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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【鳥籠の罪】
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episode54・募る母娘の憎悪(Misaki. mother side)





______大学キャンパス、講義教室。





『今は勉強と将来についてだけを考えておきたいの。

だから私、恋愛とか眼中にないから………』


そもそも男性に嫌悪感を抱いている和歌にとって

恋愛等眼中になく、異性は恐ろしいもの、と認識している。

だから、誰かを好きになるなんて“水瀬和歌の人生”には毛頭ない。



間違いない。

昨日、和歌の傍に居たのはモデルの様な、

優しい雰囲気漂う青年だった。


和歌が自我を出すのは珍しい。

なのに青年といる彼女は、微笑んでいた。

美岬でさえも和歌の笑顔を見たのは、初めてだったのだから。


無表情である事が多い和歌を微笑ませた青年、

加えてあの雰囲気はただ者ではない。

恐らく二人は恋人同士なのだろうと、女の勘が働いていた。


そんな和歌を見て美岬に芽生えた感情は、嫉妬。

千歳家の長子である事も知らずに傷一つ負わず自由を生きている。

………本来ならば、和歌が果たす筈の役目なのに。


それは、自分自身に強いられている。

女性の嫉妬心、千歳家の嫉妬心。様々などす黒い嫉妬の感情が混ざっている。








(………嘘つき)


清純を気取っている裏で、

恋愛もして、男性もしっかりいるじゃないか。

何もかも傷のない羽の様な清純さで誤魔化しているだけか。


だが、和歌は

おっとりとして凛とした顔立ちと雰囲気を持っている美人だ。

男子から密かに人気がある事を美岬は知っている。

男子が放っておく筈もなく、告白だってされているのに、

この女は何事もなく片付けてしまうのだろう。


(彼氏がいる、って素直に言えば良いのに)


(其処まで自分自身は清純派で居たいの?)


「でも彼氏が居て、

自分自身の存在を否定されていたと知ったら彼氏の方は悲しいと思うなあ」

「……………そうなんだね」


まるで和歌は他人事の様だった。

その羽の様な余裕感のある優雅な雰囲気も、

美岬を苛立たせる材料として十分だった。





『水瀬和歌は、普段通りに登校しています』

「そうなの。貴女の存在や素性には気付いていないわよね?」

『はい奥様。厳重に、慎重に行動しておりますので

気付かれていません』

「では絶対に、“あの件”は厳重に頼むわね」


そう言うと、喜子は通話を終えた。

喜子はほくそ微笑みを浮かべながら、王妃の様な気分で


(何も知らない無垢な子。

そんな水瀬和歌を、ズタズタに傷付けたい____直接的に)


喜子の和歌への憎悪は、止まらない。

千歳家の血を引きながらも、千歳家とは関係を持たない娘。

けれども賢一の裏切りを知った今、賢一の心に

居座っている女の娘に矛先を向けるしかないのだ。


教員免許を持っている女性使用人を用意して

彼女をスパイとして大学に潜入させた。

意図は日常の水瀬和歌の報告と、

喜子の最大の目標である“ある事”を達成して貰う為に。


放課後。

大学の講義が終わると、

担当教師に課題を渡し、和歌は帰ろうとした。

しかし。


「水瀬さん、

今日の英語の課題発表は素晴らしいものでした」

「そんな、」


帰り際、英語教師は和歌を誉めちぎった。

しかし、和歌は礼儀正しく冷静にあしらい、

自分自身を謙遜して見せた。


「水瀬さん、留学等には興味はない?」

「留学、ですか?」

「ええ、貴女の才能を此所で終わらせるなんて、勿体無いわ」

「…………あの。幼い頃、母の仕事の都合で海外で

生活していました。日本へ帰国したのは数年前です。

なので、まだ生まれ育った日本に居たいんです」


(また、土足で人の踏み込もうとしてる)


それを察した和歌は、潔く両手を上げた。

綺麗事の過去を話しておいて、話を反せなくては。

自分自身の素性や感情に踏み込まれるのは、

もう()()りだから。



「あらそうなの。英語がかなり流暢だったのは、

海外暮らしの影響もあるのかしらね?」

「そう、でしょうか」


なんだか先程から、眩暈(めまい)と眠気を覚える。

何時もはこんな事はない。オーバードースなんて

せずに、医師に言われた薬を決まった錠数で服用しているのに。


だが、最近の和歌は寝不足だ。




(…………眠たい)


今日は確か、アルバイトが無い日だ。

廉にも迷惑はかけずに済む。帰宅したら仮眠を取ろう。



額を押さえる素振りを見せる和歌に、教師であり

喜子のスパイは喜んだ。………計画は上手く行きつつあるのだと。


和歌が教壇に訪れる前に、

加湿器を睡眠導入剤入りのものにすり変えた。

睡眠導入剤は最近、新開発された新薬で、水瀬和歌が服用している睡眠導入剤よりグレードはかなり上だ。

加湿器の彼女の後ろ、ドア側。案の定、睡眠導入剤の薬の空気が蔓延している。


「水瀬さん、大丈夫?」

「………はい。大丈夫です。さようなら」


そう言った後の記憶は、和歌には存在しない。





小型の軽い自動車に乗り込んだ、喜子のスパイは

運転席に座っている。後頭座席を伺える鏡には、

和歌がぐったりと横たわっていた。


「奥様」

『なにかしら』

「水瀬和歌を手に入れる事が出来ました」



そう告げると、

喜子は驚きと共に心では歓声の声が響いた。


『よくやったわ』

「はい。今から千歳邸に向かいます。暫しお待ちを」

『ええ、分かったわ』


通話を切ると、喜子は深い微笑を浮かべた。


(水瀬杏子。あんたの“大切なもの”を奪ってやるわ。

娘を返しては上げる。ズタズタにして、ね………)


(水瀬和歌、見てなさい。苦しむのが貴女の役目よ。

貴女の心をズタズタにして上げるから………)


和歌は、賢一が裏切りを働いた証拠。

燃え(たぎ)るとある母娘への憎悪を

膨らませながら二人をズタズタすると思えば、

喜子には、言葉には出来ない快感を得ていた。




【注意】


物語の構成上、「加湿器に睡眠導入剤を入れた」と

なりましたが、本来はお止め下さい。


また作者の手段を

選ばない描写により、日々、読者の皆様に

誤解を与えてしまっている事をお詫び申し上げます。

申し訳ございません。


物語の構成上、ご理解頂けると幸いです。


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