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傷付いた鳥籠が壊れるまで  作者: 天崎 栞
【鳥籠の罪】
45/112

episode43・蘇る不審 (Waka.Ren side)

今まで、

順番に登場人物の心情を書いてきてきましたが

これからはまばらとなります。


主役3人の心の闇は勿論、

物語も動き始めて行きますので

よろしくお願い頂けると幸いです。






誰かに、後を付けられている。



和歌が、そう感じ取ったのは数週間前だ。

過去の経験から和歌の警戒心は人一倍に研ぎ澄まれている。


女性の姿で、夜道を歩くと危ないからと始めた男装。

2度と同じ過ちは繰り返さないと学んだ教訓は

確かに和歌の警戒心を研ぎ澄ましては、何処かで安堵させていた。

女性と悟られなければ、身の危険はあまり及ばない。


怪しまれない程度の変装は、

誰も水瀬和歌とは気付かれなくて、他者に酷く怯える彼女の心情すらも隠した。



数週間前に、不意に気付いた。

誰かに追われ、後を付けられていると。


同じ方向に向かう足音。

それは確実に和歌の歩数を合わせていた。

和歌が立ち止まれば、相手は同じ様に立ち止まる。

また歩き始めれば、相手も歩き始める。


周りを見回すふりをして、見回してみれば

相手は40代半ばのスーツ姿の紳士だった。

和歌の記憶にある限り、記憶にはいない男だ。



だが。


(…………あの人?)


“あの人”と脳が悟り始めた瞬間、和歌は固まった。

優しいふりをして自分自身に声をかけて、無慈悲に連れ去ったあの男。


あの男が現れたのかと思うと身震いがしたが、和歌は否定した。


(まだ、”あの人“が現れる事はないもの)



犯人の刑期は、17年。

まだ8年の刑期が残っている以上、男が、和歌の目の前に現れる筈がない。


それに、


(…………私は、誘拐されていない事になっている)


水瀬家の、和歌だけの秘密だ。

警察機関には捜索願すら提出されていないのだから、

和歌の誘拐されたのは、罪を犯した男の”事後“で片付けられている。

だから誰も水瀬和歌が、(かつ)て誘拐された少女だと知る人間は誰もいない。



「………取り敢えず、送るよ。

何かあったら、伯母さんを悲しませるだけだし」

「………ありがとう」


行こう、と廉は、和歌を連れてバーを出た。



「…………迷惑をかけて、ごめんなさい」

「気にしないで。俺は大丈夫だからさ」


申し訳無さそうに呟く和歌に、廉はあしらった。

和歌の身に何かあれば、和歌の母親_____伯母には顔向け出来ない。

それに従妹は母親が居なくなれば一人になってしまう。

自分自身が和歌を守らなくてはならない、廉にはそんな使命感が備わっていた。


だが。


(和歌を、尾行する人間とは誰だろう)


和歌は、男装等で姿を変えて、姿を偽っている。

その変装は完璧で、誰も水瀬和歌が一人で演じ分けているとは、

同一人物だとは気付きはしない。


だから、誰も知らない筈だ。





繁華街の裏道と言えど、

かなり夜の世界は賑わっている。

金融機関、あまり人目の付かない地下のバー。

居酒屋やポストクラブや、キャバクラ。


表に出る繁華街の裏道として様々な人々が行き交う。

従妹はいつもこの混雑しつつある帰り道を通っているのか。


(随分と変わったものだ)


町も、和歌も。

和歌が一人歩きするまで回復する事は、

皆、未知のものだと思い込んでいる。和歌の母親は特にまだ和歌は此処まで回復したとは知らないだろう。



「バイトのシフトタイムって、いつ?」

「……………え?」


和歌は、ぽかんとした。



「目を付けられている以上、見過ごせない。

バイトがある日は、家まで送るよ」

「そんなの悪い。廉だって仕事で疲れているのに………」

「…………」


そう告げると、柔く睨まれた。


「見過ごせないよ。事が起こってからじゃ遅い。

それに和歌も不安でしょ?」

「…………………」


和歌は、控えめな態度が一変して、彼女は目を伏せた。

確かに得体の知れない人物に後を付けられている今、

胸には不安が渦巻いているのは、否めない。

けれども、それで迷惑がかかるのは嫌だ。


(私って、自分勝手ね)


つくづく自分自身に嫌気が差した。

人には迷惑をかけたくない、巻き込みたくはないと思っていたのに。

誰かの為に始めた筈の行動が、迷惑の形となって来ている。

自分自身が踏み出した一歩が、仇になるなんて。





「この子の、身辺と今を調べて頂戴」



とある夫人から依頼を受けたのは、数週間前の事だ。

夫人はかなり怒の激しい感情を剥き出しにしながら乗り込んできた。

あの形相は今でも脳裏に焼き付いて離れない。


探偵事務所の人間として、顧客のニーズに答えるのが役目だ。

それにこの夫人からの依頼は、決してはね除けられない“大事な依頼”だ。


夫人に命じられた相手は、

とある国立大学外国語学部に通うとある大学生だった。


飾らない自然美の美人。

その大人びた端正に整った面持ちに浮かんだ、薄幸さは神秘的な雰囲気を誘っている。


深窓の令嬢の様な佇まい。

外国語学部の首席の優秀な大学生だという。

容姿端麗ながらも控えめな性格で、決して自身を主張する事はない。







だがしかし。


探偵は、謎だった。

高貴な貴婦人が、縁もゆかりもない、

女子大学生の身辺調査を依頼する等、意外だ。


(これを調べて、何の必要性がある?)


夫人はこの女子大学生に、だいぶご執着のようだった。

包み隠さず、隅から隅まで調べて欲しいと。

それは、何故だろうか。





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