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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【鳥籠の罪】
59/112

episode57・少女を拐った理由 (Misaki.uncle Side)

総司の話。賢一も登場致します。

今回、伯父というsideにさせ下さい。




“水瀬杏子は生きている。彼女には、一人娘がいる”



それを総司が知ったのは、

兄が政略結婚し、娘が生まれた頃だった。


水瀬杏子は、身体が弱く病により亡くなっている筈だ。

けれどもそれは嘘で、決別時には子供を身籠っていた。

賢一は全く知らず、唯一の肉親である兄だけがその秘密を知っており

水瀬杏子は密かに、初恋相手だった千歳賢一の娘を産んだという。


その子は、美岬より年上で賢一と別れた時期が妙に一致している。

それを不審に思い、総司は密かに水面下で見張っていた。

それは公務員として勤めながら、探偵としても働いていた総司には、誰かを見張り素性を調べる事は簡単だったからだ。




事実は、時計を逆戻りにさせた様に違った。

亡くなったと思っていた水瀬杏子は生きており、

彼女に似ていた娘もこの目で確認したのだ。


娘の名前は『ワカ』と言っていた。

清楚さと大人しさの雰囲気を兼ね備えながら、母親に似ていたが

長年にして一緒に育ってきた総司には、

賢一を連想させる仕草や顔立ちも感じ取り確信した。


(あの子は、間違いなく、お兄様の娘だ)



誰にも事実を隠し、

初恋相手だった男性の娘を、女手一人で、娘を育てている。


誰も口を割らないその限り、

水瀬和歌が、本当は、千歳家の血を引く人間であり、

千歳賢一という事実は闇に葬られたままになる。


それでいいのか。

異母とは言え、美岬の姉。兄の娘。千歳家の娘。


この娘の存在を千歳家が知らないまま、

たった一人の女の思惑で葬られてしまうのは、エゴイストな気がする。


千歳家の血筋は偉大だ。政治家や、官僚が存在する旧家でもある。

されど千歳家の血を引く人間が存在するのだから、千歳家の人間が知らないままだなんて、千歳家の人間は腑に落ちないだろう。

それは、最も水瀬和歌の父親である兄が報われない。


水瀬和歌、兄のもう一人の娘が

この世に存在していると知ってからの総司の感情は

複雑化していく。



そして、迷った末に。




(父親である以上、お兄様にはこの娘の存在を知る権利がある。

それにこの娘は千歳家の娘だ。千歳家にいるべきではないのか)


そう思う様になった。

何より兄は初恋相手を最も愛し大切にしていた。

まだ野心に駈られる前の、きっと結ばれない純粋な恋だったとしても、あの頃の兄は生き生きとしていたのだから。



初恋相手が亡くなったと知らされてから、

憔悴仕切り、落ち込みただ脱け殻の千歳家の家柄のレールを歩んでいる兄が不憫で成らなかった。



(お兄様だけに、あの子の存在を知らせよう。

後はお兄様次第であの子の行く末を決めればいいだろう)


きっと驚くだろう。

初恋相手は生きていて、娘も居るとなれば。

けれども名の通り、賢い兄の事だから、喜んでくれるであろう。


そして千歳家の人間としての人権を

娘の行く末を考え定めてくれる筈だ。


娘である水瀬和歌の存在を、

父親である千歳賢一には知る権利がある。

そう思った総司は、早々と計画を練り、

水瀬和歌を兄の元に連れていく計画を進めた。


そして、兄のもう一人の娘である少女を連れ去ってしまった。


最も、徐々に親しくなり千歳家に招く、

という方法もあったのだが、この頃の総司は

杏子に憎しみめいた感情を抱いていたのだ。


(あの女め。

勝手に、誇り高い偉大な千歳家の宝を、隠しているとは)


解っている。

政略結婚が当たり前で、自由恋愛等、認められない。

けれども千歳の血を引く娘を秘密裏に子供を産んでおいて、世の中に紛れさせ普通の子として

育てている等、言語道断だ。



手下を雇い、慎重に計画を練り、娘を拐うくらい

簡単だった。けれども、それは、総司の独り善がりで水瀬和歌を兄に出会わせる事もなく

失敗に終わってしまった。


『千歳家の名に、泥を塗った者等だ。要らぬ。

お前とは今日を持って絶縁とする』


あの怒りに狂った父親の鬼の形相と声音は、今でも忘れられない。

結果、千歳家からは追放。総司は兄から軽蔑され

警察には未成年誘拐、略取等罪、強姦未遂という罪名が化され、

17年の刑期に服す事になった。




______千歳家、客室間。



客間には何度も言えない不穏な空気と、重い沈黙が佇んでいる。

弟から突き付けられた現実に、賢一は驚きを隠せなかった。



「………嘘だろう?」

「お兄様、驚くのは分かります。でも全て事実なんです。



僕が逮捕された理由は、この子が要因でした」



冷静沈着に告げる総司に、賢一は眉を潜める。


「何かが可笑しいと思っていました。

美岬ちゃんが生まれてから、水瀬杏子さんが生きていると知ってこの子の存在を知りました。

顔は杏子さんに似ているけれど、時折、見せる仕草や顔立ちはお兄様に似ていますよ。


千歳家の人間が、世の中に埋もれ、普通の子として

育っている。千歳家は偉大な旧家です。

そんな血を引く人間が、千歳家の外の居ていい筈がない。



そして、なりよりもこの娘は、お兄様の血を分けた娘です。

美岬ちゃんにとっては、母親は違えど姉になるでしょう。

9年前のあの日、

僕は純粋に、兄さんにこの娘の存在を伝える為に

拐いました。


父親なのに、母親の身勝手な理由で、

このまま闇に葬られてお兄様が娘の存在を

知らないのは、(むご)すぎます」


賢一は拳を握り絞めながら、わなわなと震わす。


「だったら何故、今まで言わなかった」

(おおやけ)には出来ない事ですからね。

仮出所出来る、この日を待っていました。


ですが。

僕はあの日、この娘を拐ったのはお兄様に会わせる為。

この娘の父親であるお兄様それだけは本当です。

それだけは信じて下さい」



では、お元気で。



と言い残すと、総司は去って行った。



【補足】

和歌の誘拐に、

警察が関与しているという面ですが、

現時点では矛盾に思われる方も思われる方も居られると思います。


この場面は、これから表明していきますので

今は謎に包ませて下さい。


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