壊れかけた木製の椅子があちこちに、転がっている。

その間には、割れた硝子の破片が飛び散っていた。


廃墟の小屋。

けれども、此処は知らない場所。

自分自身に見覚えのない場所に、何故、居るのだろう。


記憶を手繰り寄せようとした瞬間、

和歌の脳裏に稲妻が(ほとばし)った。


あの青年に声を掛けられ、車に乗せられたか。

自分自身が拐われたのだと理解されたと理解し

飲み込むまで、知能犯な和歌にそんな時間はかからない。


その刹那的に、感じるのは。


(_______怖い………。此処はどこ……?)


恐怖感とまだ新春の寒さが、和歌を震わせる。

自分自身以外に誰もいない。暗闇に近い、

月明かりしか差さない壊れかけた部屋で。

和歌は、泣きたくなった。


そんな恐怖感に蝕まれ、苛まれている時、

木製の壊れかけた扉がぎし、と軋みながら開いた。

和歌は、伏せていた視線を恐る恐る上げる。



「………やっと、手に入れた」



低い声。

それは、恍惚の交わった声音。




和歌は、固まった。


目の前に居るのは、

自分自身を騙して拐ったあの青年。

その表情は声音と同じく恍惚に満ちて自尊心と、自信に満ち溢れている。


黒いタートルネックに、黒いパンツを履いている。

顔立ちは品のある青年だが、身なりもきっちりとしているのに何故か髪はボサボサだ。


でも子供ながらに感じ取ったのは、

その得体の計り知れない威圧感。

その容姿と、口角が上がった独特な微笑は、

少女の純粋無垢な心に恐怖心を植え付ける事等、

容易く簡単なだった。


和歌は、少しばかり後退りする。

けれども、逃げ出す事が出来ない事に絶望に落とされた。

彼は和歌に近付くと少し屈んで、口を開く。


「……………君は母親似の様だね。

でもやはり、何処かお兄様に似ている。血は争えない」


(…………お兄様……?)


和歌は、彼が呟いている言葉が分からない。

どういう意味だ? そしてどうして自分自身は、此処にいる?



「君、名前は?」


「……………」



優しさを含みながらも、威圧感のある声。

和歌は怯えた表情で固まっている。

何も言わない和歌に対し、


「自分自身の名前くらいは、言えるだろうがぁ!!」


「………っ」


突然、何かの霊に取り憑かれた様だった。

青年の怒号と共に投げられた硝子が、酷い音を立て

粉々に割れ、破片が飛び散る。


そして青年は、(ふところ)から

果物ナイフを出し、躊躇いもなく刃先を少女へ向けた。


その刹那、少女の心に恐怖心が増殖する。


「………み、わ、か」


「あ?」


恐怖心と震えから、上手く言葉すら紡げない。


「………水瀬、和歌………です」


震えた声。

名前を告げると威圧感のある表情が、不気味に和らいだ。

その恐怖心と共に、和歌は青年が浮かべる不気味な笑みが怖い。

しかし。


「そうか。“和歌”ちゃんか」

「………………」


青年は先程の態度を180℃変えた。


「和歌ちゃん、

和歌ちゃんは生まれてから、

悪い人に連れ去れたままだったんだよ」


「………え?」


和歌は、呆然とする。

何を言っているのだろう、この青年は。

その瞬間、がっしりと青年は少女の華奢な肩を掴んだ。


和歌の純粋無垢な心に宿るのは、恐怖心。

わなわなと心身が痙攣するかのようにか細く震え、叫びを上げている。

助けて、も言えないまま。



「和歌ちゃんは、

本当はね。“チトセ”というお城のお姫様なんだよ」

「………チト、セ……?」

「そうだ。お姫様がお城から出ていたら危ないだろう?

