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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【鳥籠の罪】
48/112

episode46・母親のいる世界 (Waka side)

大変、お待たせ致しました。

続きを待って下さった読者様には、申し訳ございません。




「ママにはね、和歌しかいないの」



自分自身を抱き締めながら、

幼き日に自分自身にそう告げる言葉。それが母親の口癖だった。

優しい母親の事は大好きだった。一人娘という影響もあり

彼女の愛情を誰にも奪われる事はなく独り占め出来ている気がしては

母親に愛されている事を、和歌はひしひしと感じ取っていた。

幼い頃はただ素直に嬉しかった。

けれど。


(どうして、そんな哀しく告げるの?)


母が呟く、その言葉は儚げで

何処か哀しく、和歌の心に強く響いた。

聞こえによっては痛みにも感じて、どうしていいのか分からなくなる。

母親がどうして寂しげにそう告げるのかは、和歌には今でも分からない。


母親はフルタイムで働きながらも、

娘との時間も、決して蔑ろにはしなかった。

遊園地、水族館、様々な場所に連れて行ってくれては母娘の思い出を作ったものだ。




『兄さんと違って私には、和歌しかいないのよ』

『杏子、変わったな』

『兄さんには舞子さんと廉君がいるでしょう?

私は和歌がいればいいの』


兄である颯馬は、妹の代わり様に驚いていた。

妹と一緒に歩いてきた人生。妹いつも素っ気ない。

なかなか笑顔を作る事が苦手だったのに、今では、微笑みが絶えない。


だが和歌という娘を産まれた事で

今は慈愛と母性愛に満ちた、娘以外には

他には目も暮れない。凛としてれっきとした母親は、美しかった。


(杏子にとって、和歌が、幸せの象徴なんだ)



兄である廉の父親に、微笑みながら告げる彼女。

だから。従兄とは言え、廉が引き取られた当初は

母親から分け隔てのない愛情を受けている廉を

羨ましく思って少しの嫉妬心を抱いた程だ。




初めて母親と離れた日は、

憎らしくも、自分自身が拐われた時だった。

記憶は無くとも身体は、苦痛を刻んでいる。


母親から離れた世界は、こんなにも冷たい。

こんなにも冷酷非道な現実に、絶望した瞬間、

自分自身は、母親の温かな箱庭に居て守られていたのだと思い知った。



和歌は、母親しか知らない。

父親が、どういう人間性でどんな人物なのかすら。

写真が一枚とも無くとも、母さえ居られれば十分だった。





“水瀬 和歌”


そう書き込んで、検索ボタンを押す。

しかしヒットは0件。自分自身に対する情報は一つもない。


警察機関には、失踪者としての登録も

情報ビラに関するするなかった。

自分自身は誘拐されてしまったけれども、

和歌の情報が世間に渡っていた事はないらしい。


(……………どうして)


母である杏子に、同時の記憶や状況を聞こうと思っていたが、杏子は娘が誘拐された事に最も傷付き

取り乱していたと、廉から聞いていたので、

大好きな母に辛い記憶を思い出しては欲しくない。

杏子の悲しむ顔は見たくないのだ。



尋ねる人が以上、

自分自身で謎を手繰らなければいけない。

廉から何のメリットがあるのか、と聞かれたけれど

年月が経つに連れて自分自身の当時の情報を知りたくなった。


当時、自分自身の身に何が起こっていたのか。

和歌は心の何処かで、ある確信に辿り着いていた。


(………誰かが、何かを隠している)


(………それは、私が知ってしまっていけないこと)





また傷付くかも知れない。

けれども知りたい。自分自身の身に何が起きたのか。

母を悲しませてしまう結果になるかも知れない。

けれど、誰も口を割らないのならば、自分自身で

調べるしかない。



廉は自室の窓から空を見詰める。

夜空には、星も月もない、濃紺色の無情な空。

何もない暗黒めいた空を見詰めた後に空に

背を溜め息を吐いた。



「………あの事は、言えないよ、和歌」


ぼつり、と粒いた声音。

窓枠に持たれかかりながら、廉は唸り膝を抱えた。








【身辺調査結果】


水瀬 和歌 (みなせ わか)


年齢:22歳

生年月日:19XX年 6月6日生

血液型:AB型(RH:+) 身長161cm


水瀬和歌は母親が転勤族だった。

母親が外資系のキャリアウーマンであり、

幼い頃から日本国内、海外を転々とする生活を送っていたという。


通信制の高校を首席で卒業した後に、

東京都立成銘大学 外国語学部二年回生。


実母・水瀬 杏子 (44歳) 外資系勤務

(後見人・保護者)



喜子は、

冷めた眼差しで、彼女が写る写真を上に見た。

黒髪のロングヘアに凛とした雰囲気に、大人びた端正に整った顔立ち。

深窓の令嬢を連想させる清楚でおとしやかな佇まい。

華奢ですらりとした出で立ちの為は、まるでモデルの様だ。


外交官を多く卒業生に生み出してきた、

東京都立成銘大学は推薦入試で入学する実力派なのだから、

かなり頭脳明晰な事は明白だ。


(…………似てないわね)


最初の感想は、それだった。

母親似なのだろう。しかし、ある事が気掛かりとなる。

気怠く物憂げな表情は、

彼女自身の元々から顔付きなのか、陰りが付いている。


それに何処かでその瞳は虚ろだ。

雰囲気なのか。しかしその意味有り気な、

水瀬和歌その浮かべた顔立ちはとても深層の、

一度(ひとたび)触れてしまえば、逆鱗に触れるものだろうと、

喜子は密かに思っていた。



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