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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【傷付いた小鳥達】
5/112

episode3・息を潜めて(Waka Side)

和歌のお話。



タイトルを変更させて頂きました。

勝手に申し訳ありません。




今でも不意に、脳裏に霞む記憶。



アルバイトからの帰り道。

今の和歌は紺色キャスケット帽子を深く被り、

服装は黒いライダージャケットに黒いジーンズという装いだった。

______和歌が今、身に付けている服は全て男物だ。



長い黒髪は横髪を垂らしている意外、

綺麗に全てキャスケットの中に入れられている。

全ての装備を整えれば今の和歌は、端正な顔立ちをした小柄な青年にしか見えない。


今の和歌の姿は確実に日中、

大学生として、大学キャンパスに通っていた、

和歌の装いである刺繍があしらわれた襟のブラウスに

灰色のジャンパースカートを着ていた和歌の姿とは明らかに違う。


しかし和歌にとって、今は、“こうしなくてはいけないのだ”。



(………大丈夫、)


胸に手を置いて

そう自分自身に稔侍(ねんじ)をかけた。


携帯端末の時計が指す、時刻は0時前。

だいたいアルバイトを終えてから決まって外に出るのはこの時刻だ。


外に出ると

淡い風は更に強まり淡く頬を撫でて、風は通り抜け消えていく。

外は先程、休憩がてらに外に出た時よりも肌寒くなり、

空色は更に濃紺色に深まり、周りの視界も暗闇に近い。


眩しい程の鮮やかなネオンの光り。

繁華街に歩くのは仕事帰りのサラリーマンやOL、

カップルらしき男女が仲良さそうに肩を並べて歩いている。

それをちらりと見てから、再び視線を俯かせた。


目を背け、男装し、姿を変えて存在感を消している姿は

まるで何かに追われる小人の様に、さ迷う様に和歌はひっそりと

夜の繁華街の人混みに紛れ、歩いていく。





もっと先に向かった先には隠れ路地には、

ホストクラブやキャバクラ、ゲイバー、ホテル等がある。


途中、ホストと、ギャバクラ嬢とすれ違った。

繁華街のスカウトマンを見つけては声を掛けられない様に、

ズボンのポケットに手を入れてなるべく据わった目付きで歩く。

まるで話しかけるな、と言わんばかりに。


繁華街のわいわいとした人通り、その熱気は止む事はない。

和歌は繁華街を横目に、時折、キャスケットを深く被りながら

人目を避ける様に、顔を俯かせ片隅を歩いていく。

なるべく、男性の仕草をして周りを欺き誤魔化した。



顔を俯かせたまま歩く中で、

時折に伺える顔立ちは端正で綺麗だ。

ミステリアスでクールな雰囲気は密かに人目を惹かれた。


その姿はまるで何かに追われる者の様に、

反面、何かを見張るスパイの様な姿を連想させた。


けれど周りが思う、

華やかな心情とは違い、彼女は不安と緊張の渦中にいる。

さ迷う様に和歌はひっそりと夜の繁華街の人混みに紛れている小人だ。




(……………怖い)


そんな浮かびかける感情を、

和歌は気付かぬふりをして繁華街や都心の町並みを抜けていく。




繁華街を抜け出すと、都心の下町に突入する。

寝静まり始めた住宅街は、明かりが付いていたり消えていたりと不定期だ。

その蛍の灯火(ともしび)の様な町並みは、絵になるだろうと思いながら


住宅街に突入すると、

和歌はよく後ろや左右の道へ視線を振り向かせるようになる。

静寂な住宅街の中で和歌は何度も前後、左右の道を振り返りながら

和歌はその度にキャスケットを目深に被り直しただ俯き歩く。


警戒心の神経を全身で使いながら、

まるで身を潜める小人の様に和歌は家路に付いた。

マンションのエントランスを通り、6階の奥部屋『水瀬』という表札を見ながら家の中に入る。



部屋は暗闇だ。

広めのフロアは、静寂と暗闇に包まれている。

部屋が暗いという事実はまだ和歌以外、帰ってきてはいないという事だ。


和歌は靴を脱ぐと、和歌は自室に戻った。


8畳の洋室には、

ベッドとテーブルとデスク、小説が並べられた本棚。

シンプルに家具が備えられているだけだ。



キャスケットを脱ぐと、

さらさらのストレート髪ははらりと背中に流れ落ちる。

一つ溜め息を着きながら、和歌は


焼肉店の香りが着いた、男装した服を脱いで、

箱に畳み入れるとクローゼットの奥に隠した。

これは、“バレてはならない”。


シャワーを浴び

寝間着に着替えるとベッドに横たわった。

どっとした疲労感を覚えながら、和歌はつくづく思う。



(…………今日も生きて帰れた)


和歌は、家路に着き

ようやく生きているという実感が持てた。



布団に被り、

和歌は瞳を閉ざしながら闇に溶け込んだ瞬間

疲れからだろうか。不意にうとうととした感覚に襲われ、和歌は眠りに落ちる。





何も見えない、闇の中。


何故か、自分自身は走っていた。

理由は分からない。だが走り出した足は止まらない。

不意に泣きたくなってしまう涙腺の存在を無視は出来ないが、涙を堪えて地を蹴る。



(何故、走っているのだろう?)


(何故、泣きたくなるの?)



けれど、

無性に過緊張と焦燥感に襲われ、生きた心地がしない。

心臓が苦しくなり、心拍数が上昇し胸の苦しさをを押さえながら走り続けている。


やがて走っている中、思い出した。


(…………解った)


無我夢中で、自分自身が走り続けている理由を。


(きっと、“あの人”だ)





「…………………っ」



喉元が絞め上げられる感覚と共に、和歌は目を覚ました。

唸りながら額を押さえながら、上半身を起こす。

過呼吸を整えようとし、心臓が過度に存在感を示しているのを感じながら、和歌は項垂れた。




もう、“あの人”はいない。現れはしない。


現れない限り、

もう縛られる事はないのだから。



そう自身に言い聞かせながらも、

和歌は暫く、生きた心地がしなかった。


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