だからおじさんが迎えに来たんだよ」

「………………」

「和歌ちゃんは、これから“チトセ”のお城に帰るんだ。

おじさんが連れて行ってあげよう。


皆は、和歌ちゃんの事を知らないからね。

本来のお城に帰るんだよ。

そうすれば、君のお父様に会える」


「………お父様………?」

「そうだ!!」


ひっそりと、和歌が呟くと、

青年____千歳総司は、盛大に声を上げた。



「特に

お父様は君の存在を知らないからお喜びになる。


さあ、おじさんと“チトセ”へ帰ってから

お兄様……君のお父様に自分自身の存在を伝えようね」


さあ、帰ろう。


差し伸べられた手。

恐怖心に洗脳されつつある和歌は思った。

この青年に、素直に従うべきか。


否。

本当は、言葉巧みに操られているだけではないか。

自分自身はお姫様ではない。それにこの恐怖心を

植え付ける男に易々とこの心を渡すものか。

恐怖心で、失いかけていた理性を取り戻した。


「…………お父様には、会いません」

「ん?」



「…………私、は、お姫様ではなくてもいい。

私には母がいます。母が心配しているので、お家に帰らせて、下さい……」


震えたか細い声で、和歌は呟いた。

和歌が震えを押し殺してそう呟いた刹那、

それまで恍惚と喜びに満ちていた青年の顔、表情が歪み出す。


「……何だって?」


その刹那。

物凄い怪力で、肩を掴まれた。

恐怖心に震える少女は、反射的に開いた瞳に愕然として絶句した。

眉間には縦皺が寄り、目はギラギラと据わり光っている。

それはまるで獲物を狙うかの様な鬼の様な人相。


「君は、お姫様なんだ!!お姫様は、お城で暮らすべきだ!!

なのに何故、それを蹴るんだ。お父様に会いたくないのか……!?」


強く肩を揺さぶられ、和歌は目を閉じた。


「君は、千歳賢一の娘。千歳家の人間なんだぞ!?

お兄様の娘が、千歳家の血筋を持った人間が、民に紛れてはいけない_______」


血走った瞳。人間の皮を被った悪魔。


けれども、和歌は心の何処かで悟っていた。

“チトセ” “お兄様”という人が、自分自身の父親なのだと。

しかし今は恐怖心に苛まれて、

そんな事を考えている思考と余裕は奪われた。



「……………………やめて!!」


「認めろ!!」


少女のか細い呟きは、青年にかき消される。

(ようや)く揺さぶられから解放されたが、拍子に突き飛ばされ床に投げ捨てられる。


しかし余程の怪力だったのだろう。

肩に痛みが走た。


しかし、その痛みすら気にしている暇はなかった。

和歌は目を見開いた。


ぎらぎらと、銀に光る刃先。

それを胸元辺りに突き付けられそうになり、悪寒が走る。

植え付けた言葉には出来ない恐怖心が心身を蝕んでいく。



「っ………」





「己の父親は、千歳賢一。そしてお前は、千歳家の人間だ。

それは間違いはない。そして民に紛れる事なく

千歳の血筋を持っている以上、千歳家のお城に行くくんだ」


「………嫌」


「なんだと!!」


その瞬間、ぎらりと光った銀の刃先が、見えた。



ぐさり、と音を立てて、刺さる。





「……………………」



「………………………」





自由が奪われた身で、

和歌はひっそりと身体を屈めて震えている。

娘に向けられた矛先は、彼女が反射的に床に

転がった事で、和歌は無事だった。



いに知れぬ恐怖心。

助けはない。そう悟った刹那に

絶望した瞳は光りを失う。その瞳から溢れた雫。

それは頬を伝い、床に落ちた。


それは、少女の純粋無垢な心が、壊された結晶。




「ちっ、この娘、母親に洗脳されてやがる」


「この千歳家に従わない恥知らずめ」


青年は、舌打ちすると、

テーブルに置いていたハンカチに麻酔薬の液体を大量にかける。

そしてそれを、少女の口許に押さえ付けた。


その刹那。

遠退いていく意識。

失ったのは純粋無垢な心。

代わりに絶望の音を落としながら、和歌は気を失った。





お久し振りです。

大変、更新が遅れてしまいました事、

お詫び申し上げます。



ようやく和歌の核心のお話が書けて良かったです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